ぽえてぃっく・びれっじ ~うちの学校は秘密が多い~
ぼんびゅくすもりー
第1話 都市計画の目標はよゆうでクリア ~ここはポエティック・ビレッジ高校~
ざわざわ、がやがや……
静かなようでいて、どこか落ちつきがない。
3年A組の教室に微妙な空気がただよいはじめたのは、生徒の父兄の一人目が現れたからだ。
装いこそ地味な色合いの模範的なスーツ姿だが、流しおろされたままの髪は淡い金色で、その瞳は目の冴えるようなセレスティアル・ブルー。
きっちりメイクしているが、それを落とせば、この教室の生徒よりひとつふたつ年が下のではないかと思えるほど若々しく美々しい造作をしている。
「……あれ(って)、誰の父兄? 異様に若くない? おねーさんとか?」
「きれーだねー……。あれは、メイク効果だけじゃないね……容姿だけで生きていけそう——」
こそっと交わされるクラスメイトのささやき——それをよそに、みじんの迷いもみせることなく生徒のひとりに指標を定めたその女は、手のひらを見せるかたちに片手をあげ、指先だけ不規則に動かす所作と笑顔で自身の
どうも
その女のジェスチャーを視界のはしに見ながら、応じることもせずに視線を前方へ注ぎ、片ひじ立てに憂鬱そうな息を吐いている——あの女の息子と思われるのは、その彼。
出席番号9番の
なるほど。
得体が知れぬ奴と思っていれば…——そうだったか。
かすみなりとも、事実関係が見えてくれば、わたしの目はごまかしきれるものではない。
この地に人が集まりだしてから、いろいろ変わったものを見るようになったが、なかなかに見事な
来賓の第二派がやってきた。
今度は、複数でのご登場だ。ひとり、小学生ほどの女児が確認できるが……老若とり混じえた男女7名で……
何名か、それとして見定めたり、異常を察知しながらあえて無視している生徒もいたが、大半は彼らが入室してきたことにすら気づいていない。
青白い表皮に完璧なUV対策をほどこしているやつら眷属は、この土地に、こんなにも
その口もとにはそれを象徴するような鋭い八重歯がかいま見える。
血族なのか、増えた一党なのかもわからないが、誰の親族だろう?
やつらは、敵対者が縄張りをはっていない場所ならどこでも現れる。
上位種は知的で会話がなりたつが、とても気まぐれで危険な存在だ。
それにしても、なにを目的に、ここへ現れたのだろう?
この学園には、彼らと敵対する
最たるところでは、そこにいる白子のような容姿をしたこのクラスの生徒。
生まれたとき、白い羊膜に包まれていたのだろう女子——やつらが現れたとき、誰よりも速い反応を見せながら見て見ぬふりを決めこんだ。
あの子は、クールスニク——やつらと対角にある存在だ。
まぁ、公衆の面前で騒ぎを起こすわけにもいかないだろうからな……。やりあうとしたら、状況にあった駆け引き・場所の選択が必要になってくる。
常人の目には見えない状態で到来したやつらだが、さながら父兄のようなそぶりをみせもする。
わずかばかりの疑問を残すが、相容れないその方面と一時的な協定でも結んでいるのかも知れない。
ざっと見たところ、
あるいは、この教室に、彼らが危険を冒してもつけ狙う特殊な人間でもあるのか?
わからないな……。
まぁ、こんなのは、ここではありがちな不明・情報不足・不可解だ。なやんでも仕方ない。
【ポエティック・ビレッジ】と
近年……といっても、もう、だいぶ前のことになるが、政府が掲げた地域活性化計画のもとに開発された数あるモデル都市郡のうち、廃れることなく生き残った少なき成功例のひとつになる。
都心部に過密集中しがちな人口問題対策にして、それと対をなす過疎に悩む地方との落差を縮小しようと立ちあげられたとり組み。
その多くは失敗におわり、この国は箱ものならぬ、ほぼからっぽの地方都市と、多額の損失を抱えこむことになった。
よかれと思って実行しても、多くの障害・思わぬ盲点が待ちうけるなかに自然災害という不確定要素にも見舞われ、回避不可能といってもいい落とし穴やぬかるみにはまる……
そんなのは、過去の
わたしは、そんな世俗の事情に興味はないが……気が向いたので、少し考えてみることにする。
開発した都市の大多数は、対応手段の迷走と資金難から、大した優遇措置も設けられぬままに放任された。
その土地に住もうとする市民や地方自治体、参入企業の意欲、都合や住人の自立自活能力に委ねられたのだ。
いずれは、なにか再生策を……と支援をつのる一方、方々で方針を練る機会がもうけられているとも聞くが、規模が規模だけに、とうめんは見込みが薄そうだ。
人は、ほど良い利便性と居心地のよさ、利益に
経済の中心地から距離があるとなれば、
維持管理費だけでもばかにはならないし、そこになんの対策も
そんな中に、この街が
この街は、特に効果的な優遇措置もなければ、団体や個人が街の活性化を目指してとりくんでいるわけでもない。
当初は
なぜなら、そんなものはここには必要ないからだ。
現在、この街は、新たに居住区を開発しなければ、住人を増やせないなか、術を持つ者が勝手に土地を開拓して住つきはじめているという、異常な状態にある。
いっけんには他と変わらぬ住宅地だが、移住希望者が絶えないという事態におちいっているのだ。
そうなるに至った理由、ミソは、この
もともと、この地にあった可能性が表に現れただけのことなのだが、ともあれ。
ここに満ちる潤沢なパワーに目をつけ、惹かれて集まりだしたのは、新天地を夢見て求める人間ばかりではなかった。
そして、そういったものには、この地の利以外のものを無視しても問題なしとする存在が少なくない。
とにかく。各方面にちらばり身を潜めがちだったものたちがこの土地の可能性に惹かれ、身をゆだねる住処・根城としたがったのだ。
この地がパワースポット的な変貌をとげてからというもの、移住希望者は絶えず、ここ【ポエティック・ビレッジ】の開発関係者が、当初、大きすぎる目標として掲げていた〝一万人都市〟を
いまでは手続きも住区開発も順番待ちの状態だ。
いっけん閑静なようでありながら、個性の強いものたちが共存しはじめたことで、この人里は非常に騒がしくなった。
郊外の森や公園で、人知れず一戦を
それに誘発され、あらぬものが湧きだしたり、跳びだしたり、飛び散ったり、あるべきものがあるべきところから散逸し、なにかしらが枯渇することなど日常茶飯で……。
わたしからすれば、正直わずらわしいし、迷惑な
はじめのうちは、この上もない憤りと理不尽さをおぼえたものだが……
昨今は、この状況にも慣れ、これはこれでおもしろいと受けとめられるようになった。
あの子が戻ってきて、この地を離れなくても良くなったことは(←世俗のシステムを知らぬものの思い込み)喜ばしいことだし、あの子が寂しいと嘆くよりはずっといい。
いささか、にぎやかすぎる気もするが、わたしは辛抱することに決めたのだ。
少なくとも退屈することはないからね。
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