示現流と竹内流柔術

時は移り、その日の晩のこと。


「天誅でごわす」


 都心に点在するビル数個が入りそうな広さの鎮守の森。


 闇を粉砕するかのように示現巌の剛剣がテロリストを蹴散らしていく。


 彼らは蜻蛉の構えからの一振りで宙に舞い、ライフルを大根のように真っ二つにされ地面に倒れていった。


 余波で彼の胴ほどの太さの大木が切られ、ミシミシと音を立てながら地面に転がる。どう、と大地が震えるほどの音が森の木々に吸い込まれていった。


「示現…… あんた派手すぎい」


 彼のバディであるけばけばしいメイクをした女子、竹内薫。彼女は限界まで丈を詰めた深緑の制服のスカートに包まれた足を組み、ベンチに腰かけていた。


示現巌の立ち回りとは対照的に、彼女は右手でスマホをいじりながら左手を開いたり閉じたりしているだけ。


 だがその傍らでは銃を構えたテロリストが地面に転がり、手りゅう弾を手にしたテロリストが悶絶していた。


 その中には幼い子供も交じっている。


「あ、また新しい投稿~ この人のメイク、ちょーヤバい」


 スマホのミラーアプリで自分のライナーやアイシャドウを確認しつつ、推しのインスタを次々に流し見する。


「なめやがって、このアマあ!」


「あんたらウザ」


 スマホを操作する右手の指の動きは止めず、薫は腰の一尺二寸の脇差を左手だけで抜く。


ミラーアプリで常に確認していた背中からの一撃を難なく受け止めた。


「『美作』」


 薫の可夢偉が発動するや、刀を持った男の手首があらぬ方向に折れ曲がる。


 振り向きざまに折れ曲がった手首を薫はさらにスマホを手放した右手でねじり上げた。


 さらにその場で軽く跳び、体重を利用して関節を一気に極める。


「ぐっ…… 上級国民のイヌなんぞに」


 男は顔をゆがめて悶絶したが、それでも闘志がその顔から消えることはない。

 だが意思に反し、手に持った刀は地面に転がって乾いた音を立てた。


「無駄だしい。手首を極められたら物を握るのは関節の構造上不可能」


足を払って倒した男の肩を峰打ちし、鎖骨を折った。さらに右手で可夢偉を使い、足の関節をヒールホールドに極めて動けなくする。


「あんたもうっさい。推しの動画見逃すじゃん。まじぴえん。『美作』」


 自らに拳銃を向けてきた、まだ年端もいかない子供。右手を空中で閉じ、引き金にかかった人差し指を捻じ曲げる。


「いった……」


 だが薫の予想に反し、子供の指は細かったためか勢い余って指の関節が外れた。


「いたい、いたいよ、ママあ」


 子供の泣き顔に示現巌は眉をひそめるが、薫の顔には何の痛痒も感じられない。


「うっさ。てか、うちらに拳銃が通じないってことくらい調べろって」


 逃げようとする子供を追うために薫は大きく跳躍した。その勢いで後頭部を刀の峰で打ち意識を刈り取ると、拳銃を取り上げた。


「薫。おはん不真面目過ぎんか?」


 愛刀を布でぬぐって鞘に納めた示現が眉をひそめる。


「おいどんたちの仕事は国民の生命と財産を守り、国を安らかにすることでごわす。そんな態度では国民の反発を……」


「あー。ウザイうざい。やることやってんだからいいっしょ。それに可夢偉使いも二人、仕留めたしい。これで特別手当ゲット~」


 スマホで通帳の残額高を見ながら薫は鼻歌を歌う。


「それが、感想でごわすか。子供の骨まで折って、おはん……」


「はいはい。人に拳銃向けてきた時点でそいつに人権はないし。そんな甘い考えだといつか大けがすっよ」


 スマホを深緑の制服のポケットにしまい、薫は金髪をかき上げる。


 その態度に筋骨隆々、角刈りの示現巌は太い眉をひそめるが何も言わない。


 事実、彼女のお陰でこの一帯に巣くっていたテロリストを一掃できたことは事実なのだ。


「あんまマジメすぎると頭はげんよ? もーちょっと肩の力抜いてもよくね?」


 彼らを確保するための人員がパトカーのサイレンを響かせ、近づいてくる。


 薫がいつ連絡を取ったのかすら、相変わらず示現はつかめなかった。



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