第7話 それはメイドだった


 

 感傷にひたり顔の神様。

 俺視点、先ほどの話を要約すると「最近プレイヤーがやる気を出してくれない……そうだ! 常設イベントの報酬で、重周回が必要だけどSSRアイテムと交換できるようにしよう!」と実施した結果、大炎上してしまったソシャゲ運営の告白みたいな話である。

 

 こちらが聞きたかったのは、武器さえ用意できていない状況でモンスター討伐をさせられた理由だ。

 現在のポイントは503。

 おそらく一角兎討伐による3ポイントと初期ポイント500という内訳なんだろうが、どう考えてもさっき話に出てきたSSRアイテムを交換できる数字には思えない。


 つまり絶対俺の聞きたい話と無関係なのである。


「前置きが長いんだよ。もうだいたい予想はついてるから答え合わせさせてもらうが、このポイントを使って今日にでも用意したいものがあるんだろ?」

 

 不老不死なんかの豪華景品よりも手ごろそうで、かつ異世界生活初日からすぐに必要となるもの。

 これで浮かんでくるのは水と食料、休憩用のテント、コンパスとマップ……あと移動用の乗りものとかか?

 

「はあ、情緒のないヤツ」


「失礼な。欠けてる程度だ」


 俺のノリの悪さに口をとがらせる神様を軽口でいなしつつ、さっきの話について考える。

 正直な話、俺以外の転生者は気にかかる存在だ。

 レベルとステータスがあることで、この世界における強さは生きてる年数と直結する節がある。

 

 不老不死の薬を飲んではるか昔からレベルアップを繰り返してきたチート持ちの転生者……そんな化物がもし敵対的だった場合どうなるのか。

 …………。

 クソ、いたら絶対やりたい放題に生きてるんだろうなソイツ……あー、うらやましいな。


「……そんときは棺桶にぶち込んでやる」


「うえっ? ご、ごめん……?」


「ん?」


 たかぶりすぎたあまり口に出てしまっていたらしい。

 ほぼ無表情で放たれた殺害予告には幼女を涙目にさせる威力はあったようで、怯えてあとずさる姿にはさしもの俺も良心が痛んだ。


「そうだ、棺桶にぶち込まれたくなかったらポイントを何に使うつもりなのか正直に話すことだ」


「わ、わかったよ。と、とりあえずキミにはポイントの使用を選択して、一覧を表示してもらいたい(情緒ってそんなにNGワードだったの……?)」


「うむ、よかろう」

 


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

保有ポイント:503


【基礎ステータス強化】

  ├─【Lock.筋力強化Ⅰ】

  |└─【????】

  ├─【Lock.筋力上限解放Ⅰ】

  |└─【????】

  ├─【Lock.耐久強化Ⅰ】

  |└─【????】

  ├─【Lock.耐久上限解放Ⅰ】

  |└─【????】

  ├─【Lock.魔力強化Ⅰ】

  |└─【????】

  ├─【Lock.魔力上限解放Ⅰ】

  |└─【????】

  ├─【Lock.器用強化Ⅰ】

  |└─【????】

  └─【Lock.器用上限解放Ⅰ】

  |└─【????】

  ├─【Lock.敏捷強化Ⅰ】

  |└─【????】

  └─【Lock.敏捷上限解放Ⅰ】

   └─【????】


【魔法習得】

  ├─【Lock.火属性魔法Ⅰ】

  ├─【Lock.水属性魔法Ⅰ】

  ├─【Lock.土属性魔法Ⅰ】

  ├─【Lock.風属性魔法Ⅰ】

  └─【Lock.雷属性魔法Ⅰ】

 

【新規アビリティ習得】

  ├─ 【身体系統アビリティ】─etc.

  ├─ 【生存系統アビリティ】─etc.

  ├─ 【魔法系統アビリティ】─etc.

  └─ 【特殊系統アビリティ】─etc.


【支援物資支給】

  ├─【武器:ノーマル品質】

  ├─【防具:ノーマル品質】

  ├─【サバイバルセット】

  ├─【ポーションセット】

  ├─【希少品】─【若返りの秘薬】

  |      ├【不老不死の秘薬】

  |      ├【レベルダウンの秘薬】

  |      ├【発情の秘薬】

  |      └【賢者の石】

  └─【拠点設営】


 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 

 ――多すぎる……!


 ステータス以上にずら…………っあ、と並ぶ文字列には軽くめまいを覚えるほど。

 もうちょいなんとかならなかったのか。

 アビリティ欄とか数列に渡って延々とのびていく様は文字アレルギーなら悶絶間違いなしのシロモノだ。

 ざっと数百以上に及ぶだろうアビリティ群には【変身:竜種】【未来視】【千里眼】やら、軽くチート疑惑のかかりそうなものも多く並んでいる。

 

 明らかに詰めこめるだけ詰めこんだ感の強い、見やすさという観点が欠如した光景ではある……しかし責めはしないぞ。

 きっとスキルツリーこれを作っていた時の神様はノリノリで書いていたのだろう。

 自分の創る世界に、誰に憚ることもなく趣味全開の設定を追加していく。

 その楽しさは分からないものではなかったのだ。

 四苦八苦しながら、どうにか概要を読み取っていく俺。


「……ロックのかかってるヤツがあるが、これは……ああ、なるほど。こういう感じか」


 試しに【Lock.筋力強化Ⅰ】をタップしたところ、


――――――――

《30ポイントを使用して【筋力強化Ⅰ】をアンロックしますか?》


種別:単一型アビリティ

 

【効果】

・筋力に50の補正

・筋力上限に小補正

――――――――


 ポイントの消費を認証する。

 すると【Lock.筋力強化Ⅰ】があった場所には【Lock.筋力強化Ⅱ】、分岐していた【????】は新たに【Lock.筋力才能値上昇】というのが解放された。

 ステータスを確認してみるとアビリティの欄に、新たに《筋力強化Ⅰ》が追加されている。


「開けたね? それじゃ【支援物資支給】の一番下にある【拠点設営】を取って欲しい」


「ああ……って、これポイント300も取られるみたいだが? 本当に必要なんだろうな?」


 一角兎百匹分、総予算の五分の三をここで吐き出してしまうのは痛い出費だ。

 目移りするようなアビリティが目白押しに並んでいるのを傍目に、果たしてこの【拠点設営】を購入する必要があるのだろうか?

 

 何より五分の三というのが不吉である。

 不吉だ、凶が極まった悪い数字だ。

 具体的には立派なお披露目を果たすもすぐさま手投げ弾で破壊され、炎上し、出落ちになってしまう予感がする。

 安慈、佐之助の頭蓋骨を引き抜いてもってこい。


「うん、必要だよ絶対! 悟はステータスが低いからステータス強化の効果も大きいけどね。日本人がこの世界で不自由なく暮らすなら惜しんじゃダメな投資だよ」


「……そこまで言うならいいぜ、信じてやる。それに、あんだけ気合いの入ったアビリティよりも優先させるくらいだからな」


 神様の剣幕に押されながらも自分なりに納得できる理由を見つけたことで決心がついた。

 だが300ポイントを支払ってから、ふと思う。

 サバイバルセットが30、ポーションセットが50。

 この値段と比較してみると300の対価が組み立てテント一式を渡されて終わりとは考えづらく、それなりに手の込んだモノだと予想できる。


 ならばポン! と立派な家が出現するのだろうか?

 神様にそのことを尋ねてみればニヤりと返された。


「そについては安心しなよ、彼女はプロだからね。ちょっとそのあたりを散歩してる間に完璧にこなしてくれるはずだよ」


 彼女?

 神様の目線に促されて顔を向けた先、ひとりの女が佇んでいた。


「――――――――」


 印象は「美しい」のひとことに尽きた。

 顔の造形ではない。

 言葉を発さずとも感じ取れる視線、表情、顔つき、姿勢、服装、あるいは目に見えないもの、それらすべてにおいて比較しようのない美しさがあった。

 

 青みがかかった銀髪、肌は白くて瞳は赤茶。

 人間かを疑うほどに隙のない鋼鉄の佇まい。

 もし人形が動いたものと言われれば信じるだろう。

 それほどに鋭く怜悧な気配につられて、こちらの警戒心もが無意識に高められた。


 …………だがもしもそんな感想じみた、不要な修飾を多用しないのであれば。

 たった一言でも彼女を形容できる、言い換えれば百人中百人が共通して見て取れる属性がひとつあった。


「設営の手筈は整えてあります。一時間ほどお時間をいただくことになりますので、その間お二人にはこちらでお待ちいただければと思いますわ」


 メイドだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る