30年後の少女
1Q七一(いちきゅうなないち)
30年後の少女
約30年前の日本。スマホどころか携帯電話もまだ一般に普及していない時代です。
バブルという、なんだかやたら日本国中が景気よく、海外のモノを買いあさり、大人たちがのぼせ上がった時代がありました。
しかし、そんなことが長く続くわけもなく、それまで浮かれまくっていた土地成金のおじさんや、お立ち台というフィールドでやたらボディ密着超ミニスカ姿のおねぃさんたちがバブル崩壊というボンビーな奈落の底に一気に突き落とされ、それはもう不況というズンドコの時代に突入してしまいました。
しかし、現在(202X年)より犯罪件数やアウトローのお兄さんやオジサンたちが比較的まだ多い時代でしたが、わけのわからない不法侵入者が学校に入ってきたり、電話でお年寄りをだまして大金を巻き上げたりという事件はないに等しい時代でした。
だからというわけではないのですが、小学生が防犯ブザーを持って歩くということはまだ考えられない今よりわりと大らかな時代といってもよかったでしょう。
そして、ある
ミヨとトシが住んでいた地域は、その頃からすでにしっかり過疎化が進んでいて小学校も中学校も彼らの通う幼稚園も同じ学校内にあり全校生徒は僅か数十人しかいませんでした。
幼稚園児はミヨとトシの二人しかいなかったので、登下校も遊ぶのもいつも一緒でした。
ただミヨには秘密がありました。彼女は人間とエルフのハーフでしかも魔力の持ち主でした。お父さんは人間でお母さんがエルフ族だったのです。
お父さんは平凡などこにでもいるようなゲーム、アニメ、マンが好きの冴えない少年だったのですが、なぜか異世界転生してしまい、そこでなんやかんやあって、ゲームとマンガで得た知識と、よくあるチート能力とやらで、よく言えば個性豊か、ホントのことを言えばどうしようもないパーティメンバーでしたが、その仲間たちの特異な能力や妙な運の良さで何年かかけて魔王を倒してしまい、そのパーティメンバーのやたら喧嘩っ早いツンデレエルフの少女となぜかいい感じになりました。
魔王討伐後、彼はその経験の中から何かヒントを得て、レべルアップで増大した魔力で帰還魔法の実験でなんかやらかしてしまいその衝撃で実験だったつもりが元の世界に帰還してしまいました。その時一緒に魔力を使っていたツンデレエルフも一緒だったのです。
そして二人の間に生まれたのが娘のミヨでした。
ミヨの母親であるエルフとハーフである彼女は耳がやたらと大きいわけですがそれは魔法で誤魔化し、地域の住民も大らかだったため、西洋風の彫が深い顔とやたらと白い肌の見た目の違和感は大して気にしていませんでした。
子供は少ない、老人は多かったりで子供なら誰でも可愛かったのです。
それとお母さんエルフの魔法の力で周辺の地域の人々を軽く洗脳させ、順応するくらいはワケはありませんでした。つまり周りに何気なく馴染むくらいどうということはありませんでした。
ただ一つ問題が。
エルフは歳をとる速度が人間に比べて遅いのです。そして恐ろしく長生きです。
それだけはなんともなりません。
お母さんエルフは見かけは少女でもしっかり歳はとっていましたし(実はお父さんより随分年上)、それは例の順応魔法でなんとかなりました。
背丈や物腰の態度などは大人のそれだからです。
しかし、幼いミヨはそうはいきません。
3歳くらいまでは人間の子供とくらべて同じくらいの見た目に成長しましたが、そこから成長が止まってしまいました。
「おかしいわね?少年期までは一気に成長するはずなんだけど?」
ツンデレ・・、お母さんエルフは首をかしげました。
「もしかしたら、異世界とこちらの世界とでの違いじゃないのか?この世界は魔力というものはほとんど無縁に近いからな」
元ヘタレ・・じゃなく、異世界で(なんとか偶然)勇敢に魔王を倒したお父さんが言いました。
「幼稚園はなんとかごまかせたケド、小学校に行くにはちょっと難しいかも?ねぇアナタ、どうする?」
お母さんエルフがお父さんを見上げるように言いました。異世界に居る頃からこのシチュエーションと美少女ぶりは変わりません。
相変わらず照れ屋のお父さんは、少しドキっとして・・
「そ・・そうだな。時間をずらすしかないな?なにか策を考えよう」
ミヨは結局、しばらく小学校入学はお預けということになりそうでした。
ミヨとトシはいつも同じバスで通学していました。
冒頭でも述べたように、学校は地域に一つしかなくミヨとトシの住む住宅地からはかなり離れていたためバスしか通う術がありません。
ミヨの異世界帰りのお父さんが元々住んでいる所でしたのでしかたありません。
しかし同じ歳のトシが近所にいたことはミヨにも、そしてトシにとっても幸運でした。
ある日トシがミヨに言いました。
「大人になったらこのバスの運転手さんになる。ミヨちゃん、その時はお嫁さんになってね!」
ミヨはそれをいつも嬉しく聞いていました。
どちらも異性はお互いしか知らないので必然的にそうなるだろうとなんとなく思っていました。
それほど二人は気が合っていたとも言えるでしょう。
そして、数年が過ぎ。ミヨとトシは小学校へ上がる年齢になりました。
しかし、彼らが小学校に上がる頃、通っていた幼稚園を併設している学校が廃止されもっと遠い町の学校へ通うことになりました。
しかしやはりミヨはその町の学校へは通えませんでした。
入学式当日、トシはやはりミヨと一緒に行くつもりでしたがミヨは現れませんでした。
どうしてだろうとトシは思いました。
トシのお父さん、お母さんに聞いてもわからないとしか返事がありません。
なによりも彼らは”ミヨ”という女の子がいたことすら記憶が曖昧です。
トシもなぜかそれ以上、聞いてはいけない気がして問うことをやめました。
もしかしたらどこか知らないところに行ったのかな?
でも、そのうちきっと来るよね?
トシは新しい環境への期待と不安でいっぱいだったこともあり、あまりミヨのことは考えないことにしました。
それどころか、新しい環境にすっかり順応し、友達もたくさんできて、いつしかミヨのことは気にしなくなりました。
五年の月日が流れました。
トシは相変わらずいつものバスで町の学校に通っていました。
ある日車窓の外を眺めていると見覚えのある女の子が女の人に連れられて歩いていました。
小さな女の子です。
そう幼稚園に通っていたころ、いつも一緒にいたあの女の子。
彫の深い、ちょっと日本人離れした感のある可愛いあの子。
「ミヨちゃん?」
トシはふいに記憶が甦りました。
そしてその小さな女の子と目が遭いました。
その子もなにか感づいたようでしたが少し気まずそうにプイと横を向くと知らない路地へ、お母さんだかお姉さんらしき人と消えていきました。
しかし嬉しさと同時に違和感が。
ちらりと見ただけでしたが、彼女は5年前と背格好が全く変わっていないのです。
しかしトシはもう年頃の男の子。
幼い女の子よりクラスメイトの妙に大人びた美少女のほうが気になっていました。その時の光景はすぐに忘れてしまいました。
それからさらに数年後。トシは地元の高校を卒業するとなんとか都会の大学へ進学しました。
そして、そのまま都会で就職。
なんとか苦学の末、就職難の最中、並み居るライバルたちを蹴落とし大手メーカーの営業の職に就き意気揚々とがんばりました。
が・・相変わらずの景気の悪さの影響もあり仕事はあまりうまくいかず、結婚もしましたが子供ができず奥さんとはなんとなく離婚。
しかたなく、田舎に帰ってバスの運転手になり安月給でなんとか暮らしていました。
そう、あの幼馴染の”ミヨ”と会えなくなってから30年くらいの月日が流れていました。
苦労したため子供の頃の印象は薄く、顔は年輪のように薄っすらとですがシワが刻まれていました。
ある日、彼のバスに赤いランドセルをしょった少女が乗り込んで来ました。
その顔を見てハッとしました。
見覚えがある!
いっしょに幼稚園に通っていた幼馴染。
・・大人になったらこのバスの運転手さんになる。ミヨちゃん、その時はお嫁さんになってね!・・
いつも嬉しく聞いてくれていた。
あの幼馴染の女の子。
そういえば、同い年の割にはちょっと小さかったよな?
成長したのか?
少し背が伸びて小学校低学年くらいか?
元々彫の深い顔で色白だったからな?
すっかり美人さんだ・・
居ても立っても居られない。
トシはその女の子の面影にあの純粋にはしゃいでいられた子供の頃の記憶を鮮明に思い出しました。
バスはすっかり新しいけど、ボクはすっかりオジサンになっちゃったけど・・
トシはこみ上げる淡く懐かしい気持ちを抑えきれませんでした。
「ミヨちゃん!」
トシは思わずその幼い少女に駆け寄りました。
少女はナニが起こったのかわかりません。確かに私は・・ミヨだけど?
しかし少女の脳裏には盛んに警告音が鳴り響いています。
ナニ?コノオヤジ!?ワタシノミカケガオサナイカライタズラデモスルキカ!?
そして少女はお母さん譲りの気の強そうな怪訝な表情を浮かべると・・
ナメルナ!!
躊躇することなく防犯ブザーに・・
30年後の少女 1Q七一(いちきゅうなないち) @ichiq71
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