第15話 答え合わせ

いつも通りガーベラのカップを傾けて目の前の相手を見つめる

日付としてはミーティとの対話を終えた次の日に当たるだろう

このお茶会を開催するにあたって参加者にはわざわざ時間をとってもらったのだ

4つのカップを並べて私たちはお茶会をしていた



「ねぇ、お義母様」

「なぁに?レディ」

「貴方が私の婚約者をとるようにミーティに言ったのでしょう?お義母様。しかも、わざわざ私からの手紙をロイ様に届けないようにもしていた」

「ふふ、よくわかったわね」



正解よ、と彼女は艶やかに微笑んだ

まるでいつものマナーを教えている時のように悪びれずに、正しい答えがわかったことがただ嬉しいと笑う



「じゃあ、レディ。なぜそのようなことをしたのかわかるかしら?」

「私に公爵家を継がせるため、でしょう」

「正解」

「だから、ミーティをロイ様にあてがった…思えば私の相談に乗っていたのも嫌われるような行動を吹き込むためですよね…」

「あら、心外だわ。少しだけ周りからみられる嫌な行動を教えただけよ」



かわいらしい笑顔で小首を傾げる

まるで無垢のように、でもそれが無垢だけじゃないことを知っている

周囲からの評価を把握して動くのは私の母が一番強いもののそれが半比例して目の前の義母が弱いということにはならない

なんなら、これまで貴族社会の第一線で戦ってきただろう彼女の腹芸を見抜くのはほぼ不可能だろう

今何を考えているのかすら私には判別が難しい

だからこそ、もう一人を読んだのだ

もう一人のお茶会相手、ロイ様にようやく目線を向ける

ロイ様は私の視線に移ったのが嬉しいのか無地のカップを目の前にした状態で満面の笑顔でこちらを見る



「俺としてはレデアナがいいようにしてくれたらそれでいいよ。君がくれる予定だった手紙を後で届けてくれたならもっといいかな」

「内容としては招待状ですよ?」

「それでも。君が俺に使ってくれた時間を、俺が受け取るべきだったものをもらいたいと思うのは不思議なことではないだろう?」

「……後で届けさせます」



正直口で勝てる気がしないため一つ頷いて引くことにした

別に負けてはいない。そう、負けてはいない。絶対に



「今回の件は婚約者すげ替えを狙い、王家に届るはずだった手紙を妨害するなど王家を軽んじると言われて罰を与えられても仕方のないことだと思います」

「そうね。私の首で済めば御の字かしら」

「えぇ。ですがロイ様がこのように言ってくださっているため私の好きなようにしたいと思っています」

「それで、可愛いレディはどうするのかしら」

「何もしませんよ」

「何もしない?」



ここでようやく僅かながら顔が崩れる

自分が無罪放免だという事実に表情がゆがむ

公爵家にも体裁がある、それはこの記憶を思い出した時に一番理解している

だからこそ何もしない



「しません。お義母様はここで私が公爵家らしく罰を与えることをお望みでしょうから。私は何もしません」

「………」

「お義母様が私を公爵家あれと願うのであれば私はそれをする気はないです。そもそも私は王家に嫁ぐ身ですので」

「それでも貴方は今は公爵家の一員なのよ?それなのにしないというの」

「しません。これでも私は結構怒っています」



ミーティが泣いたあの後、話を聞いた

義母が画策した話を聞いて、正直理解はできた

公爵家の人間として下の者にきちんとした対応をしないといけない

いつからだろうか、それでも耳がたこになるくらい聞いたその言葉をミーティが実践できるかと言われたら否だろう

私自身僅かな関わりだが妹はその判断をすることは難しいほど心が優しいと認識していた

それは密接に関わっていた義母もそうなのだろう

むしろ私よりも理解しているのだと思う

だから、立場的には嫁になる私のほうがミーティにとっては良く、きちんと上の者になるという自負がある私が公爵家に収まるべきだと考えた

ただ、一度決めた婚約を変更することは難しいから内側から変化させようと動いた。そんなところだろう

考えも、それに至るまでの経緯も理解はできる

私だって必要となればそんな風にするかもしれない

それでも



「ミーティが愛されていないと感じて泣いていました」

「……」

「私は妹を泣かされて怒っているのですよ、お義母様」



僅かと言わず大きく表情が崩れる

ミーティが愛されていないと思っているなどとは考えもつかなかったのだろう

社交や腹芸が得意といえど…いや、得意だからこそそんな風に思われるとは想像もつかないことだったのかもしれない



「私から求めるのはこんなことをやめてくださいとお願いするだけです。どうか、お義母様。私たちの正しい母でいてくださいね」



そんな風に言って席を立った

ロイ様も遅れてついてくる

隠れていたミーティが不安そうにこちらを見るのを手を振りお茶会場に行くように指示した

誰も座っていなかった葡萄のカップの前に座って話始めるのを後ろに感じながらその場を去る


どちらか片方が贔屓して愛されている

それはない。私たちは平等に思われ、平等に秤に並べられている

きっと今のお義母様ならしっかりと説明してくれるだろう

私はその足で母に会いに行った

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美醜逆転の世界で前世の記憶を思い出したらヤンデレがついてきた!? @hamakinosukima

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