美醜逆転の世界で前世の記憶を思い出したらヤンデレがついてきた!?
@hamakinosukima
第一章 家族
第1話 筋肉って最高です
ガンッ
それは不運な事故だった
公爵家の長女、レデアナ・ユークリフはいつも自分の話を聞いて頷くだけの自身の婚約者が手を伸ばして頭を撫でてきたことに対してまだそんな仲ではないと珍しく気が立っていた
そんな彼女の特徴がユークリフ家特有の苛烈さを表す真っ赤な髪と気の強さが目元に出ているかのような釣り目の深紅の瞳であったがゆえに、普段より苛立った姿は昔から噂されていた小さなミスでも首を命じてくる傲慢な貴族令嬢の姿と重なり、重鎮使用人たちのお嬢様なら多少のミスは許してくれるからという思惑を知らないまま迎えを命じられた新米の使用人が震え上がり丁寧な運転をする彼はいつもよりスピードを出してしまった
そこへ普段から馬車が通るとき危ないからと家の前だけだが石を拾ったりしていた老婆の腰痛が酷くなり石を拾えなかったその日に限って馬がぐらつく程度の大きさの石が道路に落ちていた
だから、彼女は馬車の籠の中で頭を打った
学問や手芸である程度の実力を保有しており、教えた教師からは高い評価を得ていたとしても体はただの10歳の少女。揺れる馬車の中で体を保つことはできずにそのまま頭を打ち衝撃で意識を手放した。
そして思い出したのだ
この世界とは違う貧乏貴族だった頃の前世を
レデアナ・ユークリフではなかった頃のレデアナはサティア・ローレイといった
大きな領地を持っていたがそれは城から離れていたことと、作物が育ちにくい環境だったからであり領民たちは作物が育てられる一部地域に固まって助け合いながら暮らしていた。
それはもちろんサティアの一家も同じようなもので領民たちと一緒に野を耕し食料を分け合って暮らしていた。
しかし、冬になってくると作物がさらに育たなくなるため、領民たちは近辺の領地に出向き出稼ぎまで行っていたのだ。その出稼ぎ方法は何を隠そうローレイ家直伝のトレーニングを受けた騎士たちだからこそできるもの
そう、城から離れているがゆえに自衛を高めないといけなかった彼らはあるものが発達していたのだ
それが、筋力!
筋肉は全てにおいて物事を解決してくれる。食料がなくても筋肉があれば近辺の領地に出向き護衛をしたり野党たちを捕まえて賞金をもらえることができる。
ある程度のテクニックは筋力よりも上とされるがテクニックと筋肉両方あればさらにその上の強さに到達することができる
それが領地を治める一人娘として学んだ一つの指針だった
「レデアナ、大丈夫かい?」
だからこそ、そんな声がして目を開けた時に視界に入った姿にレデアナは驚いた。
目の前の相手が誰だかは勿論理解していた、前世の記憶を思い出したといえど今世が記憶喪失になったわけではない。今までしてきたことも、これまで周囲に感じていた感情も全てとはいわないが記憶できる限りは覚えている。
むしろ、そうであるがゆえに驚いてしまったというのが正しいかもしれない
目が覚めたときに肉で隠された瞳で恐らく真剣な眼差しでこちらを見ていながらも、握りしめていた手を恐る恐る引っ込めた目の前の少年…と思わしき肉だるま。
豪華絢爛な衣装に身を包んでいても正直太りすぎていて毛布を被っていてもその姿から受ける印象は変わらないようにも見える彼をそこまで太らせたのは何を隠そうリデアナ自身である
第二王子である彼をせめて王位をつげないならば好みの外見にしようと骨と皮だけだった彼に私財をなげうってまで食事をさせここまで育て上げた。正直出会った頃よりは健康的になっているとは思うしレデアナの今までの感覚ではまだスタート位置についたばかり程度だがサティアの記憶が戻った今となればこれはあまりにも太りすぎている
自分から進んでこの姿になっているとすれば百歩譲って理解できるが、何せこの目の前の少年は私財をなげうってまで食事を提供したレデアナのことを女神か何かのように思っておりレデアナの好みになろうとしてこの姿になっているのだ
それで早死にさせようものならあまりにも申し訳なさ過ぎて胸が痛い
「レデアナ?もしかして、僕を見て気分が悪くなってしまったかい?ごめん、すぐにでもレデアナの父上を呼びに行ってくるよ」
「え、ま、まって!違うの…、別にあなたを見て不快になったわけではないのよ。ロイ。貴方がいてくれてうれしいの」
黙っているばかりのレデアナに自分を見て気分を不快にしてしまったのかと気をつかった少年が伏し目がち…目元が見えないのでおそらくが付くが…に立ち上がろうとした手を思わず握りしめた
前世と混ざり切った自分だから言える言葉であり、今世の価値観だったら絶対に思わない言葉を口にして相手の反応が怖くなり握りしめた手ばかり見てしまう。
正直不健康そうな今の姿が好みのタイプかと言われればそうでもないとすぐに否定できる。
筋肉がついた健康的な体が一番の好みのタイプだ
筋肉は裏切らない
筋肉こそ至高
ただ、浮気することこそがステータス。夫人は第三婦人まで持って一人前、と言われるこの世界の常識の中で女神として見てくるのは行き過ぎだが一途に自分のことを思ってくれる婚約者は得難い存在であることは確かである。前世で趣味もあったが生きるために騎士を育成していたサティアに女の子らしくないから婚約を破棄してくれと可愛らしい女性の腰を撫でながらいってきたあの最低な婚約者よりは確実に好ましい人格であるのだ
こうやって自分の気分を気遣ってくれる目の前の彼を大事にしようと思う気持ちは嘘ではない
「…よかった。レデアナ、ありがとう」
ロイが両手を恐る恐る握りしめてくれる。柔らかい言葉に安心したように微笑んでいるのが分かる
こうやって育んでいくことで彼との関係も愛情も深まって……
そう思いながら目の前の彼の目を見ようと顔を上げて肉だるまの姿を見て思った
いや、肉だるまはないわ
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