刺したい背中

@Frng_Weavr

第1話

 みんな死ね、以外の感情がない。

 どいつもこいつも友達がいて、恋人がいやがって。恋人がいるってことは顔が整っていて、友達がいるってことは性格が良いってことじゃねえか。死ねよ。当然両方いない小学生のころからいじめられてる底辺ゴミカスキショ陰キャに「たのしい人生」なんてものは望むべくもない。みんな死ねよ。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。だいたい、大学中退してる時点で人生詰んでる。高卒にまともな仕事なんてない。恋なんてできるわけがない。金と恋愛できない人生\(^o^)/オワタ どこで人生間違ったんだか。生まれたときから間違えているような気がする。そもそも中流階級が子供なんてつくるべきではないのだ。だって子供が学校でいじめられても転校できないし、大学で教員からパワハラ受けても大学受け直すなんてできる訳がない。金がないからおもちゃを買ってもらえないし、両親は共働きだから会話の仕方なんて学ばなかったし、延々と一人遊びしてるゴミみたいな幼少期を過ごした。小学校でも泣き虫でバカの俺は当然のごとくいじめられ、そんなときは教室を抜け出して下駄箱がある昇降口でひとり泣いていた。そんなとこで泣いても親なんて来るわけないのに。ちな小学校は学級崩壊してたからいじめなんかに向き合う先生なんていなかった。小学校のときは泣いていた記憶しかない。中学校でも小学生のころの同級生がいるので文房具を破壊される、殴られる、靴に画鋲が入ってるなんてザラだ。高校では「もう人間関係やってらんない」って思って人と関わらず休み時間はいつも寝てたっけ。大学の第一志望は、話したら笑われるくらいレベルの低い地方国公立に進学した。どうレベルが低いかって? まず教員のレベルが低い。授業の大半は最近車買ったとか、旅行先で飲み食いしたものの自慢とかで潰れるのはまぁ良い。問題はこっちに攻撃を仕掛けてくるタイプの教員もいるってことだ。何か発表するたびにクスクス笑う。俺は人前で喋るとどもるんだけど、どもる度にこちらに聞こえるようにクスクス笑われた。教員が近くを通る度にわざとらしく俺の座ってる椅子を蹴ってきたときは、ノートに手書きで板書してたから、書きづらくてまいった。つぎに生徒のレベルも低い。オタクみたいなファッションしてるやつは大声で笑われる。講義の最中くっちゃべってる。つぎにサポートのレベルも低い。カウンセラーに相談しても「それよりもウチの子が〜」と床屋談義ってな具合だ。そんな生活が続き、精神にガタがきたのか俺は授業を休むようになった。一度休むと、堰を切ったように他の講義でも休むようになり、最終的に退学になった。留年できる金は持ってない。最初は高卒でも働けるような仕事を探していたが、安月給、夜勤強要、長時間労働ってなもんで長くは続かなかった。ここで俺は精魂尽き果てる。借金も人生もどうでもよくなり、親のスネをかじってニート生活をやっている。ニート生活ってのは気楽に見える。しかし気楽に見えるだけだ。ニート生活は常につきまとう将来の不安をどう「見なかったことにするか」にかかっている。これができるかできないかがニートの才能を決める。まず目覚めるのは12時以降なのがニート。だって規則正しくしてても何も面白いことないから。夜ふかしを思う存分楽しんでから明け方就寝する。んで、目覚めたらブランチと称してご飯をいっぱい食べる。確実に太るが、底辺カス高卒弱者男性の体型なんて気にする人はいない。むしろ働いてない分、食費を切り詰めるため如何にして少量のものでカロリーを稼げるかに重点が置かれ、食事はマヨネーズが主食となる。ごはん+卵+マヨネーズ。食パン+マヨネーズ。ものすごい勢いで太る。1〜2ヶ月で10〜20kgとか太る。なんの話してたっけ? ああ朝食の話か。食べたらカロリーの飽和で血糖値が上がり、だんだん眠くなる。眠くなるまでゲームしてまた眠る。目覚めると夜の7時らへんなので冷蔵庫から唐揚げをチンしてカップ焼きそばを作って(当然マヨネーズをかける)、それをつまみに安酒を飲む。度数は高いほうがすぐ酔える。度数が高くて安い酒が好きだ。ウォッカ、ジン、焼酎……。味なんて気にしない。呑めればいい。酔うための酒だから。そして眠剤と酒のダブルパンチで気絶して就寝。これが俺の生活になる。性格が終わってるのでネッ友はできない。恋人も当然いない。そうなると飯、酒、眠剤、睡眠が友達となる。楽しいとか楽しくないとか関係ない。全ては現実を見ないためにやる儀式だ。そんな生活を送っていると昨日なのか今日なのかわからなくなり、一ヶ月が気づかぬ間に過ぎ、気がつくと一年経っていた。そんな生活をしていたら26になっていた。なんでも、就職は25歳までにしてないとヤバいらしいと、社会にまつわる全てを遮断していた筈のネットから聞こえてきた。じゃあ、もう終わりってことじゃん。あはは、早いな〜 今年でニート生活何年だっけ? 6年!?実感ないなー(笑) まあ、実感しないように極力日付とか見ないで生活してたから当然か(笑)わらうしかねェや。いままで何かやってきたっけ? ニート生活にチカラを入れたことは、通称ニーチカはなんにもない。そもそも何か一つのことを精力的にできるだけの精神力があったらニートなんてやってない。ニート生活はあらゆる物事からの逃避だ。そんなことをぼーっと思っていると、ガチャ、と玄関から音がした。それと「ただいまー」との声。そういえば弟が学校から帰ってくる時間のような気がする。煙草が吸いてぇ。ベランダに出る。ベランダは夜風を優しく流しながら月の鑑賞劇場と化していた。つまり月の夜であった。スマホをみると11月らしい。もっとも世界時計が4月でも驚かないような、暖かな夜だった。月を眺めながらアメリカン・スピリットに火をつける。アメスピが500円超えたら煙草やめようかな……。なんて思っていると背後からガララとベランダの勝手口を開ける音がした。思わず振り向くと、そこには弟がいた。高校から帰ってきたばかりの弟。こんな時間に来るとは思わなかったし、ニートになってから一度も顔を合わせたこともなかった。弟は何か思い詰めてるようだった。とりあえず俺は口を開く。

「……どうしたの?」

「兄ちゃんはさ、なんでニートやってるの?」

 なんだよ。人がせっかく煙草でいい気分になってるってのに。水を差すなよ。

「お兄ちゃんはね、生きるのに疲れちゃったからニートやってるんだよ。命ってのはね、消耗品なんだ。だから命を削るような真似はしないほうがいいぞ。でないとお兄ちゃんみたいに26で息切れを起こすことになる。」

「……もう働けないの?」

 なおも聞いてくる弟。まじでめんどくせ〜。早く終わんねぇ〜かな。

「働くってのはね色々大変なんだよ。人間関係とか仕事効率とか、いろいろ。お兄ちゃんには適応できなかったんだよ。ほかに聞きたいことある? お兄ちゃんは煙草吸いたいから邪魔しないでね」

「……うん」

 そういうと弟はベランダから出ていった。今日は月が綺麗だ。月が綺麗ですね、って言われたらどう言い返すのが正解なんだっけ。全然覚えてねー。あー。さっきの会話のせいで現実思い出しちまった。最悪。忘れないと。そういえば×× ××って彼氏いんのかな。いたらその彼氏うらやまし〜。×× ××と毎日交尾できるってことじゃん! たのしそ〜。俺も×× ××舐めたいな〜。なんて思いながら勃起してたらまた勝手口が開く音。うざ。振り向くのも怠いので月を見ながら話しかける。

「どうしたんだ〜?金ならないぞ(笑)」

「兄ちゃんはさ、病気なの?」

またどストレートパンチ。少しでも現実逃避するために景色に集中しながら答える。

「病気じゃないよ〜。病院で検査したけどどこも異常なかった。ちなみにIQは97。ぎりぎりボーダーには乗ってる。」

「そうなんだ。」

「……。」

「……。」

「……ごめんね、兄ちゃん。」

 ? と思う間もなく背中に激痛が走った。燃えるように痛い。その痛みが背中→腹と連続して続いてる。刃が背中から抜かれる。くぉぉぉ。バカいてぇ。必死にベランダの手すりにしがみつくのがやっとだった。また刺される。刺される。刺される。刺される。刺される。刺される。徐々にしがみつく腕力が拔ける。野郎、入念に刺すじゃあねぇか。倒れる。なおも背中を刺される。痛い痛い痛い。もう死ぬって(笑) いや、どれくらい刺したら死ぬかわかんないから滅多刺しにするのか、と頭のなかのもう一人の俺が冷静に分析する。背中の痛みと吹き出す血の温かさで頭がいっぱいになり、気がつくと視界が真っ暗になっていた。カキン。金属が落ちる音。包丁を捨てたのかな。目を開けてるのに見えないや。おーい。振り絞って声を出すが、出ない。おーい。声がでないのか耳が聞こえないのかわからない。もうなにもわからない。こういうとき、なんていえばよかったけ? あぁ、「ナムアミダブツ」か。ナムアミダブツナムアミダブツ……ナムアミダブツナムアミダブツナムアミダブツナムアミダブツナムアミダブツ……。

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