第91話 101話 トカチのチカラ
101話 トカチのチカラ
「進、どうやら君を買いかぶっていたようだ。早く消しておくべきだった。せっかく沢山金を巻き上げていたのに、もう出来なくなったじゃないか。どうしてくれよう。許すのは止めだ。貴様には死をくれてやる!!」
現れたナッツは俺に対して物凄い恨みを持っていた。
俺がナッツの作り上げた集金システムを壊したのだから当然のことであった。
その怒りは凄まじい魔力でわかる。
見ていた者は怖がって避けるように安全な場所まで離れていった。
そしてナッツは突如として武器を作った。
それは弓であった。
聖なる光にも思えるほどに、輝く湾曲した弓。
弓矢を一本合わせると、光の如く一直線に飛んできた。
弓矢の飛んできた方向に居たのは俺だった。
速さが俺の避ける速度よりも上であり、矢の先が胸に突き刺さった。
「ぐわぁああああ!」
「進!!!」
突き刺さった瞬間に死を直感する。
激痛なんてものじゃない。
呼吸すらまともに出来ないほどに痛い。
ナッツがうっすらと笑っているのが微かに見えたら、俺は後ろへと倒れる。
シュナリが真っ先に俺を支えていくれた。
さすがに反応速度はいいのが、シュナリの特技で感謝する。
チュは弓矢を引き抜こうとしてくれた。
「ナナナナナナ、ナッツ!!!」
トカチの声。
その声は怒りに満ちた声だった。
地響きかと思うほどに凄まじい魔力量がその場を包んだ。
「ほう、誰かと思えばトカチだったか。仮面を取ったら魔族だったとはな。魔族のトカチさんよ、俺にそんな口のきき方していいのかい」
「進君にしたことを後悔させてやる!!」
「出来るかな。もし俺に危害を加えたらお前は即座に国王軍全軍から攻められるだろうよ。正義のナッツ様を傷付けた悪党として、世に名を馳せる。まして正体が魔族なら尚更放ってはおけない。魔族は国王軍の天敵なのは知っておるだろ。だからお前も姿を隠していた。目立たないようにして。ハハハっ、今なら許してやるぞトカチ。土下座して俺に忠誠を誓え。今まで通りに献金しますと言えっ。ハハハ」
ナッツはトカチに恐喝するようにして言った。
確かにナッツに対して牙を向ければ、国王軍が黙ってないのは決して脅しではないのだろう。
それはトカチもわかってる。
わかっててナッツと向き合ったのだ。
わかっていても俺にした行為を許せなかった。
「止めろ………トカチ」
俺は気持ちは嬉しかった。
けどもナッツは絶対にトカチが手を出せないのをわかっている。
手を震わすトカチが見えた。
その気持ちは嬉しかった。
でもその気持ちだけで俺は十分だ。
「いいえ、私は進君の嫁として立派に騎士団長をまっとう出来るのをここで証明します。それが進君のしつけなら!!」
トカチは両手剣を持ちナッツに突進していく。
ナッツはまさか……といった顔に。
「正気か! 国王軍を全て敵に回すぞ!」
「進君の、しつけよ!」
弓矢をトカチにかざすと、何本も放った。
瞬速で矢は向かっていった。
だがトカチは慌てない。
両手剣で全ての矢を蹴散らした。
「まさか……。俺の矢を。化け物か……」
「失礼ね、化け物て!!」
ナッツの化け物のひと言は余計なひと言であった。
魔力量を更に増やしただけであったから。
両手剣が炸裂した。
弓は真っ二つに斬られて、ナッツは胸を真横に斬られる。
「ぐわぁ!!」
「進君にした痛みをナッツ、あなたにも!」
ナッツは胸をザックリと斬られると、その場に倒れた。
「まさか……俺を斬るとは。済まぬ、今までの金は返す。どうかこの話は内密にしてはくれぬか……」
「要らぬ。ナッツをひっ捕らえろ!」
トカチが叫ぶと新しく騎士団になった元団員は、縄で手を縛り付けた。
観念したのかナッツは抵抗することはなかった。
「頼む助けてくれ。俺が国王軍に渡されたら、大変な目にあっちまう……」
「まぁ処刑か、よくて牢獄か。楽しみだな」
トカチには助ける余地はなかった。
その顔を見て逃げ道は無いことを察したようで諦めていた。
「……」
「矢は脱いたぞ。回復魔法をかけておくからな」
「ありがとなチユ」
「良かった、生きてて」
「シュナリ、簡単に殺さんでくれよな」
「……はい」
シュナリは涙を流していた。
俺の声を聞いてホッとして流れたのだろう。
「ナッツは捕らえたぞ進君……」
トカチが心配そうに寄って来る。
飛んでもない強さであった。
けっしてナッツは弱くないし、多少は油断もあった。
しかしトカチの強さはその遥か上をいっていた。
ナッツの想像よりも遥か上を。
こんなの嫁にしてしまったのを考え直したい気持ちに駆られた。
大丈夫なのか俺はと。
胸を見てしまっただけで婚姻を迫る方も迫る方だが。
ナッツはこの後はきっと後悔する人生になるのだ。
国王のいる王都に運ばれるとしたら、恐怖なことになるのだろう。
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