第88話 98話 胸が……。


98話 胸が……。

 トカチは怒りを発散させるようにして魔力を高めた。


 


「どうしたらいいの?」




「チユは俺の背中に隠れてろ」




「うん」




 ここに居る全員を皆殺しにでもする気か。


 だが俺にはもうトカチに対抗する力は無くなった。


 残念だがここまでか俺の運も。


 諦めかけたその時に異変が起きた。


 トカチの大きな巨乳を包む服。


 ブラのような服が突然ちぎれたのであった。


 切れたとなるとどうなるか。


 当然におっぱいが見えてしまうのは、自然界の法則。


 


「!!!」




 見ている者、全てが息を飲んだ。


 トカチの胸に視線が集中すると本人もやっとのこと視線を理解した。




「………………。み、見たわね」




 トカチは慌てて両手で両胸を隠した。


 隠しても手で隠せないほど、余りある大きさではあるが。




「見えちゃったのだから、謝るよ」




「見えちゃったで済むと思って?」




 大事な物を見られて火に油を注ぐ結果になった。


 怒りは増大していく一方だ。




「土下座するから静まるんだ」




「土下座で済むものですか。私のアレを見たからには……責任をとってもらいますから……」




 怒りを爆発させるのかと覚悟して聞いていたら、トーンは落ちていき何やらモジモジと話し出す。


 ほのかに顔は赤く染まって、恥じらいすら感じさせた。




「責任って言われてもな。どうしていいやらわからないですけど」




「見られた男には……私はあなたの嫁になります……」




「えっ!! 嫁って、いきなり結婚ですか?」




 嫁と言えば俺とトカチが結婚して嫁になることだ。


 まさか魔族の女の子から結婚を申し込まれるとは思いもしなかった。




「もし、断ったら……怒りますかね」




「当然です。魔族の私はアレを見た男の嫁になると決めていたの。だから今まで誰にも見せなかったし、かたくなに守ってきた。それは全てこの日の為。進、進こそ私の運命の人。いいですよね?」




 トカチは俺に急接近してきて婚姻を申し込んで、いや押し付けてくる。


 魔族のくせにといったら失礼だが、案外ピュアな気持ちを持っている女の子のようだ。




 断わろうにも万が一怒り出したら、手に負えないだろう。


 ならばここはトカチの申し出を受けて俺の嫁になってもらうしか手がない。


 それがこの場を安全に収める方法である。


 


「トカチ……。俺の嫁になってくれ」




「……はい。今日から進の嫁になります」




 トカチは俺に抱きついてきて、喜びを表現した。


 とても迫力のある胸に戸惑う。


 


「おめでとう! 魔族を嫁に持つなんて中々出来るものじゃないぞ」




「う、うるさいチユ、完全に馬鹿にしたろ今っ」




「馬鹿にはしてない、ただ心配して言ったのよ」




「心配だと……」




「そう、だってこんな抱き合ってるところを……見られたら」




 何か意味深な言い方。


 こんな場面を……。


 まさか……まさか……そのまさかだよな。




「ち、ちょっとご主人様っ。私の居ぬ間に何をされてますの?」




 この状況で突然にシュナリが現れたのだった。


 苛立ちが声でわかるほど、感情が出ていた。




「いやいや、違うんだ。決して俺は悪くないぞ!」




「誰よあなたは、と思ったらシュナリさんかしら。あなたが怒ってるのは私が進と結婚したからかな?」




「け、け、結婚? それに誰かしら、けしからん女は」




「この子はな、シュナリもよく知ってるトカチさ」




「トトトト、トカチ! そんな、女だったとは侮れない奴だわ。とにかく離れてもらうわ!」




 シュナリは近くに来るとトカチを引き離そうとする。




「うーん何よ、進との仲を邪魔しないでよね」




 トカチはそう簡単には離れない。


 そうこうしていると、二人は争いになっていた。


 それも俺を取られたくないとばかりに。


 こうなったら始末が悪い。


 もしトカチが一緒に冒険をしたとしよう。


 シュナリは黙ってない。


 俺の嫁など絶対に認めないはずである。 


 結婚してしまったのは事実であるから、離ればなれにしていると今度はトカチが黙ってない。


 他にいい方法がないか少し考えた。




「進も大変だ。モテすぎるのも忙しいな」




 俺が困っているのを見てチユが言った。


 皮肉たっぷりに言ったものだが、俺は笑えなかった。


 いつの間にか町の獣人達と団員は、この騒ぎをききつけて集まっていた。


 そしてトカチの正体を知り大騒ぎであり、いったいこの町はこの後どうなるのか、今までのような扱いを受けるのか、それとも別の生活に変わるのかの将来を描けていなかった。


 不安と希望が混在する形で俺に視線が注がれていたのを知ると、何とかしたい、この町を変えたい、俺ならそれが出来るのではと考え始めた。

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