第86話 96話


96話 

 二人の警備団員は歩いて牢獄まで行っていたのを、気づかれないようにして俺も行く。


 二人が止まった先には確かに格子されていて出れないようになっている牢獄であった。


 警備の衛兵は格子の前で話しかける。




「チユちゃん、ご飯ですよ」




「えっ」




 この声はチユに間違いない。


 驚いた様子であるのがわかった。


 じっと待ってるしかないが、助けないと不味いな。


 俺は直ぐ近くに居るのに助けられない自分に苛立ちを感じた。




「ほら、ご飯だ」




「ありがとうございます」




「おっと、まだダメだな」




「どうして? 私のご飯でしょ。勿体ぶらないで早くちょうだいよ」




「そうはいかない。ご飯はあげる。ちゃんとあげる。ただしその胸に触らさてくれたら、あげるよ」




 衛兵はご飯を餌にチユに胸を触られせる策に出た。


 ご飯を前にすれば簡単に触れるだろうという魂胆だ。


 なんてあくどい奴らなんだ。


 今すぐにでもぶった斬ってやりたいが、じっと我慢した。




「はぁつ? 何を言ってるのですか。そんなの許されるはずないわ。ここを出たらあなた達のことを密告するわ。そしたら首よ、いいの?」




「首だって俺達がか?、んなわけねぇだろ、わかってねえから教えてやるよ。チユちゃんはここから一生出られないんだよ」




「……嘘よ。嘘に決まってるわ」




「本当だよ、だからさぁ胸を出してみな」




 男が牢獄の扉を開ける。


 牢獄の中に手を入れて触ろうとした。


 スケベ心丸出しである。


 そこでチユは男の手をくるっとひねったのが見えた。




「痛ててて。何しやがる!」




「この野郎、生意気な女だ。無理矢理でも触ってやろうぜ」




「きゃあー」




 手を出したらチユに痛い目にあわされ強行策に出てきた。


 男が二人してチユに襲いかかる。


 できれば手出しはしたくなかったが、危ない場面ゆえにやるしかない。


 ゆうちょうなことは言ってられる時間はないのだ。


 すぐさまエアロードを作り後方に近づき背中を斬りつけた。


 エロしか頭に無いからか俺の存在に全く気が付かない。


 アホめ!




「うわぁ」




「誰だてめぇ!」




「知る必要ないっしょ」




 苦しむところを更に斬りつけトドメをさした。


 衛兵失格だなコイツラは。


 でもこの衛兵のおかげで救えたのもあり有り難い部分もあったので死んだ衛兵にはお礼をしておいた。




「進か!」




「もう大丈夫だよチユ。ここは危ない俺もトカチに消されるようだから、早急に逃げ出すぞ!!」




「シュナリは?」




「どこにいるか、わからないんだよな……」




「私も知らない。でも置いてくのは反対」




「置いてくわけないさ。必ず三人一緒にだ。とにかくここは脱出しよう」




 チユの確保は出来た。


 後はシュナリなのだが、言われた通りに居場所は不明なまま。


 もちろんGPSなんて物は無いので居場所の特定は無理だ。


 見つからないように走って出口まで行った。


 このまま上手く逃げ切りたいと思った。


 


「あそこが出口だな。衛兵がいるぞ」




「うん。どう説明するかなぁ」




 警備の衛兵が俺を見るなり怪しんだ。


 やはりおかしいかな。




「あの、一緒にいる獣人はどうしましたか?」




「焼き鳥を渡したら、くれたんだ」




 かなり無理があるか。


 行きの時には無理も通じた。


 同じアホっぽい衛兵だ。




「そうですか……。お通りください」




「どうもな」




 アホな警備で助かった。


 とりあえずトカチには捕まらず済んだ。


 後はシュナリを見つけて脱出するだけだ。


 急ぎ足で町の中を徘徊して探して回る。


 


「見かけないところを見ると住居の中に居るのかもな」




「住居なら見つけるのは至難」




 チユは息切れしながらも左右を見渡す。




「……」




 探していると時間が立ち、すでに俺達のいぬ間にトカチ邸内は騒ぎになっているだろう。


 作戦としては失敗となったかもな。


 シュナリの居場所も知らずに強行的に行動を起こしたのが裏目に出てしまった。


 辺りは通りで一通の通りに来ていた。


 そこへタイミング悪く、通りの両側からヨールとギュウが現れ挟まれた。


 


「げっ進。ヨールとギュウよ、どうする?」




「へへ、最悪だよな。どっちにも逃げ場ないし」




「……」




「バジリスクしかないな……」




「そうだわね」




 二人は俺達を発見して近寄って来る。


 観念しろと言いたげだ。




「進よ、団員を斬った罪は重いぞ」




「やはり怪しいとは思っていた。あの程度でブロンズ騎士団はなかろう。全ては嘘だったわけだな。この際二人とも斬り捨てていいといわれたんで、手加減せんぞ進!」




 俺を殺す気満々であった。


 一切の手加減などしないぞっていう目で迫ってきた。


 まさか二人同時とはな。


 ひとりずつ倒せればと思っていたけど、思った通りにはいかないものだ。


 もうバジリスクに頼るしかこの場をしのぐ方法は無い。


 砂丸腕輪からバジリスクを呼び出す。


 バジリスクの準備はオーケー。


 後はこいつらクラスに通じるのかどうかだ。


 迷宮のボスには通じた。


 だが強さはこの二人よりも格下だろう。


 つまりは斬ってみないとわからないレベルの相手だ。


 ギュウが大きな斧を持って来た。


 体格がいいだけに力はありそうだから斧か。


 あんなので斬られたら……ゾッとした。




「ふん、俺の斧で真っ二つにしてやるよ」




 言うとおりに、斧を振り上げる。


 軽々と持ち上げやがった。


 やはり力はあるな。


 剣でぶつかり合って競い負けたら終わりだ。


 一発目の振りで決まるな。


 ギュウの斧が振り下ろされる瞬間にバジリスクを振った。




「あれ? ギュウよ……」




 振った後にギュウは斧を地に叩きつけてピクリとも動かない。


 絶命していた。


 その様を見たヨールは何が起きたのかわからないようだ。




「何した進よ?」




 答えるよりも先だった。


 ヨールは地面に倒れ赤い液体が大量に流れ出る。


 ヨールも同じように絶命していた。


 結果的にはこの二人にも威力を発揮していた。


 まだ余裕かある気もする。


 どこまでの相手なら苦戦、または効かないのか。


 あまり良いことではないが、その答えは直ぐに試せそうだが。




「進! すごいぞ。二人とも死んでるじゃないか」




「まだ気を許すのは早そうだぜ」




 二人は亡骸になったが、その後方には大勢の団員が待機していたから。


 二人の死体を見て驚愕していた。

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