第82話 92話 進の評価
92話 進の評価
進がアヤカタとコーヒーを飲んでいる頃、トカチは部屋に居て座っていた。
前には側近であるヨールとギュウの二人が座ってトカチの話を聞いていて、他は誰も居ない。
「ここに呼んだのはチユの件であるが、進とシュナリについてだ。お前達二人から見て何か思ったことはあるか?」
トカチが確かめるようにして言った。
側近二人を前にしても仮面や鎧は装着したままである。
どこに敵が居るかわからないのだと聞かされていた。
「進に関しては見たところ大した戦力にはならないと思えました。剣の技量、体の受けこなし、どれを取っても素人の冒険者でしょう」
ヨールは決闘を見てひとつ気になっていたが、あの場では言えずにいたため今トカチに言ったのだった。
ごく普通。
何の取り柄もない冒険者と判断した。
「進は本当にブロンズ騎士団の冒険者なのでしょうかな。胸には紋章を付けているが、とてもブロンズには見えなかった。レベルだって一ケタでしたし」
ギュウもまた進がブロンズなのを疑問に思っていた。
シュナリとの決闘での剣技を見定めて、不思議に思えた。
自分なら一撃で殺せる相手だと。
見るべき物はなかった。
「進は嘘をついてブロンズだという理由はなかろう。次から迷宮に行く際にサラクイに任せておけば良い。迷宮で死んでも構わない。それよりもう一人のシュナリは使えそうだからヨールの配下にする」
「進は放っておきます。シュナリに関しましてはまだ若いのに体術に優れていて、見ていて楽しめる素質がありました。鍛えれば戦力になるかと思います」
「うむ、時間がある時は剣技の訓練を行ってやれ。まだまだ伸びしろがあるのは間違いない」
トカチはシュナリを高く評価していた。
それ故ヨールの軍にシュナリを加えさせて迷宮にいかせようとしていた。
「チユはいかがしましょう。迷宮に連れて行きますか?」
ギュウがチユの扱いについてトカチに尋ねた。
以前は後方での回復要員として迷宮に行っていたが、今のチユには信用がおけない。
判断をトカチに仰いだ。
「チユは一度裏切ったことに間違いない娘だ。しかし回復魔法の使い手は貴重な存在なだけに必要だ。また逃げ出す可能性もあるので、我が家屋の牢獄に閉じ込めておけ」
「即座に牢獄に放り込んで置きます、ご安心を」
ギュウはトカチの命令を受けて嬉しく思った。
尊敬するトカチに何とか認められたいという気持ちからである。
なのでチユを牢獄へ打ち込むのに、何のためらいもなかった。
進に関してはサラクイに任せておけば良いと思った。
どうせ次の迷宮で死ぬだろうと。
ヨールとギュウは話を終えて部屋を後にした。
緊張感で手に汗をかいていた。
それほどまでに二人にとって偉大な団長であり、命令は完全にこなす自信もあった。
「明日の迷宮の件は決まったな。討伐すればトカチ様はお喜びになられる」
ギュウが歩きながら思いを込めた。
「情報では次の迷宮の魔石は大変重要な魔石だと。その魔石を持つものは魔力量が10%アップする特殊な魔石だということだから、確実にボスを倒すぞ」
「そのつもりだ。進とか言う者はどうするかな」
「サラクイが面倒みるだろうよ」
ヨールも進には何の興味を持っていなかった。
討伐隊に居ようが居まいが無視して行くつもりである。
そこから別れると、それぞれの部隊を訓練しにいった。
シュナリはその頃部屋に待機させられていた。
そこに呼び出しがかかった。
「シュナリよ、剣の訓練があるから訓練場に来い」
「はい今行きます」
呼び出しを受けたので慌てて駆け寄る。
進と別れて不安な時間を過ごしていた。
今頃はご主人様はどこにいるのかと心配する。
よくわからないまま町に来て、進と決闘までして傷までつけたことに思い悩んでいたのだった。
もしかしたら、見捨てられるとまで考えるようになる。
今頃はどこに居るのか情報は無い。
ただ進を信じていくしかなく、信じていれば必ずや再開の日が来ることを待ちわびた。
訓練場に着くとヨールが居る。
その前には他の団員が立っていて遅れてシュナリも加わった。
「明日の迷宮に行く前に訓練を開始する。二人で組み合って訓練を始めろっ」
「はいっ」
団員であるヨールの部下はいっせいに返事をして武器を作り互いに訓練しだした。
シュナリの相手はガタイのいい男であった。
名のある盗賊団だけあって訓練も怠らないのだと感心した。
しかも訓練に対する厳しさは違った。
「お前の相手は俺だ。女でも手加減はしねぇ」
「わかりました」
シュナリは短剣を作り、目の前の男と組み手を始めた。
予想してはいたが明らかに相手の方が上手で、叶う相手ではなかった。
悔しいが歯が立たない。
恐怖を感じた。
この男に殺されるのではという恐怖を。
目がマジである。
誤って殺してしまったと言えば済むのなら、本気でのぞまなければ死が待っている。
全てを出し切るつもりで挑むことにした。
「なんだ、この程度でトカチ様から認められたとは。笑ってしまうぜ」
「……」
何も言い返せない。
倒されて手を着いた。
殺す気かがあるとシュナリには伝わってきた。
間違いなくこの場で殺す気だと。
だが相手の力がひとつ抜けていた。
残念ながら逆転できそうにない。
進との再開は消えた。
もう終わったと思った時だった。
「これから今日最後の訓練をする。全員で私を倒しに来い。遠慮要らない。倒した者にはトカチ様に報告しておいてやる。そうすれば隊長くらいには任命されるぞ。さぁ来い!」
組み手の訓練を終える合図であった。
助かったとシュナリは安堵した。
しかしヨールが飛んでもない事を言ってのけた。
いくらなんでも部下は20人は居た。
それを一度に相手にするなど到底無理だ。
部下は言われると一丸となってヨールに襲いかかる。
恐らくは全員がシュナリよりも上の実力者が、飛びかかる。
どんなに屈強な剣士でも腕の数で圧倒的な不利である。
40本以上の腕があるのだ。
剣の数で勝負はついているはずだと思った。
しかし結果はシュナリの予想を覆した。
いとも簡単に20人の部下は蹴散らされたのだ。
いったいどうやって倒したのかと思えた。
剣の速度が並大抵ではない。
ほとんど見えない速度。
進のバジリスクを連想させた。
もしヨールが進と戦う時が来たら、勝てる見込みはあるのかと心配になる。
人間の技とは思えない剣技である。
進の場合は剣技の凄さと言うよりも剣の凄さ、バジリスクの凄さにおうところが大きい。
ヨールは剣は何でも良い。
剣技自体の凄さで進を完全に超えているのは明らか。
万が一戦う時が来たら、あの剣技を敗れるのかと不安になる。
そこでヨールが訓練の終了を言い渡した。
「よし、止めろ。訓練は終了するから明日の迷宮まで休め」
「はい」
シュナリには、かなり厳しい訓練に思えた。
迷宮に行った時よりもキツく感じた。
さすがに盗賊団らしいし、ここに居るのも楽ではないと実感する。
これがトカチ盗賊団の実力かと、改めて思い知った感じであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます