第8話 15話 シュナリとお食事へ

15話 シュナリとお食事へ


 シュナリはまだ俺に対して怯えているかもしれない。


 そりゃそうだろう。


 知らない男についていくのは、誰だって不安になる。


 まずは落ち着いて話そう。


 幸いにも隣が宿屋。


 2人で話すにはいい環境だろう。


 しかし、いきなり宿屋に連れ込んで大丈夫かな。


 余計に怖がるか。


 嫌がれば別の場所へ行こう。




「宿が必要だよな。ここの宿屋に行こうと思う」




「はい。ついて行きます!」




「お、おい、しがみつかなくていいぞ」




 シュナリは宿に入る前に俺の腕にしがみついてきた。


 これじゃ完全にラブホに入るカップルじゃないか。


 シュナリは全く断ることなく返事した。


 宿屋に2人きりで入るのは、かえって俺の方が困った。


 そんな経験なんてない。


 俺が動じていると変なので、強引に入ることに。




「いらっしゃいませ進。あれ今日はお二人様ですか」




「ああ。2人だ」




「では、2人部屋にしますか?」




「どう違う」




「ベッドが2つあり、部屋も広いです。お値段は2000トパーズに」




 ベッドが2つか。


 1つが理想的ではある。


 しかし、いきなり1つで大丈夫か。


 嫌がるのを無理やり寝かすのは、俺の趣味ではない。


 横に一緒に寝るのならいいだろうが2つにしておこう。




「2人部屋に」




「はい。ありがとうございます」




 2つの部屋で2000トパーズ支払う。


 俺が獣人を連れてきて驚いているようだった。


 まさかて感じだろうか。


 むこうも商売だから2人泊まってくれて嬉しいと思うはず。




「ここが部屋だ。疲れを取るがいいさ」




「ベッドもある。獣屋ではベッドは無かった」




 シュナリは返事だけして部屋に入った。


 部屋は2つ分のベッドがあり、多少広いようだ。


 俺は疲れたのでベッドに腰掛けるとシュナリは立ったままだ。


 緊張してるのかな?




「こっちに来て座っていいぞ」




「……」




 何も言わずに立ったままで俺を見ている。


 どうしたのか?


 やはりベッドに座らせるのはまずかったかな。




「いいんだぞ座っても」




「……私のような契約をした者が座ってもよろしいのでしょうか」




「いいに決まってる。早く座りな」




「はい。ご主人様」




「そ、そこは、お、俺の太ももの上だぞ」




 シュナリは近くに来ると俺の隣に座るものだと思っていたら、なんと俺の太ももの上に座った。


 お尻がギュッと太ももにのしかかる。




「座れって言うので、ご主人様の上に座れという意味だと思いました。太ももの上は座りこごち良いです」




「俺の太ももは椅子じゃないんだから」




「ごめんなさい。直ぐに退きます」




 シュナリは太ももから立ち上がるのだが、その時に慌てたようでバランスを崩した。


 崩したら体は後方へと倒れるため、俺の方に倒れてきた。




「!!!」




「あらっ! ご主人様大丈夫ですか。重かったかな」




 シュナリの全体重が遅ってきた。


 体を受け止めたので、シュナリは怪我はないのたが、俺もベッドに倒れたのだった。


 ベッドだったので重みを吸収してくれ大怪我はなかった。


 でも何かしらこの柔らかい感触は。


 とても気持ちいい感触が手の平の中にある。


 俺の中である直感がひらめいた。


 この感触の正体であり、両手にちょうど当たる2つの物といえば、アレしかないだろう。




「す、すまん、胸を触ってた。わざとではないんだ。許してくれ」




「触るのが好き?」




「好きかって言われても困るし」




「今の顔がウハウハですね」




「変な事を覚えるなよな! それよりも腹は減ってないかい」




「ものすごく減ってます」




「じゃあ食べに行こう」




「食べに? 行きます!」


 


 シュナリは嬉しかったようで尻尾を揺らして立ち上がる。


 尻尾が生えてる。


 獣耳娘だから、当然といえば当然か。


 間近でみると尻尾が可愛い。


 思わず触りたくなってしまう。


 シュナリを連れて定食屋に向かう。


 俺も迷宮に行ってから食べてない。


 とにかく腹が減って定食屋に向かった。


 俺の前の席にシュナリは着いた。




「何が食べたい?」




 普通に何でも食べれるのかわからないもので。




「……」




「どうしたのか?」




「私がこんないい物を食べても良いものかと」




「構わないぞ」




「嬉しいですご主人様、優しいのですね」




 シュナリの態度を見てると契約した獣人の地位は低いようだ。


 食べたいのを我慢しているよう。


 獣屋ではちゃんと食べていたのか。


 この様子だといい物を食べてないとわかる。




「俺と同じのを食べるんだ」




「ご主人様がそう言うのなら」




「牛肉は食べても大丈夫か」




 狼の血をひいてるとはいえ、一応きいてみる。




「肉は問題ないです。むしろ大好きですね」




「食べれない物もあるかい」




「人狼族にはネギ類の野菜は苦手としています」




「ネギか…」




 ネギが苦手ときたか。


 犬もネギは食べれないから、それにちかいのかも。


 俺は大好物なのだが、たしか焼き肉定食には玉ねぎが入っていたような。


 注文はネギ抜きにしておこう。


 病気になっては大金を出した意味がなくなる。


 美人の店員さんに焼き肉定食を2つ注文する。


 1つはネギ抜きにしてもらう。




「ご主人様はよく来られるのですか」




「うん。食事はここで。美味いからびっくりする」




「楽しみです」




 まだ緊張してるのか、ぎこちない。


 だけど可愛い。


 周りの客も俺のテーブルを覗いてやがる。


 シュナリが珍しいのか。


 それとも可愛い過ぎて気になるのか。


 でも悪い気はしない。


 むしろ気持ちいいくらい。


 優越感というか。


 大金を出した甲斐はある。


 少しして焼き肉定食がきた。




「どうだい、美味そうだろ。食べていいからな」




「美味しそうです」




 シュナリは最初は食べていいのか気を使っているよう。


 でも食べ終わる頃には緊張もほぐれている風に見えた。


 良かった。


 俺も打ち解けてくれた方が楽しいし。




「どうだ」




「初めて。こんなに美味しいのは」




 耳がピョンとたった。


 嬉しい時に、耳が立つのかな?




「もっと食べるかい」




「もういっぱいです。こんなに食べさせてもらえるなんて、幸せです」




 シュナリは嬉しそう。


 初めて俺に笑顔を見せる。


 そう言えばなぜ獣屋にいたのだろう。


 考えてなかった。


 本人にきいてみるのが早いけど。


 獣屋に置かれる理由。


 あまり言いたくない理由もありそう。


 せっかくの楽しい雰囲気をぶち壊すのは勘弁だ。




「ご主人様に契約してもらい感謝してます。実は私はあの獣屋に売られてしまったの」




 シュナリは俺がきかずにいたのを、自分から話し出した。




「売られて、ひどいな。なぜ」




「私は人狼族の村に生まれて両親とともに育ちました。小さな村ですが狩りや農耕などもして暮らしていた、あの最悪の日まで……」




 シュナリは急に悲しそうな声に。


 最悪の日とは。


 村に何か不幸が起きたとか。




「村に何か……」




「はい。村は絶滅しました」




「なっ……」




 俺はその時にシュナリに声も出せない程に驚いた。


 絶滅て。


 魔物に襲われたとしたら許せない。




「私は村の生き残りなの」




「魔物に襲われたかい」




「いいえ。魔物じゃないの」




 魔物じゃない。


 他に村を絶滅させる程のひどい事をするとしたら……。




「盗賊団に……」




「盗賊団! そこまでする奴らがいるのか?」




「はい。盗賊団は突然村に来て村人を殺していきました。戦ったのだけど相手の盗賊団は強く殺された。女は私のように売り飛ばして金に代えられました。生きてこれただけでいい方かもしれません」




「許せない。そんな奴ら誰なんだ?」




「……黒死蝶」




「こ、こくしちょう!!」




 黒死蝶……。


 最近どこかできいたよな。




「知ってるのですか」




 知ってるもなにも今日聞いたばかりだ。


 どこで聞いたのかな……。


 迷宮屋。


 冒険者達の会話。


 ガイルが所属する組織の名前。


 盗賊団だったのかよ。




「ちょっとな、聞いたことはある名前くらいは。その蝶はヤバイのかな」




「とても有名な盗賊団です。悪名高い方の。金目の物は何でも奪い取る。そして金に変えていく。そのためには何でもします。恐ろしくて思い出すのも怖い……」




「戦っても勝てないのかな」




「冒険者も手を出すことは普通しません。王国の騎士団ですら、彼らを捕まえることもできないでいます。特に黒死蝶のリーダーである蝶野。盗賊としての懸賞金は最高レベルです」




 もう手を出してしまいました。


 俺はなんて事をしでかしたのか。


 まさかガイルがそこまで危険な奴らとは思ってなかった。


 どうしようか?


 誰も俺がガイルを殺したのは見てないはずだ。


 仲間も全員殺した。


 他に居なければの話しだが。


 ここでこの話を話すはマズイよな。


 シュナリにはそろそろ店を出て宿屋に帰ろうと言う。


 俺は満腹になって良い気分にいたのに、一転して吐き気をもよおした。


 最悪である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る