第31話 新たな存在

 すぐにコンラッド国王の執務室にアンドリュー王子と宰相が呼ばれ、セアラの報告を聞く事になった。


「アリスの姿が消えたとはどういう事だ! 詳しく話せ!」


 コンラッド国王の剣幕に多少はたじろいだものの、セアラは気を取り直すと先程の出来事を語りだした。


「アリス様がお部屋へ戻る際に王宮魔術師のグレンダと会われました。その際グレンダからアリス様に本を差し出してきました。一旦私が受け取り中を確認した後でアリス様にお渡ししました」


 アリス王女は突然のグレンダの行動に少し驚いていたが、魔術の本だと知って借りる事にしたという。


「その後、私が本を持ってアリス様のお部屋まで戻りました。そこでアリス様が本を読むとおっしゃるのでお渡しして控えていると、突然本から眩い光が出て収まった時にはアリス様の姿が消えておりました」


 アリス王女が読んでいたという本も同時に消えていたというから、最初からアリス王女を狙ったものだったのだろう。


「申し訳ございません。まさかあのような仕掛けがしてあるとは思いませんでした。この処罰はいかようにもお受けいたします」 


 セアラはその場に膝を付き、コンラッド国王とアンドリュー王子に詫びるが、今はまだその段階ではない。


「セアラ。そなたの処罰はアリスが戻ってからだ。アリスが戻った際にそなたがいなければアリスが悲しむからな。ダグラス、すぐに王宮魔術師団に知らせてグレンダを確保しろ。最も既に王宮にはいないかもしれないが、手がかりがないか探させろ!」


「かしこまりました」


 宰相はすぐに王宮魔術師団に使いをやってグレンダの行方を追ったが、コンラッド国王の懸念通り、既に王宮内にグレンダの姿はなかった。


 王都にあるというグレンダの住まいも捜索させたが、こちらも既にもぬけの殻だった。


「何か手がかりは無いのか!」


 苛立ったようにコンラッド国王が声を荒げるが、誰も返す言葉がない。


 だが、アンドリュー王子が報告書を見て、とある点に注目した。


「父上。サイラスの所にコーデリア・ラザフォードが来たという記述がありますが…」


 その名前を聞いた途端、コンラッド国王は不機嫌を露わにした。


「コーデリア嬢か。既に処刑された女の事などどうでもいいだろう」


 コーデリアはクリスティンと同い年でコンラッド国王の婚約者候補でもあった。


 クリスティンがコンラッド国王の婚約者に決まった途端、数々の嫌がらせをしてきたため、前国王より謹慎処分を言い渡された。


 その間にコンラッド国王はクリスティンと婚姻を結び、アンドリュー王子が生まれたのだが、その後社交界に復帰してきたコーデリアは今度はコンラッドに側妃にしろと押しかけてきた。


 そしてクリスティンがアリスを産んだ後亡くなると、更に執拗にコンラッド国王に迫って来た。


 それでも首を縦に振らないコンラッド国王に業を煮やしたコーデリアは、コンラッド国王に媚薬を盛ろうとした。


 未遂に終わったものの度重なる行為に実家の伯爵家はコーデリアを切り捨て、コーデリアは処刑された。


 それが今から五年前の話だ。


「出入りしていたというだけで、今回の件には何の関わりもないだろう」


「でも、父上。アリスの生まれた時にはまだ彼女は生きています。アリスの異世界転移に何らかの関わりがあってもおかしくはありません。それにグレンダが王宮魔術師団に入ったのもちょうどコーデリアが処刑された頃です。他にも禁術が使われていてもおかしくはありません」


 アンドリュー王子の指摘にコンラッド国王は「ううむ」と考え込む。


 確かにコーデリアを処刑する際に彼女はおかしな事を口走っていた。


『私はコーデリア様ではありません! グレンダです! 魂を入れ替えられたんです!』


 あの時はコーデリアが罪を逃れる為に荒唐無稽な事を話しているのだと思っていた。


 大体、実の娘の魂をこれから処刑される女の身体に入れ替えるなど、誰が信じるだろうか。


「まさか、本当に魂を入れ替えたと言うのか?」


「可能性はなくはありません。禁術を試したがっている人物がその機会を得られたら試してみたくなるのはやむを得ないのでは? たとえ娘の命と引き換えでも…」


 ダグラスの言葉にコンラッド国王は考え込む。


 サイラスは確かに禁術に取り憑かれているような節がある。


 その誘惑に負けてしまったとしたら…


「もう一度サイラスの家を捜索しろ! 何処かに隠し部屋か魔法陣が隠されているかもしれない!」


 今回は王宮魔術師団も一緒にサイラスの家を捜索させた。


「国王陛下、サイラスの家に巧妙に隠された地下がありました! すぐに踏み込みますか?」


「いや、私が行く! すぐに準備しろ!」


 コンラッド国王は宰相の止めるのも聞かずに騎士団を伴ってサイラスの家へと押しかけた。 

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