第19話 謁見

 玉座に座っている壮年の男性と、その脇に立っている青年。


 どちらもよく似た顔立ちをしているから一目で親子だとわかる。


 その二人が私の顔を見て酷く驚いているのが気にかかる。


 どうしよう。


 ここはちゃんと挨拶をしたほうがいいのかしら。


 私は教わったとおりにカーテシーをして国王陛下とアンドリュー王子に挨拶をする。


「はじめまして、アリスと申します。以後お見知りおきを…」


 そこまで言ったところで、国王陛下が玉座から立ち上がり、私の前へと走り寄ってきた。


 アンドリュー王子もほぼ同じくらいに駆け寄ってきて私の前に立っている。


 顔を上げるとイケメン親子が私の目の前にいるなんて、眼福だけどちょっと近くない?


 大体、どうしてそんな顔で私を見ているの?


 国王陛下なんて目に涙を浮かべているわ。


「あ、あの…」


 戸惑っている私に国王陛下は震える手で私の手を握る。


「…まさか、本当に生きていたのか? 侯爵夫人、アリスは本当に私達の娘で間違いないのか?」


 私が国王陛下の娘って、どういう事?


「間違いございません。侍女長からもアリス様の首の後ろに紋章があると報告を受けました」


 そう言いながらガブリエラさんは私に近付くと私の体を反転させて髪の毛を持ち上げてうなじを国王陛下とアンドリュー王子に見せた。


 ちょっと、それ恥ずかしいんだけど!


 そんな事よりうなじに紋章って何?


 そんな物がうなじにあるなんて聞いた事ないんだけど!


 私の混乱を他所に私のうなじを見た二人は「「おおっ!」」と声を上げている。


 ガブリエラさんは二人が紋章を確認するとすぐに私の髪の毛をおろして、体を正面に向けてくれた。


「確かにあの日、クリスティンが産んだ私達の娘だ。アリスと言ったか。よくぞ戻って来てくれた」


 いきなり国王陛下に抱きしめられて私は目を白黒させるしかなかった。


 私が国王陛下の娘?


 国王陛下に抱きしめられてジタバタしていると、アンドリュー王子が私と国王陛下を引き剥がした。


「父上、独り占めしないで下さい!」


 ホッとしたのも束の間、今度はアンドリュー王子が私を抱きしめてくる。


 ギャー!


 イケメンに抱きしめられるって一体どんな拷問ですか!


「ああ、アリス。君が帰って来るのをどれほど待ちわびた事か…。母上の死に気を取られているうちに、アリスがすり替えられたなんて…。あの時、アリスから目を離した事をどれほど後悔したことか。もう二度と離さないからね」


 いやいや、離して!


 窒息しちゃうからー!


 ギブ、ギブ、とばかりにアンドリュー王子の体を叩くけれど、喜んでいると勘違いされたらしく、更に抱きしめられる。


 これ以上はムリ! というところでエイブラムさんが私とアンドリュー王子の間に割って入った。


 私とアンドリュー王子の間にエイブラムさんが立ち塞がる。


「アンドリュー王子、アリスが苦しがってます!」


 流石はエイブラムさん。頼りになります。


 私と引き離されたアンドリュー王子はムッとしたようにエイブラムさんを睨みつける。


「エイブラム、アリスは王女だぞ! 敬称を付けずに呼んでいいわけがないだろう!」


 王女?


 本当に私が王女って確定しちゃったの?


 アンドリュー王子に指摘されてエイブラムさんは、ハッとしたように腰を折る。


「申し訳ございません。ですが、あまり力を入れるとアリス様の負担になります」


 その途端、スッと何処かでエイブラムさんと私の間に一線が引かれたのを感じた。


「そうか。済まない、アリス。君が戻って来てくれた事が嬉しくて、つい我を忘れてしまった」


 優しく頭を撫でてくるアンドリュー王子に、目に涙を浮かべて私を見ている国王陛下。


 二人の様子を見るからに私がこの国の王女であることは間違いないようだ。


 つまり、私は異世界転移したんじゃなくて、異世界転移していたのが元の世界に戻って来ただけって事!?


 衝撃の事実に私の理解が追いつかない。


 オロオロしてガブリエラさんに目をやると、私を安心させるように優しく微笑んでくれた。


「国王陛下、アンドリュー王子。アリス様は少し混乱していらっしゃるようです。何処かで落ち着いてお話をされてはいかがですか?」


 ガブリエラさんの提案により、国王陛下は侍従に言いつけてお茶の席を用意させた。


 そちらに移動しようとするとエイブラムさんが私の右手を、アンドリュー王子が私の左手を取って歩こうとする。

 

 ちょっと!


 私を挟んで火花を散らすのをやめて!


 どちらの味方をしても面倒臭い事になりそうだと思っていたら、さっと国王陛下が私の手を取って歩き出した。


「あ、あの、国王陛下…」 


「お父様、と呼んでくれんか?」


 そんな悲しそうな顔をされてもいきなりは無理です!

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