第14話 魔法

 食後のお茶を飲んだ後、私とガブリエラさんは外にある四阿にやってきた。


 魔法について話をすると言っていたけれど、どうしてここに来たのかしら?


 四阿の周りには色とりどりの花が咲き誇っていて、見ているだけで心が癒やされる。


「アリスは今まで魔法を使った事があるのかしら?」


 四阿の椅子に向かい合って腰を下ろすと、ガブリエラさんに問われた。


「魔法なんて使った事はありません。そもそも私がいた世界では魔法を使う人なんていませんでしたから…」


 さっきの魔法にしても本当に私が使ったものだと言い切れない。


 ガブリエラさんは立ち上がると私の隣に移動してきた。


「手のひらを上に向けてみて、そこから風を出してご覧なさい」 


 ガブリエラさんが私の手を取ると、手のひらを上に向けさせる。

 

 いかにも簡単そうに言われるけれど、そんなに安直に風なんて出せるものなのかしら。


 それでもガブリエラさんに言われるまま、手のひらを上に向けて集中する。


 風… 風…


 つぶやきながら手のひらに意識を集中させると、ふわっと空気が動いたような気がした。


 ガブリエラさんは満足そうに頷き、私の手のひらを花壇の花に、向けさせた。


「あの花に向かって風を当ててご覧なさい」


 花に向けて?


 そこで私はガブリエラさんが私をここに連れてきた理由に思い至った。


 お屋敷の中で風を出したらどんな弊害が起こるかわからないものね。


 手のひらを花に向けて意識を集中させると、花壇の花がゆらりと揺れた。


「もう少し強い風を出してみて」


 花びらが落ちたり、茎を折ってしまうかもと思い、弱い風を出してみたけれど、ガブリエラさんはお気に召さなかったようだ。


 ガブリエラさんに言われるまま、先程よりも強い風を向こうの花に当てる。


 ヒュッと風を切るような音がして、花が大きく揺れた。


「私って本当に魔法が使えるんだ…」


 思わずまじまじと自分の手のひらを見つめて呟いた。


 異世界に渡った事で与えられたスキルなのか、この世界にいるから使えるのかはわからないが、どちらにしても私は魔法が使えるようだ。


 だけど、さっきポットを元に戻した時はこんなふうに手のひらを向けてはいなかったはずだけど…?


 ガブリエラさんは私の手を掴むと膝の上に戻した。


「この状態であの花を揺らしてご覧なさい」 


 この状態で?


 つまりは目線だけで魔法を使えと言う事なのかしら?


 さっきは咄嗟に出来た事だけど、いざやれと言われたらかなり難しい。


 花を揺らすように意識を集中させるなんて、まるで超能力でも使うみたいだ。


 あ、そっか。


 結局、魔法も超能力も呼び名が違うだけで結局は同じ力って事なのかな?


 しばらく意識を集中させていたら、ゆらりと花が揺れた。


 たったそれだけでもかなり疲れてしまった。


「子供の頃から訓練していれば、もっと魔法を使えるようになっていたでしょうね。それでも初めてでこれだけ魔法が使えるなんて大したものだわ」


 ガブリエラさんに褒められて「本当ですか?」と思わず笑顔になる。


 私に気を遣ってそういうふうに言ってくれたのかしら。


「疲れたでしょうから少し休んでいらっしゃい」


 侍女に私を部屋に連れて行くように告げると、ガブリエラさんは執務室に行ってしまった。


 お仕事があるのにわざわざ私に付き合ってくれたようだ。


 部屋に戻ると昨日覚えた文字を忘れないようにと、本を用意してもらった。


 侍女さんによると、なんでも今、巷で人気の恋愛小説らしい。


 のんびり読書をしていると、昼食の時間だと呼ばれて食堂に向かう。


 何もせずに読書をしてご飯を食べさせて貰って、このままでいいのかしら?


 せめてお世話になっているお礼に私も侍女かメイドになって仕事をさせて貰おうかしら?


 食事をしながらそんな事を考えていると、ガブリエラさんが私に微笑みかけた。


「このあと、仕立て屋が来ますからね。ドレスの仮縫いができたそうよ」


 ドレスの仮縫い?


 確かに昨日採寸をされたけれど、ドレスって一日で仮縫いまで出来るものなの?


 驚いている私にガブリエラさんは更に追い打ちをかける。


「明後日には王宮に向かいますからね。明日は一日マナーの練習をしましょう」


 えっ、王宮?


 今、王宮って言ったの?


 王宮って王様が住んでいる所だよね。


 昨日この世界に来たばかりの私がどうして王宮に行く事になるのかしら?


「ガブリエラ様、どうして私が王宮に行くのですか?」 


 だけどガブリエラさんはそれには答えずにニコリと笑う。


「大丈夫よ。エスコートはちゃんとエイブラムにさせますからね」


 エイブラムさんがエスコートって!


 お仕事があるんじゃないんですか?


 それを言葉に出来ないまま、私はドレスの仮縫いへと連れて行かれた。

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