第22話 水怪の導唄
次の日の朝、俺は懐かしい香りで目を覚ます
何だったか、と記憶を呼び覚ましているとさらに聞き覚えのある音が聞こえてきた
トントントン、トントントン……と言う音はこの城の台所から聞こえてくるようだ
俺はその音に懐かしさを覚えた理由を思い出す
20億年ほど前の、そうだ……確か
「おはよぉ!理一……エイル!……ほらほらーしゃっきりしろって!」
「……お前かよ!……はぁ……おはよう」
俺はその音の原因というか作っていた奴……まあメリッサに挨拶をする
「おう!いやぁ仲間になったからには……まずは朝飯ぐらい作らないとな!」
そう言って気持ちのいいくらいの笑顔を見せてくれるメリッサ。
その手元には、懐かしい茶色の汁物が鍋に入っていた
「ふぁぁ……おはようございますエイルさん……あら?この匂いは……」
「おはようございます皆様、おや?……これは確か……」
ふふーんと、自慢げにメリッサは
「これこそがアタシ達異世界人のふるさと飯……いや、ソウルフードの味噌スープ!だぜ!」
そう言って俺の元にそれを差し出す
俺は、一応毒を確認するために魔法を唱える
「ちょい!アタシが毒なんて入れると思うか?……まあひとまず食って見ろよ!」
俺は口の中に熱っつい味噌汁を流し込まれる
思わず俺は
「あっづ?!」
と久しぶりにそんな言葉を口にした。多分、18億年ぐらいぶりに。
「……思ってたより美味いな……へぇ?」
俺はその味噌汁をゆっくりと味わう。熱々の味噌汁が俺の体に染み渡る……やはり精神は日本人のままなのだろうか……白米と鮭当たりを一緒に食べたくなってきた
「……待て?お前はどこから味噌を仕入れた?」
俺はふと、それが気になった。
メリッサの答えは案外シンプルだった
「……?自分で作ったけど何か?」
味噌って作るのに普通に時間がかかるはずだがな……?
「いやぁ……なんかねぇ……発酵を促進させる刀を作った時に試したら出来ちって」
俺は訳が分からない、という顔で
「……それは刀なのか?」
「見る?臭いよ?」
「遠慮します」
◇
「ほお、これが味噌汁ですか……何とも不思議な味わいですなぁ……しかし良い、塩加減でございますな……」
「スープが良かったんですけどね?……はぁ……こんな汚い色の……」
「お主作らぬくせに文句が多いやつじゃな、次はお主が作ると良いじゃろう?」
「成分分析完了これは豆、行ける」
俺は思い思いの言葉を投げつけるラスボス共に溜息をつきつつ
再び、ごくごくと味噌汁をすする。美味しい……しかし何故か妙に物足りなさを覚えて俺は首を傾げる
「メリッサ……?これなんか味薄くないか?……なんだろうな……何かが足りない……そんな気がするんだが……」
俺のその言葉に、よく分かったねとメリッサは苦笑いをした
「近頃、このメルバニア付近の魚が死滅してるのを知ってるか?」
「魚が?……しかし俺たちはそんな話を聞いたことがないぞ?」
「なら、メルバニアとナキリの国境にまたがる市場にでも行くか……あそこはたっくさんの食材が売り買いされてるからな」
「……ふむ」
俺は確かにここに来てから転移者と戦って、城の改築に追われて
思えばここまであの腐ったギルドしか行っていない……まあ、ナキリの実情を知るためにも……次のターゲットである、岩清水を探す為にも
「……分かった、俺はこの後その市場に行くとする……だが、道とかそこのルールとかは分からないぞ?」
「あ〜アタシに任せな!…………しかし数が多すぎると万が一ここが狙われた時に困るよなぁ……ローランとアリアとレヴィアだけで守り切れるか?」
その言葉に3人は、胸を叩いてこたえる
「任せてください!……さっきもらった刀もありますし……」
待て?さっき刀をもらった……?
「少しその刀を見せてくれるか?……万が一こいつが裏切る可能性も無くはないからな……」
「別にいいですが……こちらです」
俺はアリアの懐から取り出された刀を見る。
サイズにして50センチ程の小刀。
しかし、それを鞘から引き抜いた瞬間……周囲の気温が一気に上昇したのが分かった
「すごいんですよ!メリッサさんは……!この刀数分程度で作ってもらっちゃって……」
俺は頭を抱える。間違いなく、この刀は
「……これ魔剣とか、聖剣とかの類いだろ……?どう見ても数分で作れるものじゃ……」
「いや?それただの失敗作だし、普通にゴミだからあげたんだよ?……あ〜でもまあ精霊程度なら普通に倒せるかもね〜」
「それはもう、魔剣なのじゃが…」
バハムートの言葉に俺は嫌という程共感した。
というかこいつが来てから、妙に俺の中の人間性が取り戻されている気がする
多分、気のせいだろう
そんなこんなで俺たちは、メリッサ、俺、ラジエル、アビス、モーガンを連れて行くことにした。
「モーガンちゅあん!お土産よろぴく〜」
「黙ってください師匠……次によろぴく〜なんて抜かしたら1週間ご飯抜きですよ?」
「ぴえん」
「……エイル様、すみませんがげんこつを一発お見舞してあげてください……ボクにはあれはもうどうしようも」
「任せろ、一撃にて沈めてやる」
「タンマ、待て待て……大人気ないぞ!モーガンンンンンンン!」
俺はオーディンの頭にげんこつを食らわせたあと、市場に向けて歩き始める
◇◇
一方その頃、カイザー・コウキは
「……不味いぞ?……トシが殺された……ああ、間違いない……それにどうやらメイも殺されたのかもしれない……やはり皆で一度集まって……」
しかし、クラスメイトどもは聞く耳を持たず会議は終了する
俺は、クソ!と机を叩く。
「……トシでさえ殺されたのだぞ?……お前たちはなんでそんなに呑気に出来るんだよ……ああ!!」
髪を引きちぎり、壁に頭をがんがんとぶつける。
そんな、普通の人が見れば異常と呼べる状況を1人の女性が眺めていた
「ああステキ!……さすがはコウキ様だわ……いつ見ても美しく、カッコよく、それでいてみんなのことを1番に思っている……なのに」
その女は、暗い顔をして空を眺める
「なのに……なのに……なのに……」
その目は虚ろを睨み、まるで死んだ魚の目をしている
彼女は、1人で廊下を歩きながら……ブツブツと囁く
「ああ……あいつが戻って来たせいであたしの事をちっとも見てくれない!……腹立たしい!恨めしい!アイツがいるから、アイツが生きてるせいで……アタシを見てくれないのなら、そうだ殺そう!そうすればアタシを見てくれる……よね?……ね、そうだよね……コウキ様」
彼女の名は
『岩清水 水華』今は、『ミズカ』と呼ばれる女性だ
ミズカは近くの水を伝い、家に戻る。
「待っててね、コウキ様……あたしが……アナタの注目を全て手に入れて見せるから…………ねぇ、知ってる……?」
彼女は水で生み出した幻霊に向かい、首をねじ曲げながら
「……アタシは人魚姫なのよ?……人魚姫は王子様と結ばれるのぉ!……それの邪魔をするやつがいるのなら……」
「みーんな纏めて水に沈めてあげるわァ?!!」
彼女の慟哭は、水面の下でゆっくりと渦を巻き伝播していく
32人のクラスメイトの中で、最も『狂気的な愛』の持ち主の魔の手が
静かに、エイル達に忍び寄っていく
彼女の慟哭は、さながら唄……セイレーンの魔の唄声のように、水を染め上げていくのだった
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