秘密と秘密
最早無白
秘密と秘密
「僕なんかに話って、一体なんですか?」
――放課後の空き教室、僕は同じクラスの女子に呼び出された。
この人は確か今日の席替えで、僕の隣に来た人だな……なんて考えながら、投げかけた質問の答えが返ってくるのを待つ。
正直、クラスメイトの名前なんて覚えてないんだよな。僕は一人が好きというか、人と関わるのがとにかく苦手で……。だから自分から前もって『壁』を作り、人との接触を避けてきた。
そのおかげで自己紹介をすることもされることもなくなり、眼前の女子の名前を知らないまま、この場に立たされている。
「分からないの? あんた、私やみんなに隠しごとしてるでしょ」
誰だって、それこそあなただって、秘密の一つや二つあると思うのだが……。自分のことを棚に上げているようでいい気はしないが、発言者は二人称が『あんた』なくらいには凶暴な人らしい。今は逆らうのはやめよう。
「まあ、少しはしてるんですかねぇ……?」
「ほ~ら、やっぱりしてるじゃない! バレないとでも思ったわけ!?」
怒りに任せたような彼女の語気が、僕の胸をきゅっと締めつける。いくら僕に非があるとはいえ、そんなに怒らなくってもいいじゃないか……。
しかし、この人の想像している僕の隠しごとと、こちらが自覚しているものは、同じものなのだろうか? もしここでカミングアウトしたとして、それが彼女の予想外のものだとしたら、僕はただのバラし損だ。それだけは避けなければ。
「じゃあ、僕の隠しごとが何か当ててみてくださいよ」
「――簡単よ。あんた、その胸つぶしてるでしょ?」
……なんでバレたんだ!? きちんとさらしも巻いているし、毎朝姿見で『出てない』ことを確認して登校するほどには、対策しているというのに。
「正解って顔してるわね。だけどさ、何か事情でもあるわけ? 一人称も『僕』にしてるし」
秘密がバレた衝撃もそのままに、彼女から至極真っ当な質問がやってくる。
まあ、胸の大きさを隠したい理由って想像しづらいよな。『盛る』ならまだしも『削る』んだから、もっと分かりづらいだろうな。
「それは……誰にも言わないですか?」
「約束するわ。あんたの秘密に触れた分、秘密の秘密は絶対に守るわ」
妙に頼もしいな。僕の弱みを握ったことを、一応悪いとは思っているのか。
「分かりましたよ……アレです、高校デビューならぬ『高校ビュー』です。自分から皆さんへの高校生活に干渉しない、こちらは皆さんの『青春』を観測するだけです。良くも悪くも、ありのままの僕を晒すと目立ってしまいますからね……。あと一人称に関しては、女っ気を抜こうとしたら、僕っ子なクセが抜けなくなっただけです」
中学の時は大変のなんの。こんなもの、ただの遺伝の結果でしかないというのに。恨むのなら僕じゃなくて、僕の母さんを恨んだ方がいい。色濃く受け継いでいるから。
「――なるほどね。胸の内を明かしてくれてありがと……あ、そういう意味じゃないから気にしないで」
「その配慮もさらしを巻く一因だったりします。まあ、あなたにはなぜかバレてしまったので無意味ですが。それにしても、本当になぜなんでしょうねぇ……?」
ここからは『僕の』ではなく『彼女の』抱える秘密を明かす番。
まあ、一通り察しはついていたりするんだけど。人の顔色をうかがうようになった結果、向けられた好感度もある程度理解できるようになっちゃったわけだ。
――それを踏まえて。他に誰もいない、誰も来ない空き教室とはいえ、答え合わせをする場には適していない。そもそも『秘密』なんてデリケートな問題を、学校というお堅い場所で取り扱うこと自体が間違っている。
「いやぁ、素を隠すのも結構疲れるんですよね。それじゃ続きは僕の家で、っていうのはどうですか? 僕が干渉しないのは、あくまでも高校にいる時だけなので……」
ああ、迷ってる迷ってる。言おうか言いまいか、秘密を明かそうか明かしまいか。
いいじゃないですか、お互いに秘密を渡し合いましょう? 悩まなくっていいんですよ? 何も考えなくっていいんですよ? ほら、僕の胸に飛び込んでいいからね……?
秘密と秘密 最早無白 @MohayaMushiro
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