6.初打席

「おし! 今日の紅白戦のチーム分けとスタメンを発表する!」


今日は紅白戦当日。すでに監督から打診されている紅白戦出場メンバーは監督の元に集まり、チーム発表を聞いていた。俺と高史と莉子は紅組に振り分けられ、滝上君は白組に振り分けられていた。ちなみに俺は先発ではなかった。紅組の先発は女子の小松原理恵こまつばらりえさんだった。


(うわぁ、滝上先輩と別チームかぁ・・・)


できれば一緒が良かったが、そう上手くは行かなかった。今のところ俺は2打席ほど対戦し、2打席とも全てホームランという結果だった。まぁ頑張るしか無いと思った。


「ではルールを説明するぞ! 良く聞いておけよ!」


監督から本日の試合のルールが説明された。


・リトルリーグの野球ルールに準ずる

・リトルリーグの公式硬球を使用する

・試合は6回と延長は2回まで。決着がつかない場合は引き分け

・延長はノーアウト1塁2塁からスタートする

・ピッチャーは最大60球まで

・グラウンドの大きさはリトルリーグの大きさに準ずる

・打球がワンバウンドしてフェンスを超えた場合はツーベースヒットとする


「あと主審は俺がやる。これでルールは以上だ。お互いに第一優先は怪我が無いことだ。無理なプレーやラフプレーをしたものは即座に交代させるからな。ではアップを始めろ!」


監督の指示を受け、俺達はそれぞれアップを始める。素振りやキャッチボールなどを行い、いつでも交代ができるように準備をした。


(塁審は親御さんのボランティアか。つくづく野球が根付いているな)


観客席には俺達の親の他にもたくさんの大人がいた。いくら強豪リトルのジュニアチームとは言ってもここまで野球が人気なのはワールドスポーツだからだろうと思った。


(まぁ監督からも怪我がないようにって言われているし、落ち着いてやりますか!)


俺は気合を入れてピッチング練習をした。


紅組

1番 ショート 糸川賢治いとかわけんじ 小3

2番 センター 平田友香ひらたともか  小3

3番 セカンド 川谷高史かわたにたかし 小2

4番 キャッチャー 木部正広きべまさひろ 小3

5番 レフト 川谷莉子かわたにりこ 小2

6番 ライト 副並拓哉ふくなみたくや 小1

7番 サード 福田陽介ふくだようすけ 小1

8番 ファースト 長友真凛ながともまりん 小1

9番 ピッチャー 小松原理恵こまつばらりえ 小3

控え

野神司 小2


白組

1番 セカンド 磯辺篤紀いそべあつのり 小2

2番 レフト 村上由佳むらかみゆか 小2

3番 センター 加藤裕二かとうゆうじ 小3

4番 キャッチャー 滝上剛たきのうえつよし 小3

5番 ショート 斎藤明さいとうあきら 小3

6番 サード 石井秀明いしいひであき 小1

7番 ファースト 金村美咲かねむらみさき 小2

8番 ライト 生田久美いくたくみ 小1

9番 ピッチャー 永野大輝ながのだいき 小3

控え

山田浩之やまだひろゆき 小1


■■


(分かってはいたけど、やっぱり滝上先輩はすごいな)


4番の滝上先輩は1回裏、1アウト一塁二塁の場面で打席に立ち、紅組の小松原さんから初級軽々とホームランを放った。その後、小松原さんは5番6番と連打を浴びて、7番打者に追加点を許してしまった。これですでに0-4。小学1年生にも打たれたことにショックを受けているようだった。なんとか小松原さんは8番9番を打ち取り、攻守交代となった。


「お、お疲れ様です・・・」


「ありがとう、野神君。悔しいなぁ1年生にも打たれちゃった! 私もまだまだだね!」


小松原さんは明るくそう言ったが、俺はそれがから元気なのがわかった。小松原さんはお姉さんみたいな感じで話しやすい。結構信頼している先輩だった。


「小松原! まだ行けるな!」


「はい!」


今日は投手コーチの須藤さんが紅組を、白組は滝上君のお父さんが監督をしてくれていた。


「野神、準備しておけ! 3回裏から出るぞ!」


「・・・はい」


俺は元気無く答えてしまった。それを聞いた須藤コーチは少し疑問に思ったのか、俺の近くまで来てくれた。


「なんだ? 調子悪いのか?」


「いや! 滝上先輩をどう押さえればいいか分からなくて。変化球とか覚えたほうがいいのかなぁって・・・」


「そうか、具体的にはどんな変化球を投げたいんだ?」


「カーブかチェンジアップですね!」


俺が覚えようとしている変化球は決まっていた。俺は正直球が速い。ならば緩急で攻めたほうが三振を取りやすいのではないかと思ったからだ。


「なるほど、いい選択だ。でもな、まずはこの試合に集中して、己の今持っている力を全て出し切るんだ! いいな!」


「はい!」


俺はファールグラウンドで小松原さんとキャッチボールをした。小松原さんは自分の調整もあるのに、キャッチャーミットをして俺のボールを受けてくれた。


■■


「今出てきたのが野神君か? 剛」


「そうです。お父さん」


息子が一目を置く一個下のピッチャー野神司。どんなものかと俺は敵チームながら様子を伺っていた。


バシーン!


「!!!」


野神君のボールは俺の予想以上に速かった。スピードガンが無いので正確な数値は分からないが、90キロは出ているのではないかと思った。それを可能にしているのは間違いなくあの体格、小学生なのでまだなんとも言えないが、もしあの身長から更に伸びるのならかなりの逸材だと思わされた。


「お父さん、あいつはコントロールもいい。もうすでに9分割に投げ分けられることができる。と言っても小学生の距離だけど」


だとしてもすごいと俺は思った。親の贔屓目抜きにしても剛は野球の才能がある。しかしそれに並べるほどの才能があると俺は野神君に思った。


■■


 2回裏の白組の攻撃でまたしても滝上君は2アウト一塁の場面でホームランを放った。これで0-6だった。今日の小松原さんの調子は悪い。すぐに5番6番に連打を浴びた。幸いに7番でダブルプレーを取ることが出来たので、この回は2点追加で終わる事ができた。


「次交代な」


「はい・・・」


小松原さんは須藤監督から交代を命じられた。交代が命じられたということはすなわち、俺の登板の番ということであった。


「野神、次8番だからネクストバッターに立っておけ」


俺は大きく返事をしてネクストバッターに立った。その場で軽く素振りをして俺は思ってしまった。


(俺ってバッティング練習して無くね?)


そう言えば俺はピッチング練習ばかりやっていて、まともにフリーバッティングやティーバッティングなどしていなかったことを思い出した。そんなことを思っていると目の前のバッターが三振した。


(2アウトランナーなし。というか3回表まで一人もランナー出ていない・・・)


俺達紅チームは未だ永野先輩にバーフェクトに抑えられている。永野先輩は上の世代のエースらしい。それが滝上先輩のリードと相まって、いいピッチングをしているのだという。


(さて、とりあえず初級は見送ってみるか・・・)


俺はとりあえず初級を見送った。ボールはアウトコース低めのストライクだった。


(意外と打てるかも・・・)


なんとなくだがそう思った。ボールのスピードは全然速くない。さっきのアウトコースもなんとなくその辺に来そうだと思ったところに来た。勘が冴えわたっている気がした。


(これも野球チートのおかげか? でも次インコースに来たら思いっきりバットを振り抜く!)


次の球は高めのボールだった。これで1ボール1ストライク。滝上先輩がボールを返却し、続けて永野先輩はボールを投げた。俺はそのボールがインコースだったので、振り抜いた。


(やべ! ちょっと早く振りすぎたかな)


ボールはバットの芯に当たったが、俺が振るのを早くしてしまったため、ファールゾーンだった。


(次は踏み込んで、アウトコース高めを狙うか。それ以外ならカットだな)


俺は来たボールをバットに当てて、ファールにするというカット打ちを実践した。高史とバッティングセンターに行った時、ピッチャーが一番嫌がる打ち方だと教えてもらったからだ。そうしてカットをしている内にカウントは2ボール、2ストライクとなった。


(来た!)


俺はアウトコース高めに来た球を思いっきりバットに当てた。金属バットから甲高い音が鳴り響き、ボールはフェンスを超えていった。これで1-6となった。

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