歪む

NEINNIEN

第1話

 私という人間は、どうやら随分と強欲だったようです。


 それを自覚したきっかけは先日、ずっと片思いをしていた幼馴染と結ばれる事になったことになります。

 私と彼が結ばれるまでの紆余曲折はそれはもう凄まじいものがありました。朴念仁なあいつに随分と苦労させられたものだと今では笑って話せますが、当時はどんなアプローチをしても、暖簾に腕押しといった具合で焦ったのを覚えています。


 まあ、結局結ばれる事ができたのでそれでいいんですけど、問題はその後の話です。

 別に恋愛感情が冷めてしまったとか、もっといい男と付き合いたくなったとかそういう話ではありません。だって彼以上に素敵な人物なんて存在しないのですから。


 それなら、どういう話なのかというと、彼から今向けられている感情以外を向けられたくなってしまったのです。

 彼とずっと友人で馬鹿な話をしながら青春したかったという欲求や、普通に恋人として様々な場所にデートをしてみたかったという欲求、彼と同じ野球部に所属して一緒にプレイする仲間でありながらライバル的な存在になりたかったという欲求や、彼に看取られて死んでしまいという欲求まで様々なのです。


 言ってしまえば、彼から向けられるものを全て経験してみたいのです。彼から向けられる感情の全てを独占したくて仕方ないのです。



 今見せる怯えや、恐怖、諦めといった感情も悪くないんですけどね。


 今一番大きな欲求としては。最大限の憎悪を持った彼の手で殺されたいってものですかね。彼の家族を殺してその死体を見せつければきっと私の事を恨んでくれるでしょうし、あのたくましい手で、私の首をギュッと握りしめて欲しいものです。

 まあこんなこと言ったら彼は言う事を聞いてくれなくなるでしょうし、今はその欲求を心の奥底に秘めておくしかないのが残念です。


 とまあ、こんな欲求が湧いて出てくるのが、私が強欲だと理解したきっかけになります。


 女性というのは慎ましい方が魅力的だという話もありますし、彼には話せない内容でしたが、貴方に話が出来て良かったです。

 ガールズトークというのも案外良いものですね。話せば楽になる、なんて言葉もありますが案外馬鹿にしたものではないですね。


 ああ、もうこんな時間ですか。


 そろそろ彼のところに行かないと、お話聞いてくれてありがとうございます、妹さん。

 お兄さんの事は私が幸せにするので安心してくださいね。それではまた、食事の時間に会いましょう。

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