第8話 ぼくと花子さんと口裂け女③
「それにしても首なしライダーさんはいろんな物が作れるし、口裂け女さんは服を自由に着替えられてすごいですね!」
「ううん、これはね、私に限らず幽霊ならみんな出来るよ」
「そうなんですか?」
ぼくは花子さんの方を見る。
「なんで急に私に振るのよ?」
「だって、そういう能力とか自慢したがるじゃないですか」
(花ちゃんは服装そのものが有名だったりするから、あまりオシャレしないの。誰だかわからなくなったら困るんだって、知名度ダイジってね)
口裂け女はぼくに耳打ちする。
「聞こえてるわよ、わざわざコソコソ話すんじゃないわよ」
「そうだ!少年!せっかくだし見てみる?着替え」
パンッと手を叩き提案する。
「はい!見てみたいです!」
「口裂け女の生着替えショーね」
「花ちゃん、変なこと言わないで~」
「はいはい、いいから始めなさい」
「じゃあいくね♪」
口裂け女の合図と同時に体が光に包まれる。
「じゃ~ん♪」
口裂け女はドレス姿になっていた。
「これはね、私が最初に着替えた記念的な衣装なの♪」
嬉しそうに話す。
「次は~」
再び口裂け女の体が光に包まれる。
「どう?これは女の子向けアニメのコスプレ衣装」
「なんか着替えというより衣装のせいで変身って感じですね」
「実はそれを狙ってのチョイスなの♪それで次は私の一番のお気に入りだから期待して♪」
再び口裂け女の体が光に包まれる。
「じゃじゃ~ん♪」
「メイドですか?」
「そうだよ♪見て見てココ」
口裂け女は両手の人差し指で自分の胸元を指差す。
「えっと」
ぼくはちょっと視線に困る。
「ここね、乳袋作るの苦労したんだよ」
「ちち?」
「胸の下の方の布をこうやって挟み込むの」
ジェスチャーで説明する。
「あんた、なにやってんのよ!」
花子さんの鋭いツッコミが口裂け女のお尻に直撃。スパーンと良い音がトイレ中に響く。
「痛いよ、花ちゃ~ん」
「あんた、節度ってもんがあるでしょ!なにを子供に教えてるのよ!」
「だってぇ、ファッションの話できる人少ないんだもん」
すねる口裂け女。
「あのねぇ、こいつはファッションに興味があるんじゃなくて幽霊の不思議パワーに興味があるだけよ。見なさい!この半袖半ズボン!こんなんでファッションに興味あるわけないでしょ」
「そうなの?少年」
「は、はい」
恥ずかしそうに答える。
「なに恥ずかしがってんのよ」
「改めてぼくの服装を指摘されると、ちょっと恥ずかしくなりました」
「少年!その感情はオシャレへの入り口だよ!きっと、今まで花ちゃんと一緒にいたから気づけなかったんだよ!」
口裂け女は目を輝かせる。
「どういう意味よ?」
「だって、花ちゃんも少年のこと言えないくらいTHE小学生って服だよ?」
「これはね!私のアイデンティティーであり個性なの!この服装だからこそ皆は私を認識して怯えるのよ!」
「またいつもの」
口裂け女は呆れる。
「あのね、花ちゃん?私は思うの、花ちゃんの言ってることは、その服装じゃなければ自分には何も無いって言ってるようなもんだよ?」
「そんなわけないでしょ!私の知名度なめんじゃないわよ」
「じゃあ、試しに少年の服に着替えてみてよ」
「いいわよ!やってやるわよ!」
(口裂け女さん、うまく誘導したなぁ)
「あんたの服借りるわよ」
花子さんはぼくの服に触れてるようだ。すると口裂け女の着替えの時のように花子さんの体が光に包まれる。
「どうよ!」
見事にぼくと同じ服。
「なんか…ぷぷぷぷ、ちがう」
ぼくは笑いを堪える。
「なによ?完璧にコピーしたわよ!」
「そうじゃなくて、想像したのとなにか違ってて…ぷくく」
「なんなのよー!」
花子さんは口裂け女を見る。
「ご、ごめん花ちゃん。やっぱり花ちゃんは花ちゃんのままがいい」
口裂け女も笑いを堪えるのに必死だ。
「あんたもこいつの服に着替えなさいよ!」
花子さんはつまさきで口裂け女の足を蹴る。
「いたいよ、わかったから。少年の服借りるね」
口裂け女はぼくの服に触れる。体が光に包まれ、ぼくと同じ服に………
「これでいいでしょ、花ちゃん」
「なによ?それ?」
不機嫌な花子さん。
「え?私、少年と同じ服だよね?」
ぼくに意見を求める。
「えっと、なにかちがう気がします」
ぼくは口裂け女の姿を直視できず横を向いて答える。
「2人共変だよ?えっと鏡、鏡」
口裂け女は自分の姿を確認するために洗面台の鏡の前へ。
「あ~そういうことか~」
鏡に映る口裂け女の姿は半袖半ズボン、ただし丈が短いせいか腹部が出ている。なにより目立つのは胸部だ。服が左右に引っ張られ張り裂けそう。
「あちゃ~これじゃホットパンツだね~」
頭にポリポリ掻きながら戻ってくる。
「そっちじゃないわよ!!なんなのよ!その胸は!」
「ん?」
口裂け女は自分の胸を見る。
「胸が苦しいと思ったら上も下も縮尺間違えちゃっててた。えへへ」
頭をコツン。あざとい…
「あんた、胸が大きいことの自慢?私へのあてつけ?」
「ち、ちがうよ~、それに花ちゃんだって成長期が来たら大きくなるよ。ぜったい!」
本人としてはフォローしてるつもりなんだろうが幽霊の成長期というのは恐らく来ないだろう。そして花子さんの中でプツンと何かが切れる音がした。
「なにが成長期よ!私が何年この体型を維持してると思ってんのよ!」
「30年くらい?」
「それは、あんたとの付き合いでしょ!私はあんたより先輩よ!敬いなさいよ!」
「だって花ちゃん、小さくて可愛いから年上って感じしないんだもん!」
2人は口論に夢中でぼくの背後に忍び寄る者の存在に気づけなかった。
ぼくはその気配に気づき振り返る。
「あ、えっと誰ですか?」
そこには大人の男性らしき人物が立っていた。男性は紺色のズボン、水色のワイシャツ、ネクタイを着け、帽子を被っている。
「お巡りさん?」
ぼくは男性の顔を確認しようと見上げる。
「顔が…」
「おじさんね、顔を無くしてしまったんだよ。顔がほしい…君の顔をおじさんに譲ってくれないか」
男性の言う通り男性には顔が無い。ゆで卵の表面のようにつるんとしてる。
「顔をくれぇ、顔をくれぇ」
口論をしてた花子さんが異変に気づき
「顔が無いくらいなによ………」
花子さんの体はプルプル震えてる。ぼくは似たような光景を見たことがある。そう怒りが爆発寸前なのだ。そして…
「私なんて胸が無いんだから!そっちの方がよっぽど辛いんだからぁぁぁぁ!」
男性は花子さんの絶叫とともに廊下へ吹き飛んだ。
「花ちゃん、やりすぎ」
「ふん!あんたもストーカー被害に困ってたんでしょ?いいじゃない」
「ストーカー?」
「ちょっと…ね」
ぼくの疑問に口裂け女は困り顔でウインク。
「大丈夫~?」
「アタタタタ」
男性はゆっくり起き上がる。
「また私の後をつけて来たんですか?」
「あー、うん。君の後をついて行けばおこぼれがあるからね」
「この人ってもしかして、のっぺらぼう…さん?」
「よく知ってるねぇ、そう私は…」
「口裂け女のストーカーよ」
のっぺらぼうの言葉を遮り花子さんが答える。
「いやまぁ、否定はしないけどさ」
照れ臭そうに頭を掻く。
「口裂け女さんが好き…なんですか?」
「いやいや、違うんだよ!口裂け女君が脅かした相手をさらに脅かしてるんだよ」
ぼくの質問に首と手を横に振り否定。その動作はやや大袈裟に見える。
「それに服装のおかげでみんなは私に助けを求めるだろう?追い撃ちで脅かすのは楽しいんだよ」
「ストーカーはさっさと帰れ!あんたも自分の口で言いなさいよ!」
「なにを言ってるんだ!口裂け女君と私は共生関係なんだよ。ね!」
のっぺらぼうは口裂け女に同意を求めるが
「ちょっと…きもちわるいです」
「な!」
のっぺらぼうは膝から崩れ落ちる。
「……帰ります」
立ち上がるが元気はなくトイレから退室。
「ちょっと言い過ぎちゃったかな?」
「なに?あのままでよかったわけ?」
「そうじゃないけど、可哀想だなって」
「あんたのそういうところが相手を勘違いさせるのよ!ああいうのはストレートに言わないとわからないわよ!」
「ありがとう、花ちゃん♪」
口裂け女は花子さんを抱きしめる。
「ああ、暑苦しい。あんたもさっさと帰んなさいよ」
「そだね♪今日はもう帰るね♪」
口裂け女はぼくの方へ駆け寄り。
「花ちゃんは悪い子じゃないから仲良くしてあげてね♪」
「はい」
「か・え・れ!」
「ひゃん」
花子さんは幽霊パワーを使い口裂け女を強制的に廊下へ追い出す。
「じゃ~ね~」
「はいはい」
花子さんはシッシッと追い払う仕草。ぼくは会釈した。
【おまけ】
2人の少年は旧校舎前に立っていた。
「すごい雰囲気だね」
「バカ言うな!ただの旧校舎だ!」
「でも、この前の変な腕って旧校舎から飛んで来たよ」
「いちいちビビんじゃねー」
ガキ大将は拳を振り上げる。
「暴力はダメだよ~」
2人の背後から声がした。振り返ると女性が立っていた。その女性はマスクを着けてる。
「そ、そのマスク…」
怯えるガキ大将。
「きれいな人…」
「バカ!」
ガキ大将は慌てて取り巻きの口を塞ぐ。
「ありがとう…」
女性はマスクの紐に指を掛け。
「これでもぉぉお?」
女性はマスクを外し2人に素顔を晒す。
「ぎゃあああぁ、ブスーーー!ポマード、ポマード、ポマード」
2人揃って逃げ出した。
「おい!あれ」
ガキ大将は走りながら指を差す。その先にはお巡りさんの姿が 2人はお巡りさんの方へ駆け寄る。
「お、お巡りさん助けて!」
「どうしたんだい?怖いものでも見たのかな?」
「そうなんです、顔が!顔が!」
「顔って…こんな顔かなぁ?」
2人はお巡りさんの顔を見る。お巡りさんには顔が無かった。
「ぎゃあああ」
「ぎゃあぁぁ」
それを見た2人は絶叫。
≪次回予告≫
あれは妖怪?未確認生物? どちらにしても“あれ”を怒らせるのはおすすめしない 尻子玉を抜かれてしまう “あれ”は相撲が大好き もし挑まれたら拒否した方がいい 負けたら尻子玉を抜かれてしまう 相撲に負けた程度で尻子玉を抜かれたら割に合わない 勝った時の報酬? それは交渉してみるしかない 尻子玉を抜かれる事に見合う程の報酬があるなら だが“あれ”を怒らせてしまっては元も子もない 理不尽だが“あれ”を上機嫌にさせる唯一のものがある それは…きゅうりだ
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