第2話 ぼくと花子さん②

「それで、あんたは何しに来たわけ?」


 一通り自分の体質を証明した花子さんはぼくの目的を問う。


「ええと」


「待って!私が当てるわ」


 花子さんはぼくの言葉を遮った。


「どうせあれでしょ?度胸試し、肝試しとかでしょ?君も男の子だもんねぇ、プライドってやつよねぇ。うんうん、ちゃんと私の所まで辿り着けて偉いわねぇ」


 花子さんは自信があるようで首を縦に振っている。最後のはマウントを取ろうとしてるように思える。


「いいえ、いじめです」


「………なによそれ!最近の子供はいじめで肝試しさせるわけ!?」


 予想外の返答だったのか間が空いた後に驚く。


「まぁ、いじめってのはぼくの主観ですけど」


「あんた悔しくないの?」


「ん~悔しくはないけど、物理的になにかされるよりはマシかなって」


「ダメよ!いじめを受け入れるような考え方。あんたにもいじめる側にも良くないわ」


「いじめる側にもですか?」 


「そうよ!なに?」


「普通はいじめられる側に寄り添うのかなって」


「そう…ね、普通はそうかもね…」


 花子さんは宙を見つめる。


「…あの」


「まぁいいわ、そのいじめっこはどこにいんの?」


「ええと、ここのトイレの窓から旧グラウンドが見えるじゃないですか」


 ぼくはトイレの突き当たりにある窓を指差す。


「ここに行くように言った2人は旧グラウンドに待機してて、ぼくが窓から顔を出したら旧校舎から出してくれるって言ってました。一応、花子さんの怪談を試して来いとも言われましたけど」


「そう、待ってなさい」 


 そう言うと花子さんは浮遊し突き当たりの窓へ向かう。窓の前で止まり窓の外をキョロキョロ見回したかと思ったら一点を見つめる。


(なにしてんだろ?)


 不思議そうに花子さんを見つめてると


「もう大丈夫よ」


「大丈夫って?」


「グラウンドにいた2人は逃げてったわ」


「べつによかったのに」


「よくないわよ、ああいうのは怖い思いをしないと学ばないんだから!教訓ってやつよ。これでいじめられなくなるでしょ」


 パンッと花子さんは手を叩くと 


「よし!君の問題も解決したことだし、私の頼みを聞いてもらうわよ」


「頼み?命ですか?」


「んなわけないでしょ!あんたは私をなんだと思ってんのよ!」


「トイレの花子さん」


「そうよ!私こそ学校の数ある怪談の………じゃなかった、私を悪霊かなにかと勘違いしてるでしょ?」


「はい、正直あまり良いウワサ聞きませんし」


「失礼ね、これでも昔、私を正義のヒロインとして扱ってた作品があったのよ。おばけはにげてくんだから」


「へー」


「少しは興味持ちなさいよ。まぁいいわ、あんたに求めること、それは……」


 ぼくはゴクリと唾を呑む。


「これから卒業するまで放課後は私の暇潰し相手になりなさい」


「遠慮します。あの2人もいなくなったみたいですし帰ります」


 即答で断りぼくは花子さんに背を向けトイレから出ようとすると バタンッとドアが閉まった。


「いったでしょ?トイレ内なら自由自在だって」


「はぁ、なにをしたらいいんです?」 


 ぼくは花子さんの方へ向き直ると花子さんは上機嫌で床に正座した。


「あんたも座りなさい」


 床をペチペチ叩き座るよう促す。


「やめときます」


「なによ?反抗期なの?膝を突き合わせて話をしようって言ってんのよ」


 正座のままぼくに言う。


「話をするのはいいですけど座るのはやめときます」


「なんでよ!す・わ・り・な・さ・い!」


 正座しながら自分の前の床を両手でバンバン叩く。


「いやです」


「はぁ、なにか理由でもあるわけ?」


「だってトイレの床ですよ?普通は嫌がると思いますよ」


「私のトイレは綺麗よ!毎日拭き掃除してるんだから」


「綺麗なのはわかりますが、精神的な問題ですよ。花子さんもぼくが胸あたりを触ろうとしたら触れないのに精神的に嫌だって言ってましたよね」


「……はいはい、わかったわ。そのままでいいわよ。でも、疲れたり気が変わったりしたらいつでも座りなさい」


 花子さんはぼくの目を数秒見つめ諦めたように言った。すると正座しながらぼくの目線の高さに合わせるように浮遊する。


「暇潰しといっても私はただ雑談がしたいだけなのよ」


「テレビは見れないんですか?」


「見れるわよ」 


 花子さんは手を触れずにリモコンを操作しテレビをつける。


「じゃあテレビ見てればいいじゃないですか」


「飽きるわよ。私、何年ここにいると思ってんの?」


「何年です?」


「女性に年を聞くんじゃないわよ!」


「ホント理不尽……」


「なにが理不尽なのよ?」


「勝手に年の話をしといて怒るなんて理不尽じゃないですか、さっきも似たような事ありましたし」


「そうだったかしら?」


 とぼける花子さん。


「まぁそれは置いといて、改めて自己紹介から始めましょうか!」


「いまさら必要ですか?花子さんですよね?」


「そう!私こそあらゆる怪談や都市伝説の頂点に立つ、さいきょうの幽霊!トイレの花子さんなのよ!!」


 花子さんは腰に手を当て自慢気に言い放った。


(さっきもこの光景見た気がする)


 花子さんはチラチラと目でぼくの様子をうかがっている。


(リアクション待ちかなぁ?なにか質問しなきゃ)


 少し考える。


「あ!さいきょうってなんですか?強いという意味ですか?恐いという意味ですか?それともヤバイみたいな意味で凶ですか?」


「そんなの聞く側の解釈に任せるわよ」


 やれやれといった様子でぼくの質問に答え再び質問待ち。


「んー…あ!怪談や都市伝説の頂点なんですね」


「そう!そーよ!それ!」


 どうやら待っていた質問はこれだったようだ。


「ええと、基準とかってあるんですか?」


「それはね………」


 少しもったいぶる。


「知名度よ!!!」


「知名度ですか…」


「そうよ!全国どこの学校行っても私を知らない子供はいないはずよ!」


「たしかに有名ですよね」


「でしょ!」


 花子さんはズイッと顔を近づける。


「それが根拠なんですか?」


「怪談、都市伝説にとって知名度こそが戦闘力なのよ!」


「それだったら口裂け女とかはどうですか?かなり有名だと思いますけど」


「そうね、私もあいつのことはライバルとして認めてるわ」


「もしかして、知り合いなんですか?」


「まぁね、いずれ紹介する機会があると思うわ」


(あんまり会いたくないなぁ)


 ぼくの心の声を察した花子さんは


「大丈夫よ、あいつは人畜無害だから」


「でもよく聞く怪談だと恐いですよね。花子さんの怪談だってトイレに引きずり込むとかありましたし」


 花子さんは「ふー」とため息を吐いた。


「せっかくだから、私の怪談が広まったきっかけを話してあげる。あれはね……」


 花子さんは語り始める。


「私が幽霊になりたての頃だったわ」


(なんか始まっちゃった)


 ぼくは一応興味があるので黙って聞くことにした。


~~~回想~~~


「んん…ここ……は?」 


 おかっぱ頭で白のワイシャツで赤い吊りスカートを着た少女が目を覚ましたのは女子トイレの洗面台の前だった。


「トイレ?私、何してたんだっけ?」


 少女はしばらく考える。ふと窓の外を見ると空はオレンジ色に染まっている事に気づく。


「とりあえず帰らなきゃ」


 少女はトイレから出ようとするが


「いたっ」


 何かにぶつかる。だがそこはトイレの出入り口で扉などはない。


「ん?なに?」


 出入口に手を伸ばすと指先が何かに触れる。


「なにこれ?」


 出入り口にある“何か”を確かめるため両手でペタペタ触る。その様子はパントマイムのよう


「出られる隙間は………」


 一通り調べたが見えない“何か”は出入り口全体を覆っていた。


「なんで……そうだ!窓は」


 トイレの突き当たりにある窓の前に来たが伸長が足りないせいか空しか見えない。


 少女は窓をよじ登ろうと手を伸ばすが、ここも出入り口と同様に見えない“何か”に阻まれる。


「ここもなの」


 諦めきれず外の様子を確かめるため窓の前でピョンピョン飛び跳ねる。何度か飛び跳ねた結果、少しだけだが収穫はあった。


「2階…ううん3階かしら?」


 途方に暮れてると


「誰かいますか?」


 出入り口の方から声がした。そこには廊下から様子を伺う警備員の姿があった。


「ここにいます!トイレから出られないんです。助けてください!」


 少女は助けが来たと喜び自分が居る事をアピールする。警備員はトイレに足を踏み入れようとする。


「待って!警備員さん!」


 少女の声は届かず警備員はトイレに入ってしまった。


「入るのは簡単なんだ…2人共閉じ込められちゃった。どうしよう?警備員さん」


 警備員は状況を理解してないのか少女には目もくれず、手前の個室トイレから順に中を覗き込む。


「よし、誰も居ないな」


 すべての個室を確認すると出入り口の方へ歩き出す。


「え!警備員さん!私ここにいるんだけど」


 少女は警備員の腕を掴もうと手を伸ばす。


「え…」


 手は警備員の体をすり抜ける。


「うそ……これじゃまるで…」


 少女が混乱してると警備員はつぶやく。


「こんな、おっかない場所早く出ないと何があるかわかったもんじゃねぇ」


「おっかない場所…………っ!」


 少女の頭に痛みが走る。


「思い出した……私………死んだんだ…」


 少女は自ら命を絶った事を思い出し膝から崩れ落ちる。それと同時に警備員はパチンッとトイレの照明を消し立ち去る。


 少女……改め幽霊少女を放心状態から正気に戻したのは夜の暗闇だった。


「よ……る…?」


 正気に戻ったものの幼い子供が1人で真っ暗闇。当然パニックに陥る。


「いや…1人はいや!誰か!誰か居ないの?お願い……警備員さんでもいいから1人にしないで……おね……が…い」


 幽霊少女は泣き続けた。何時間も泣き続けたが疲れや眠気は一切感じない。


 幽霊少女は光に照らされてることに気づく、月明かりだ。やわらかい月明かりは幽霊少女の心を落ち着かせた。


 空が明るくなり校舎に子供たちの声が響きはじめた頃、幽霊少女は3階のトイレに居た。


「よし!自分になにが出来るのか、それを確かめなきゃ」


 昨日までとはうってかわって前向きになった幽霊少女。


「ん~人に触れることは出来なかったわよね、物は……」


 幽霊少女は洗面台の蛇口を回そうとするが触ることができずすり抜ける。


「物も触れないか……だったら」


 幽霊少女は個室トイレの壁をすり抜けれる事を確認。


「もしかして、これなら!」


 次に幽霊少女は男子トイレと女子トイレを隔てる壁に突進。


「いだっ」


 見事に壁に激突。


「ダメか」


 反対側の壁も確かめるが女子トイレからの脱出はムリなようだ。


「そうだ!幽霊なんだから触れずに物を動かしたり出来るかも」


 洗面台に置いてある石鹸を見つめ手をかざす。


「ぐぬぬ」


 石鹸はピクリともしない。


「ムリかぁ」


 諦めかけた矢先、床を高速で移動する漆黒の虫に気づく。


「ぎゃあああぁぁ」


 洗面台に置いてある石鹸が次々と漆黒の虫に飛んでいく。直撃はしなかったものの幸い漆黒の虫は廊下の方へ逃げてった。


「はぁはぁはぁ、あれ?いまの」


 再び石鹸を見つめ手をかざす。


「んんん」


 すると石鹸はゆっくりと浮きはじめた。


「わぁ♪」


 集中が途切れると石鹸はポトッと落ちる。


(集中集中)


 数時間後


「あはは、すごいすごーい♪」


 幽霊少女の周りを石鹸がビュンビュン飛び回ってる。力の使い方のコツを掴んだようだ。


「えいっ」


 廊下に向かって石鹸を飛ばす。するとトイレから出た石鹸はコントロールを失い廊下の壁に激突。


「うぬぬ」


 廊下に落ちた石鹸を再び操ろうとするがピクリともしない。


「ふぅ」


 廊下の石鹸を諦めトイレ内にある他の石鹸を操る。自由自在に石鹸は飛び回る。


「私の力はトイレ内でしか使えないわけね」


 そして再び放課後


「誰かいますか?」


「昨日の警備員ね」


 昨日と同様に少女に気づくこともなく手前の個室トイレから順に中を覗き込む。


「よし、誰も居ないな」


「私が居るわよ。この節穴!」


 声も昨日と同様に警備員の耳には届かなかった。一通り確認を終えると警備員はパチンッとトイレの照明を消す。


「ちょっと!私が居るんだから消さないでよね」


 幽霊少女は習得したばかりの能力で照明のスイッチを押す。


「あ、あれ?」


 警備員は消したはずの照明が点き不思議に思いながらも再び消す。


「懲りないわね」


 また照明がひとりでに点く。


「え?え!?」


 目の前で照明のスイッチが勝手に動いた事で明らかに動揺、混乱、恐怖が見て取れる。


「勝手に明かりを消さないように少しだけ脅かしてやろうかしら」


 すると3つある個室トイレのドアがすべてバタンッバタンッと開閉を繰り返し、洗面台の蛇口からは水が勢いよく流れる。


「う、うわああぁぁぁ」


 目の前でありえない事が起き警備員は絶叫し、足がもつれながらもトイレから脱出。


「明日も待ってるわぁ♪」


 笑いながら手を振った。だが次の日から警備員は女子トイレを素通りするようになった。


「なによヘタレ、寂しいじゃない…」


 いつの間にか浮遊能力も身につけていた幽霊少女は膝を抱え宙を漂う。そして誰も来なくなって数ヶ月……


「ヒマね……」


 すると1人の少女が泣きながらトイレに駆け込み、一直線に一番奥の個室トイレに入った。


「久しぶりの客ね」


 幽霊少女は自分の存在を知らせようと石鹸を操ろうとしたが、警備員が来なくなったことを思い出し首を横に振り違う手段を考える。


「ヒックヒック」


 しゃっくりをするような泣き続ける少女。


「この子、ずっと泣いてるわね。こんな所に駆け込むんだもの、きっといじめね」


 うつむき泣き続ける少女の顔を幽霊少女は覗き込み喋りかける。


「私もね、いじめられてたんだ。辛いよね。でも1人にはならないで私があなたの話を聞いてあげるから……」


 少女に幽霊少女の声は届かない。


「なんでよ…物を触らずに動かしたり空を飛んだり出来るのになんで声は届かないのよ!!!」


 幽霊少女はもどかしさに思わず叫んだ。


「え、だ…れ?」


 いままで泣き続けてた少女は顔を上げ幽霊少女を見ている。幽霊少女は目が合ったことに気づく。


「あんた私が見えるの?」


「………はい」


「やったわ!これで会話ができる」


 姿が見えてるだけじゃない声も聞こえ会話も出来る。数ヵ月の間、誰とも会話できなかったせいか物を操ったり浮遊したりする能力なんかより何倍もの感動が込み上げてくる。


「もし……かして、花子さん?」


 少女は恐る恐る尋ねる。


「名前まで知ってくれてるの!!」


 少女の顔はたちまち青ざめる。


「いやあぁぁぁぁぁ」


 少女は勢いよく個室トイレのドアを開け出入り口へ走る。


「待って!せっかく会話できるようになったのよ!」


 幽霊少女……いや、花子さんは咄嗟に能力を使い少女の動きを止める。


「だからね、一緒にあそぼ」


 花子さんはやさしく微笑みかけた。


「…………」


 少女は沈黙。その顔は何かを考えてるのではなく、ただ恐怖で言葉が出ないのだ。黙って恐怖と向き合っててもムダに恐怖が増していく事に気づいた少女は…


「いやぁぁあ、まだ死にたくない!だれかたすけてぇぇぇ」


 泣き叫び助けを求める。みっともなくても恐怖に押し潰されないように心を守る防衛手段としては正常なのかもしれない。


「だ、大丈夫よ。なにもしないから怖がらないで」


 少女に近づく。


「あばばばば」


 花子さんの能力で身動き取れない少女は目の前に迫って来る恐怖に耐える事ができず泡を吹いて気を失った。


「そんなに怯えなくてもいいじゃない……」


 寂しげな表情で少女を見つめる。


「この子どうしよう……廊下に放り出せば誰か気づいて助けるかしら」


 花子さんは少女を出入り口まで運ぶとドサッと放り投げる。


「雑でごめんね、私の能力の範囲外なのよ」


 意識のない少女に謝る。


「きみ!大丈夫?」


 タイミングよく男性職員が少女に気づき駆け寄る。


「……んん、せんせ?」


「きみ、なにがあった?」


「え……と、どうしてたんだっけ?」


 少女は重い頭を起こし思い出そうとする。そして女子トイレが目に入りすべてを思い出す。


「いや、いや、いやぁぁぁあ」


 少女は慌てて立ち上がり男性職員の質問はそっちのけで走り去っていった。


 この少女の体験が噂で広がり、トイレの花子さんという怪談が全国へと広がったのだ


~~~回想おわり~~~


「てなわけよ」


「なんで少女を逃がしたんですか?いまのぼくみたいに雑談を強要できたんじゃないですか?」


「強要って人聞き悪いわね。まぁ出来たわよ」


「ならなんで?」


「あんなにギャン泣きされたら、さすがに私も傷つくわよ」


「ギャン泣きですか…」


「なによ、最近の言葉くらい知ってるんだから!テレビで!」


 花子さんビシッとテレビを指差した。


「そういえば、見えるようになってからずっとそのままなんですか?」


「ん?どういう意味?」


「ええと、いまぼくにも花子さんが見えてるじゃないですか。幽霊って基本的に見えない状態が普通じゃないかなって」


「ああ、そういうこと。電気のONとOFFみたいに見えたり消えたり出来るわよ。いまはONでOFFにしたら消えるわよ」


「へ~」


「なぁにぃ?みたいのぉ?どうしてもみたいならぁみせてあげるけどぉ?ほれほれ」


 花子さんはスカートの裾を持ちふとももがチラチラ見える。


「花子さんへんたいみたいです」


「だれが露出狂よ」


 ビシッとツッコミを入れる。


「言ってないです」


「まぁ見てなさい。」


 花子さんは指パッチン。


「どう?驚いたかしら?まぁこの状態だと姿だけじゃなく声も聞こえないんだけどね」


「ええと」


 ぼくは言葉がまとまらず立ち尽くす。


「ふふん♪驚きで言葉にならないようね」


 言葉がまとまらないが見たままのことを伝える事にした。


「あの見えてますよ」


 さっきの露出狂うんぬんのやりとりがあったせいか花子さんは顔を真っ赤にしてスカートの裾を引っ張る。


「あ、あんた!堂々と見てんじゃないわよ!」


「いえ、違います」


「なにが違うってのよ!」


「ええと、姿消えてないです」


「………」


 花子さんは平静を装い、髪と服の身だしなみを整えて咳払い。


「なによ、それならそうと早く言いなさいよ」


 花子さんは「あれ?」となにかに気づく。


「あんた今の私が見えてるの!!!?」


「はい」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってなさい」


 花子さんはぼくの前でモデルっぽいポーズでしばらく固まる。


 ぼくはポケットからスマホを取り出し、カシャッと写真撮影。


「あら、写真撮るなら可愛く撮りなさい。正面からじゃなく角度をつけたり、ローアングルで撮ったりするのもいいわ♪」


「ローアングルってなんですか?」


「低い視点から撮影する手法よ」


「床に寝そべらないとムリそうなのでやめときます」


「プロ根性ないわね、仕方ない」


 花子さんはそのポーズのまま宙に浮かぶ。


「これでいいでしょ、私が幽霊でよかったわね」


 ぼくは宙を浮いてる花子さんを撮影する。


「あの、花子さん」


「なに?他のポーズをご所望かしら?」


「いえ、その……見えてます」


「そりゃそうよ!いまはON状態なんだから。写真も動画もON状態にしないと写らないのよ。ちなみにね!写真や動画だけ限定でON状態に出来たりもするわ!」


 誇らしげに幽霊としての能力を解説。


「そうじゃなくて………パンツが…」


 花子さんは顔を真っ赤にして言葉にならない声を上げながら一番奥の…手前から3つ目の個室トイレへ ぼくを拒絶するようにドアはバタンッと閉まった。


 ドアの向こうから声が聞こえる。


「あんたはホントなんなのよ…ポーズをとってON/OFF状態を繰り返して、あんたがホントに見えてるのか確かめようとしてたら写真撮影はじめるし」


(しばらく動かなかった時にON/OFFを繰り返してたのか)


「かと思ったら…私のわたしのワタシノォォォ」


「あ、でも最初から見えてましたよ」


「さイシょカら……もっとひどいわよ!!」


「じゃなくて!姿が見えなくなったりしませんでしたよ!」


「………」


 ドアがギィィィとゆっくり開き花子さんが現れる。


(今日一番ホラーっぽい)


「じゃ、じゃあいまから消えるから私を目で追いなさい」


「わかりました」


 花子さんはぼくの横を通り過ぎたり宙に浮いたり高速で移動したりしたが、ぼくはそれをすべて目で追った。


「んんん」


 花子さんは体を震わす。


「花子さん?」


「あんた逸材よ!」


「ぼくに霊感的なものが?」


「ざっくり言うとそうね」


「あまり嬉しくないなぁ」


「私は大助かりよ♪」


「なんでです?」


「私たち幽霊はね、力を使ったり姿を現す時は霊力を消耗して疲れるのよ」


 花子さんはぼくに顔を近づける。


「でも、あんたは見えてるみたいだから霊力を消耗せずに話ができるわ♪」


 すると出入り口のドアがひとりでに開く。


「これからよろしくね♪可能な限り放課後は毎日来るのよ!」


 どうやら帰っていいようだ。今日は………


「そういえば私だけ自己紹介してたわね。あんた名前だけでも教えなさい」


「ぼくですか?ぼくの名前は…」


 花子さんにぼくの名前を伝える。


「犬みたいな名前ね」


「たまに言われます」


「それじゃまた明日」


「はい、また明日」


 ぼくは思わず笑顔で返す。


(また明日って言ってしまった。まぁいいか、楽しかったし♪)


 この日をきっかけに刺激的で忘れられない人達?との出会いが待っているなんてぼくは知る由もない。


【おまけ】


 ぼくを旧校舎に強制的に追いやった2人は旧校舎の裏にある旧グラウンドにいた。


「おせぇな」


 ぼやく少年はぼくを追いやった張本人。ぽっちゃり気味だがクラスのガキ大将。


「あいつ逃げ出したりしてるかも」


 ガキ大将の横で喋るこの少年はいつもガキ大将の機嫌を取る取り巻きだ。


「逃げてたら明日もっとひどい目に遭わせてやる!」


「トイレの窓から顔を出せば許すって言ったけど窓はどこだっけ?」


「ん?確か旧校舎の真ん中から少し左だったと思うぜ」


 ガキ大将は指を差して取り巻きの質問に答える。ちょうどその時、指を差した窓から人影が


「ようやくか、おせぇんだよ!あいつ」


「あ、あいつってあんな見た目だっけ?」


 取り巻きはガキ大将の服を引っ張り震える声で聞いた。窓から姿を現したのは、黒髪のおかっぱ頭でワイシャツに赤い吊りスカートの人物。


「誰だよあいつ」


「ね、ねぇ、あの見た目ってもしかして…」


 取り巻きはガキ大将の腕にしがみつく。


「うるせぇ!んなわけねぇだろ!」


 3階の窓に姿を現した人物は首を左右にキョロキョロ。


「な、なにか探してるよぉ。どうしよぅ」


「俺達には関係ねぇよ」


 左右をキョロキョロしてた人物はピタッと止まり2人に視線を向けた。


「やばいよやばいよ!こっち見てる」


「気のせいだ!」


「でもグラウンドにはボクたちしかいないよ」


 3階の窓に姿を現した人物は2人を見ながら口をニタァと怪しげな笑みを浮かべた。


「ぎゅあああぁぁ」

「ぎゃぁぁぁぁ」


 2人は同時に絶叫しその場から逃走。



≪次回予告≫


 夜道、マスクを着けた女性を見たら気をつけて その女性が質問してきたら全速力で逃げて 「あたし、きれい?」 この質問をされたらもう助からない ポマード? 助かる保証はないよ でも、少しでも希望があるならやってみればいい


『第3話 あたし、きれい?口裂け女』

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