untitled

@rabbit090

第1話

 ややこしいなあ、とは思っていた。

 わたしの名前は彩音あやねで、彼の名前は彩理いろりだったから。

 彩理とは特に知り合いでも何でもない、ただ母同士が近くに住んでいて、お互いの名前を、少しだけ近づけたらしい。

 というか、彩理の父は、滅茶苦茶かっこいい俳優だった。

 わたしも、ちょっと驚くほど、名前で見るとスラッとして、屈託がなくて、心が気後れする程、イケメンだったのだ。

 だが、彩理は違った。

 もう、オタク、といった風体であった。(小学生だったけど、ごめん彩理。)

 そして、半面わたしは普通の家系で育ったはずなのに、やたらと可愛らしかった(らしい)。

 だから、高校生になった今、とてもモテている。

 「彩音、今度遊びに行かないか?」

 「…ごめん、断るのは悪いと思うんだけど、わたし、彩理と遊ばなくちゃいけないから。」

 「そっか。」

 男の子が、わたしのことを誘ってくる際、必ずこの言葉でお断りを入れている。

 でも、やっぱりごめん、彩理。

 わたしは、彩理とはここ最近話したことすらないし、一緒にいることもない。でもみなわたしたちが小さいころからずっと、幼馴染のように同じ学校にいる、ということを知っていた。

 女の子は、何であんな奴と、と言うし、男の子は、ち、と舌打ちをしている。

 わたしは、

 「………。」

 「何?」

 「別に…。」

 「そう。」

 彩理に謝らなくてはいけないことがある。

 わたしは、彩理のことを友達だと思っていた。

 でも、彩理と彩音、という名前でクラスのみんなからからかわれることが増えて、私はそれに、同意した。

 彩理の前で、みんなと一緒に、彩理のことを馬鹿にしていた。

 悪いとは思ってる、でもわたしだってこどもだったんだしさ。

 なんて言い訳をしてみるけど、もう彩理はわたしに向かって話しかけることは無い。いつも不機嫌そうに席に座り、一人でパソコンをいじっていた。(パソコンの持ち込みオーケーな学校だった)

 でもさ、彩理。

 わたしは、あんたと少しでも、昔みたいに仲良くできたらなあ、と思っているんだ。

 これは、多分友情なのかな、わたしは、女の子と友情、のようなものを築くはできるけど、感じることはできなかった。

 ずっと、彩理だけだった、友達だったのは、わたしにとって。


 あいつは、俺のことを避けている。

 いや、分かっている。

 俺は、あいつにからかわれた。でも、それはその場しのぎのことだったから、仕方ないだろ?

 でも、俺はそれ以来、あまり彩音に話しかけることをしなくなった。

 なぜだかは分からない、ただ、そういう気が起きなくなったんだ。

 それに、昔は彩音は、気が強くてちょっと浮いていた、だから俺は母から言われてたってこともあるけど、積極的にあいつのことを誘った。

 「遊ぼう。」と。

 でもあいつは、それを嫌がった。

 いつも曇った眼をして、何であんたなんかにって顔で、でも、俺にとって彩音はこどものような存在だった。

 だってあいつは、いつも一人だったから。家庭でも、学校でも、気が強いのがいけないのか、表面上だけ良くて、あとはすべてが嘘だらけになっていた。

 だからあいつは、俺の前でだけは、笑っていた。

 嫌そうな顔は、いつもの不機嫌の反動だと受け止めて、俺はあいつを、まだ、誘い続けていた。

 しかし、友情なんて、もろいのかもしれない。

 だって、俺は多分、もう彩音のことは、見ない。

 俺には、好きな人ができた。

 だから、ごめんな、彩音。

 俺にとっての妹、なのかもしれない、でも、俺には今、大事な人間が、いるんだ。

 

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