ハリネズミのハリー第1話
@peacetohanage
第1話
あらゆる生き物達が住む町の一角に、新しいカフェがオープンしました。
そこはハリネズミのハリーが営む小さなカフェです。
客席は全部で五つだけ。
その日のおすすめメニューが、いつも店先の黒板にチョークで書かれました。
今日のおすすめはグラタンです。
通りを歩く生き物達は、興味本位に皆黒板を覗き込みます。
そうして一匹の猫が、どうやら来店を決めた模様です。
カランコロン!
玄関の鐘が鳴りました。
ハリーはお客を見やります。
するとハリーと猫の瞳が、ばっちりと一直線に合いました。
それと言うのも、猫の他にはまだお客が誰一人として居なかったからです。
気さくなハリーは笑顔で歓迎をします。
「やぁ!ようこそ、いらっしゃい!さぁ、空いてる席に腰掛けてください。どれでも好きな椅子で良いよ」
ハリーの店の椅子五つはどれも異なる椅子でした。
猫は一番左の藤編の椅子を引いて座ります。
「やぁ、ハリー!グラタンを一つくださいな?」
「勿論ですとも。ただ今から作りますからね?」
そう言ってハリーは後ろの戸棚からグラタン皿を一枚くるりと取り出しました。
「グラタンはね?失敗した料理のおこげが美味しかった事から偶然生まれた料理なんですよ!」
「何だって!失敗からあんなに美味しい物が?」
続いてハリーはベシャメルソースを作る為に、小麦粉やバターや牛乳を戸棚や冷蔵庫からかき集めて来ました。
「フランスの郷土料理を焦がしてしまったのが事の発端なんです。それにお鍋のおこげを『掻き取る』グラッターと言う単語が名前の由来だよ?」
ハリーは見事な手捌きで、上手にベシャメルソースを焦がしたりダマにしたりせずに熱し終わりました。
店内にはクリーミーな良い匂いが漂っています。
猫は長いヒゲのある鼻先をひくひくとさせました。
それから舌舐めずりを一度ぺろり。
ハリーがエビとマッシュルームとベシャメルソースを器によそい、最後にチーズをたんと振り掛け終わると、熱いオーブンに放り込みます。
グラタンが焼き上がるまでの歓談タイムは、お互いの趣味の話しで盛り上がりました。
ハリーの趣味は森の散策で、猫の趣味は海釣りです。
そうして熱々のグラタンが完成すると、まだ湯気がほくほくと上り立つ出来立てを、ハリーは猫の席まで運びました。
猫は手を合わせて、頬を緩ませて喜びました。
まるでマタタビを目前にした時みたいです!
「わぁ!良い焼き加減のグラタンだ。いただきます」
「はい、どうぞ!召し上がれ」
猫が熱々のグラタンをふぅふぅと全て平らげてしまうと、帰り際「また来月来るよ!」とハリーに言って店を後にします。
ハリーは綺麗さっぱりと空になったグラタン皿を洗い終えると、再び定位置にぽつりと立ち尽くしました。
そうして正面の窓ガラスから通りを行き交う生き物達を眺めるのです。
ゾウやキリンやラクダやヘビ…皆黒板を覗き込んで行きます。
「さて!カトラリー磨きでもするとしようかな?」
明日のおすすめは、ふんわりふわふわオムレツです。
おわり
ハリネズミのハリー第1話 @peacetohanage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ハリネズミのハリー第1話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます