♡失恋♡
恋は実らなかった。
そして、今後この恋が実るようなこともない。
雛乃は同性を恋愛対象に見ていないどころか、恋愛対象に見るという前提を普通だと思っていない。
この世の中、同性を恋愛対象にするっていうのは比較的マイノリティではなくなったと思うのだが……。
どうやら雛乃にとってはそういうわけじゃないらしい。
他人の思想はそう簡単には変えられないし、変わらない。
私は雛乃を恋愛的に好きだと思うけど、雛乃は私のことを恋愛的に好いてくれることはない。
優しさでそういう関係になることはあるかもしれないけど。
その形を私は望まない。
決して望んではならない。
雛乃の優しさに甘えて、彼女の人生をめちゃくちゃにするようなことはあってはならないのだ。
絶対にだ。
そうなってしまう前に私は雛乃の目の前から、立ち去らなければならい。
死ぬことだって検討すべきだ。
決して大袈裟な表現ではない。
今日私は失恋した。
はっきりと失恋した。
いくら自分に都合の良いように解釈したとしても失恋したという事実は覆せない。
それで良い。
それが一番都合が悪いけど、一番都合が良い。
悲しい。
喋ってしまえば涙が溢れてしまいそうで、でもここで泣いたら私の気持ちが露呈してしまうので泣けなくて。
泣きたいのに泣けない。
生理現象に歯向かう。
それがこんなにも辛いことだとは思わなかった。
下唇を噛みしめる。
そして黒板を見つめる。
まるで何か見つめているかのような雰囲気を醸し出しつつ。
実際はなんにも見ていない。
虚空を見つめているってやつだ。
それでも雛乃の顔を見るのに比べればマシだなぁとか思う。
彼女の顔を見たら、涙腺が崩壊してしまう気がしたから。
なにか違うことを考えよう。
この寂寥感を心の中から追い出したい。
うう、とりあえず将来について考えよう。
これだけ漠然としたものなら、今の気持ちを忘れられるはずだ。
私は将来どうなるのかな。
普通に高校を卒業して、普通に大学に進学して、普通に就職するのだろう。
その時に隣で立っている人は誰だろうか。
その人は私に向けて微笑みを向けてくれるのだろうか。
誰かはわからないけど、その相手が雛乃ではないことだけは理解できる。
というか、そもそも誰か隣に立ってくれているのだろうか。
私は誰かを隣に立たせるのだろうか。
いやだってさ、雛乃よりも良い人ってそう簡単に見つかるとは思えないじゃん。
あぁ……ダメだ。
忘れたいのに忘れられない。
手を離したつもりなのに、雛乃が私の心に入り込んでくる。
なんで来るのかな。
雛乃は女の子同士の恋愛を良しとしないんでしょ。
もうさ、私の心に入ってこないでよ。
私も雛乃を入れないでよ。
もう終わったんでしょ。
失恋したんでしょ。
そう思うことにしたんでしょ。
ねぇ……! そうでしょ!
「唯華?」
雛乃は私の背中をちょんちょんと指で突っつく。
あぁ、そうか。気合で乗り越えるしかないんだね。
「なんでもないよ」
私は貼り付けたような笑顔を見せる。
雛乃に向ける。
きっとそれは酷いものだったと思う。
もっとも、自分の笑顔なんて鏡がなければわからないけど。
感覚としてなんとなくはわかるものだ。
引き攣っているのだろう。
口角を上げているつもりだけど、表情筋が上手く動かない。
上手く笑えないのはしょうがない。笑おうと思って、笑えないのだからどうしようもない。
せめて涙は溢さないように。
「本当になんでもないから」
「そっか」
「とりあえず、雛乃に一つだけ教えてあげる」
「ん?」
雛乃は不思議そうに首を傾げる。
「今の時代、同性の恋愛って一般的になってるらしいよ。少なくとも気持ち悪いとか思っちゃいけないんだって。だから、外ではあまり言わない方が良いかも。同性同士の恋愛は普通じゃないって」
「普通じゃないって言ったのは唯華でしょ」
「いや、まぁ、そうだけど」
「でも、それもそっか」
雛乃は納得する。
うん、これで良かった。
雛乃が将来、ポロっと無意識のうちに相手を傷つけるようなことはなくなった。傷付いて、夢を捨てるのは私だけで十分だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます