♡一人になって♡
雛乃とキスをした。
濃厚で熱いキスだった。
成り行きというか、ほとんど、うーん、違うか。
九割くらい私が主導権を握ってキスをした。
唇を奪った。盗んだ。
私は深くあれこれ考えて行動する人間ではない。
周囲というか親には自由奔放で猫みたいな性格だなと評される。
ある程度のことは、まぁ、そういうものだろうとか、人生なんてそんなもんだよなぁ、と達観した態度をとる。
人によってはメンタルが強いとか、良い意味で鈍感だとか言ってくれるけどね、そんなことはない。
あくまでなにも考えていないだけ。
達観しているんじゃない、鈍感なわけでもない。
本当になにも考えていないだけ。
それ以上でもなければ、それ以下でもない。
とにかく、私という人間はそういう人間。
適当という身体に適当というペンキを塗ってできあがったような人間である。
キスをしたあの瞬間も深いことはなにも考えていなかった。
ファーストキスの味はどんな味がするのかなぁ。
本当にレモンの味じゃないのかなぁ。
イチゴの味がするのかなぁ。と、好奇心に支配されて、考える前に行動に移していた。
ファーストキス以外のことは考えていなかった。
少しは考えるべきだったのに、なにも考えていなかったのだ。
考えていなかったからこそ、今こうやって私は頭を抱えている。
とんでもないことをしてしまったという思いが波のように次々に押し寄せてくる。
同時に雛乃とのキスは悪いものではなかったな、と思っている自分に嫌気がさす。
自己嫌悪である。
彼女は幼馴染であり、友達。
ただの友達ではない。
親友だ。
決して、キスを求め合うような関係性ではないし、そういう関係性になることは許されない。
恋人ではないし、これから恋人になるというような未来だってない。
同性だから。
ありえない。
それなのに、あのキスは良かったなぁと思っている自分が嫌だ。
求めている。
体が、心が、脳が、キスを求めている。
もう一度。
もう一回だけ、と。
雛乃とのキスを求めているのだ。
まぁ、うん。
この想いの名前を私は知っている。
そして私が雛乃に対してこの想いを抱くのはおかしいというのも理解している。
けど! 抱いてしまったのだから仕方ない。
無視なんてできない。
できるはずもない。
どう頑張って押さえつけてもひょこっと顔を出してくる。
逃げたいと望んだとしても逃げられない。
感情を押し殺すなんてできやしないから。
私は雛乃に恋をしてしまった。
同性の幼馴染を恋愛的な意味で好きになってしまった。
おかしいことだと思う。
女性である私が女の子を好きになる。
とてつもなくおかしなことというのはわかっている。
だけど好きになってしまったという事実は変えられないし、目を背けることもできない。
好きになってしまったのだからどうしようもないのだ。
でも想いを伝えるという選択肢は私にはない。
雛乃は優しいから。
今日のキスみたいにあれこれ言いながらも受け入れてくれる。
例えそれが、彼女の本心ではなかったとしても。
私の望みを叶えようとすると、雛乃の人生をめちゃくちゃにしてしまう。
絶対にとは言い切れないけど、多分そうなってしまうのだろう。
現状幸せな未来を私は思い描けない。
少なくとも、私にそこまでの覚悟はない。責任はとれないし。
ただでさえ私は適当で自由な人間だ。
今までだって散々迷惑をかけてきた自覚はある。
幼稚園から始まって、小学校、中学校と大いに迷惑をかけてきた。
そして、高校。今もなお迷惑をかけ続けている。
それなのにこれ以上迷惑をかけたいとは思わない。
私は決して、図太い人間ではないのだ。
だから、想いを口にすることはない。
雛乃に伝える機会も訪れない。
機会は作るものだとか良く言うけど、機会を作りたいとも思えない。
好きだけど。
恋をしてしまったけど。
これは私の中に隠しておかなきゃいけないものだから。
自業自得。
なにも考えずにキスをして、そのキスで意識してしまった私のせいなのだ。
雛乃にまでその責任を背負わせるつもりはない。
私の初恋は実らない。
種を植えただけで、芽を出すことはない。
仮に芽が出てきても成長する前に引っこ抜かないといけない。
それが私なりの責任の取り方だから。
今まで通り、私と雛乃は友達であって、幼馴染。
その関係を維持する。
少し辛いかもしれないけど、しょうがない。
すべては私の適当さが招いたことであり、自分自身で処理すべき問題なのだ。
だから受け入れるしかない。
密かに私は覚悟を決めたのだった。
窓の外はもう真っ暗だ。ふぁぁぁぁぁ、と欠伸が出た。
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