第47話 選ばれし勇者
笑顔で言うと、こくこくとうなずく二人。口を塞がれたまま必死にうなずいているのを見て、ロランは後ろで待機する骸骨騎士たちに神殿の入り口を確保するように指示した。それから、ロランは門番たちを拘束したまま神殿の中へと入っていく。
そこは大理石でできた床や壁がある、広々とした空間だった。天井は高く、中央には太い柱がいくつも立っている。奥の方には祭壇のようなものがあり、そこには剣を握る女性石像があった。
神殿内は静寂に包まれていて、人の気配はない。しかし、その石像はソラーナではなかった。それに疑問に感じ、まじまじとその掘られた顔を見つめる。
どこかで見覚えがある顔だった。ロランは残っている記憶をたどる。
「んーとあぁ白の勇者か」
石像を眺めていると、横からレオが顔を覗かせる。
「白の勇者?」
「あぁ、最初で最後の一番厄介な女だったな」
石像の女性は白い鎧を着ていて、腰には聖剣を携えていた。そして、兜の下からは美しい髪が伸びている。彼はまさに美丈夫と呼ぶにふさわしい容姿をしていた。
ロランはため息をつく。彼女が魔王城へと侵入し、危うく殺されかけた。本当に強かった相手だったが、今はもういない。戦いの最終局面にて彼女は病に倒れたのだから。最後は魔王の抱く手の中で悔しさと、そして、魔王ロランの真意を知り、笑顔で息を引き取った。もしも、万全の態勢で挑まれたのなら、どうなっていたのか。今でも考えるだけでゾッとする。
「君もソラーナに振り回されたんだね」
同情するように白の勇者の石像へ声をかけたあとレオとヨナともに先へ進むことにした。
トゥーダム神殿は、女神ソラーナを祀る場所だが、その地下にはもう一つ隠された部屋が存在そうだ。
それは、白の勇者が残りた遺物を隠す場所だった。
地下に続く薄暗い階段を降り、埃とかび臭いレンガで補強されているトンネルのような横穴を進む。
壁には色鮮やかに壁画が描かれていた。どれも彼女を讃えるもので、女神に選ばれた勇者の中でも、特に優秀な戦士であったことが記されている。
ロランが視線を止めた。
「魔王ロランの手によってその命を散らした……か」
壁画には、魔王城へと向かう一人の女性の後ろ姿が描かれていた。この壁画を描いた人物は、よほど白の勇者のことを慕っていたに違いない。彼女の死を悼み、悲しげに言葉を綴る。
「まぁ、白の勇者は僕が殺したんじゃないんだけどね」
レオが苦笑する。
しばらく進むと、突き当たりに大きな鉄の扉が現れた。
ヨナがロランの手をわずらわせないためにもと鉄扉を開けようとする。しかし、びくともしなかった。
押しても引いてもだめで、鍵穴すら存在しない。ヨナは眉を八の字にして、役に立てなかったことを恥じているようだった。
ロランが仕方ないな、と鉄扉に手をかける。すると鉄扉の真ん中あたり、赤い文字が浮かび上がってきた。
「ん、この言葉は知らないな」
見たことのない文字だった。それにレオが目を細める。
「―――この扉、何人も通すこと許されず。資格ある者のみ開くこと許される。だってさ」
そういって、レオは謎の文字を読み解いた。
「え、読めるの?」
ロランは驚いて聞き返す。
そんな彼に、レオは得意げに胸を張って答えた。
ロランも一応、古文書などを解読できるくらいの知識はある。しかし、そうそう簡単には読み解けるほど精通はしていなかった。
そもそも、人間の古代文字なんて興味がなかったし、読み解く必要がなかったからだ。
それがあっさり読めてしまったことに驚いた。
「おばあちゃんが教えてくれたんだ~」
「あ、そうか。レオは魔女の子だったね」
ロランはレオの一族について思い出す。かつて、彼女の祖先である魔女と呼ばれた女は、魔術に長けていた。その力は、魔族にさえ恐れられるほどで、危険視していたほどだ。その血を受け継ぐ孫娘であるレオもまた、かなりの素質を持っているようだ。本人はまだそのことに気が付いていないが。
(――――魔法、どこかで教えてあげようかな)
とはいえ、ロランは別に古代文字に興味があったわけではないので、レオの言葉をそのまま受け取ることにする。
すると、今度はヨナが口を尖らせて、すねているようにみえた。
どうやら自分よりもレオが役に立ったことが面白くなかったらしい。
ロランはそんな彼女を一瞥したあと、ロランは腰に手を当てて、鉄の扉へと視線を戻す。
開きそうにない雰囲気だった。
「さて、どうしたものか。選ばれし者って、勇者のことだろうけど……」
そうなると、この場にいる中で該当者は誰一人もいない。勝手に勇者になれと言われた人物を除いては。
いや、まさかなーと思いながらも、ロランは鉄扉へと手をかざしてみた。すると、その瞬間、淡い光が溢れ出す。
眩しさから思わずロランたちは腕で顔を隠してしまう。
しばらくして、目を開けるとそこには信じられないものが映った。
鉄の扉が音を立てて開いたのだ。
ヨナとレオが驚きの声を上げる。当本人も驚いてしまった。
「いや、開くんかい!」
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