第15話 フェレン聖騎士団 その3
そういって、エイラムは敬礼して、その場を辞した。
部屋の外に出ると一人の女見習い騎士がエイラムを待っていた。栗色の癖のある髪の毛でどこか頼りない面立ち。足も内股になっていて、気になる癖毛を触っていた。部屋から出てきたエイラムの姿を見て慌てて姿勢を正す。彼女はエイラムの従者にして、見習い騎士で名をアリシアという。横切っていくエイラムの後を追いていかれそうになり、慌てて駆け寄った。
長い大理石の敷き詰められた通路を歩き、自室へ戻ろうとしたエイラムは周囲に誰もいないことを確認してから大きくため息をついた。アリシアはそれに察して尋ねる。
「え、もしかして、また任務ですか?」
「正解。また任務」
真顔で答えた。冗談じゃないことを察したアリシアは目尻に涙を浮かべた。
「うぅ……。アリシアはもう身体がバキバキなのです……」
とうなだれる。
「喜べ。今日一日休暇が貰えたぞ」
何を喜ぶんだ? とアリシアは文句を言う。溜まっていた不満を漏らす。
「……休暇って一日だけじゃないですか?」
エイラムは無言で、それがどうしたんだ、という雰囲気を背中で出した。
「ブラックにもほどがありますよ」
ようやく遠征を終え、五体満足で帰って、今日で30日連勤。死なないのが不思議なくらいだ。アリシアにとって、1日だけの休みを休みとは言わない。
ブラックという言葉にエイラムは歩みをピタリと止めた。突然止まったことで、アリシアは気が付かずにエイラムの背中に鼻先をぶつけてしまう。
「ふぎゃっ」
エイラムも身体に振動を感じ、振り向くと真っ赤になった鼻を抑えるアリシアを見て、自分のせいだと察した。
「あ、ごめん」
「もー酷いですよーいきなり止まるなんてー」
アリシアの顔を覗き込んで確認すると頷いた。
「大丈夫、鼻はへっこんでない」
「へっこんだらお嫁にいけません!」
それにははっ、と一笑いしたあと身体を真正面に向けて彼女を見据えた。真剣な眼差しで涙目になっているアリシアを見つめる。
「アリシア、言いたいことがある」
「な、なんですか? いきなり。告白ですか?」
嫌悪を抱いたような顔をした。
「違うわ!」
とツッコミを入れた。思ったよりも声が大きかったようで、すれ違ってた教会信徒が身体をビクつかせる。エイラムは恥ありながら咳払いして改めて尋ねた。
「俺たちはなんだ?」
「え? なんですか、その唐突な質問は?」
「俺たちはなんだと聞いているんだ」
真剣な顔で問うエイラムにアリシアは考えた。
「フェレン聖騎士です。それがどうしたのですか?」
「そうだ。俺たちはフェレン聖騎士だ。俺たちは邪悪な魔物や魔族と戦い、人々を魔の手から守る。俺たちは剣を持ち、時に盾となって民を守らなければならない」
フェレン聖騎士になるときに教練を行う教官たちが言う言葉を思い出した。誰もが口を揃えて誇らしげに言っていた。アリシアにとっては今更何を言い出すのか、と感じたが。
「今、この瞬間にも守らなければならない民が魔物に襲われているかもしれない。そう思うと俺は気が気で夜も寝れない。考えてもみろ。こうしてお前と話している間にも、か弱き民が魔物に襲われ、血を流し、八つ裂きにされている。聞こえないか? 人々の助けを求める声が。感じないか? 女神の慈悲を求める心が」
「……は、はぁ。そうですねー」
それに棒読みで返す。疲労と睡魔で、ピークに達していたアリシアにとって、もはやどうでもいいことだった。とにかく、自分のベッドで大の字になって寝たい、ということだけが頭の中を支配していた。
「お前も中級騎士になったらわかる!」
そういって、アリシアの両肩に手を置き、握るとキラキラと目を輝かしていた。
「……ねむ」
熱血のエイラムに対して、やや淡白なアリシアにとってはめんどくさいタイプだった。
それに誰もが中級騎士になれない。一般人が見習いから下級騎士になれただけでも凄いことで、生まれつき特別な存在でない限り、雲の上の存在に近い。血が滲むような努力をしても所詮は一般人。魔法なんて使える訳がない。
と言っても、アリシアは簡易的な魔法と治癒魔法は習得していた。たがら、エイラムの護衛をしているのだ。そんなエイラムもアリシアには素質があると考えて、身近に置いている。
「あのー」
「なんだ?」
「そろそろ、離してもらえませんか?」
握りしめるエイラムの手を嫌そうにしていた。周りの騎士や教会信徒からも変な目で見られていた。慌てて手を離す。
「とりあえず、休暇をとります。書類に関しては既に押印済みですので、私室にある指定書庫に保管しておいて下さい」
アリシアが手に持っていた分厚い書類をエイラムに渡し、そのまま立ち去ろうとした。
「え? 俺がしまうの?」
呼び止めるとアリシアは振り返り際に微笑みを浮かべて、腰に吊る剣柄に手を添えて、白い歯を見せた。
「部下を酷使し過ぎたら、反乱が起きちゃいますよ♪」
そう言い残しアリシアは自分の私室へと戻っていくのであった。
♦♦♦♦♦
話は戻って、ロランとレオ、オルディアはというと―――――洞窟内に築かれた禍々しいオーラを放つ魔王の城へと向かっていた。城に入るには崖と崖の間にかけられた吊り橋を渡り、漆黒の闇を連想させる多いな鉄扉をくぐらなければならない。
吊り橋へ進むが分厚いロープに下は腐りかかった木板という作りで、一歩間違えれば、底の見えない崖へと落ちてしまう。
そこをロランは何も気にすることもなく、軽い足取りで歩いていく。踏んだ場所の木板が軋み上げた。それにレオは足がすくんでしまう。もたもたしているとそれに見かねたオルディアがレオを小脇に抱え上げた。
「ひぃ」
と情けない声が漏れる。それにお構いなしに、オルディアは今にも底が抜けそうな木板の吊り橋を進み始める。
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