秘密基地

野林緑里

第1話

「秘密基地を作ったの覚えてるか?」


 幼しぶりに居酒屋で飲んでいるとき、昭彦が突然そんなことを言い出した。


「そういえばそんなことあったなあ」


 隆明は焼酎を飲みながら脳裏に思い浮かべたのが、近所の山の中に作ったの秘密基地の姿だった。


 どこからか集めた木材やら金槌やらもってきて友達が何人かで少しずつ作ったものだった。子供が作ったにしてはかなり良くできた建物だった気がする。


「それがどうした?」


「いやねえ。作ったあとどうしたか覚えているか?」


「どうしたかなあ? しばらくは遊んでいた気がするが気づいたときにはあの山にも近づかなくなってたからなあ」


「そうそう、いつの間にか山にいかなくなったんだよなあ。だから秘密基地がどうなったのかだれもしらないんじゃないだろうか」


「ああ、そうだな。けどなぜ今頃そんな話をする?」


「いや急に思い出したんだ。なんかものすごく大事なものを秘密基地に置いてきた気がしてならなくてなあ。それがなんなのかわからない」


「なんだよ。それ? 秘密基地に行けば、お前の秘密でもわかるのか?」


「そうかもしれないな。俺だけじゃないお前の秘密も暴かれるかもよ」


「イヤイヤイヤ、秘密基地に秘密など置いてきてないぞ」


 そう否定してみるも本当にそうだろうかと隆明は秘密基地のことを思い出してみる。


 だれかが自分たちで秘密基地を作ろうと言い出した。それから夏休みを使って毎日山へと通い、2週間ほどで小さな小屋を作り上げたことを覚えている。その後はしばらく遊んでいたのだが夏休みが終わる頃には別の遊びに夢中で基地から遠のいていった。


 だれもが基地の存在を話すことさえもなくなり、隆明たちは別々の道を歩くことになる。昭彦とは卒業してからも地元に残っていたのだが、ほかの連中はどこで何をしているかも知らない。


“これは俺達の秘密だぞ”


 そのとき突然脳裏に浮かび上がってきた。


“ぜったいに喋るなよ”


 一度もあうことのなかった友人の和樹の言葉だ。


“秘密はここに置いておく。置いたままでもう二度とここへ来ることを禁じる”


 そういわれて隆明たちはうなずいた。


 それからだ。


 それから秘密基地にいかなくなり、和樹は二学期が始まるとともにどこかへ転校していった。


「確かに置いてきたなあ」


「やっぱり隆明もそう思うだろう? どうだ? いまかはその秘密を見に行かないか?」


「いまから?」


「ああいまからだ。気になるだろう?」


「確かに気になるなあ。行ってみよう」


「ああ行ってみよう」


 そういうことになり隆明と昭彦は勘定を終えると店を出て秘密基地があった場所へ向かうことにした。



 それから彼らが見つけたものが街を震撼させやがてマスコミが押し寄せたことで全国放送でもとりあげられるような事態となったのだ。


 子どものころの秘密は大人になってから暴いたことで秘密でもなんでもなくなった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秘密基地 野林緑里 @gswolf0718

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ