②
「ねぇ、今日建物とか崩れてなかったよね……人がたくさん死んだとか」
「はぁ? 何言ってるの
「……だよね」
夕飯の食器を洗っている母さんにロボットの事を聞いてみたが、やはり答えは予想通りだった。
スマホで友達に聞いても「知らない」の一点張り、ネットの情報件数もゼロ。
あれは僕が見た夢なのかもしれない、そう思えてくるが──ハッキリと外に出た感覚のある夢ってなんなんだよ。
「僕……俺、家に帰ったらそういう夢見てさ。何かリアルっぽかったから、まさか現実じゃないよな、とか思ったりして……」
「確実に夢ね。
それといつまで「俺」って言ってるの? 不自然過ぎるし、ぎこちなさ過ぎ」
ワザとらしい笑みで誤魔化すも、僕は唇を尖らせる。
「不自然じゃないって……」
そう、母さんに弱々しい小言で吐き捨てる事しかできなかった。
※
外れていた靴紐を結び直して外を出ると風呂でサッパリとした体を熱気が襲い、
「なんで風呂上がりの人間に箱アイスのお使い頼むかな……父さんは……」
父さんに悪態をつきながらも、近くのコンビニへ
──こんな日は最悪だ、せっかく入ったのに汗まみれのまま寝ることになるんだ。お釣りを小遣いにして良いのは、美味しい話だが。
──右に、曲がったのだが、僕は咄嗟に身を隠してしまう。
ゆっくりと顔を出し、再確認する。
やっぱりだ、なんかそれっぽい。
「ロボットの……人だ」
昼間のロボットのコクピットの様な所から見えた純白の髪。
腰辺りまで伸ばし、季節外れの長袖を着た女性が右に曲がった数メートル先で立っている。
何かに浸る様に夜空を見上げながら、彼女はその場を動こうとはしない。
溢れ出てくる手汗をズボンに拭いながらも僕は冷静に考える。
結果「勘違い」と結論付けた。
そりゃそうだ、巨大ロボットなんて現実的じゃない。顔立ちからして、外国人だしきっと観光客だ。
自分をそう安堵させ、平然とした態度で右を曲がっていく。
彼女との距離が縮まっていくが、過ぎればそこはコンビニ。
そして、予想通り何事も無くすれ違う。
このまま目的地であるコンビニへと向かう。
エアコンが効いてるコンビニへ、外国にもあるコンビニへ。
「───!」
突如、僕の背後に未知の言葉が投げかけれてきた。
立ち止まり、恐る恐る体を後ろに回すと──頭一個分身長が高く、腰まである長髪は電柱のライトを浴びて毛の一本一本を清逸に
「は、はい」
話せないくせに、つい反応してしまう。
女性は髪と似た純白の眸で
「──、──?」
わかった事は彼女の言語が英語ではないということだ、無論英語でも答えられない。
「あっ……どこか食べ物を買える所とかない?」
僕の表情を見てか言語を変えてきた。
聞いた事はあるが英語ではない。考えろ、「どこか食べ物を買える所とかないかな?」と聞いているんだ。考えろ、買える場所、買える場所…………日本語?
「た……食べ物を買える場所ですか?」
「そっ、来たばっかだからわからないの」
無垢な笑みを浮かべ、
「あ、あー、そ、そっか、なるほど……一緒に来ます?」
「えぇ、そうするわ」
コンビニだったら丁度良いか、と思いながらも、僕はぎこちない足取りで彼女の前を先導していく。
共にコンビニへ足を踏み入れると、クーラーの涼しさが全身を駆け巡りだしていった。
コンビニほど涼しめる場所は無い。
白髪の女性は物珍しそうに辺りを見渡しながら、何故か僕の服の袖を掴んでいた。
「んで……何が食べたいんです?」
「食べ物」
困る回答。
「……じゃあ今、物凄く食べたい物は?」
「あー……パン!」
要望通りパンコーナーへ連れて行くと、彼女は不思議そうに様々な種類のパンを見て目移りさせていた。
定まらぬ
「良さそうなのありました?」
「メロンパンと、チョコと生クリームが挟まったロングパンっての!」
彼女はパン一種類ごとに三つずつ、籠の中に入れていった。
瞬間、忘れかけていた買い出しを思い出して、パンコーナーの後ろにあるアイスボックスへと体を回した。
買うのはチョコとバニラが二重奏になった八本入りの箱アイス、無事回収。
「それ、アイス?」
するとパンを買い占め終わった彼女は、僕が手に持っていたアイスに視線を定めながら声を掛けてきた。
「そうですよ」
「私も買おうかな」
そう言いながら隣に来ると、『僕も残ったお小遣いで何か買おう』と共にアイスボックスの中を見つめる。
色々なアイスがある中で、薄いチョコ層に包まれたバニラアイスを手に取った。
「これ気になる」
彼女が取ったのは、この中で一番安いソーダの棒アイス。
パンとアイスが入った籠を持ってレジに行き、店員が商品の値段を読み上げていくと、唇に人差し指を置きながら彼女は喋りだした。
「この中でおススメの煙草ってある?」
僕は隣で「え」と間抜けな声を漏らし、店員は困った様子で「おススメの煙草……」と小声で呟きながら、煙草の棚を確認しだした。
『煙草の銘柄』以上に聞かれても困る内容を平然と口走りながらも、彼女はボーっとした様子で待ち続けている。
「す、すみません、この人の言ったことは忘れてください。え~っと、十九番の煙草一つ!」
煙草を吸うのは意外だが、彼女に悪気はないだろう。
僕はこの場を早く逃げ出したい気持ちで、つい父親が吸っている銘柄もわからない煙草を頼んでしまった。
店員はそっと十九番の煙草を差し出して会計を終わるも、僕たちが店を出るまで店員は此方を薄い目で睨みつけていた。
当分、
どちらも買い物を済ませ、僕はアイス片手にそのまま帰ろうとした──
が、服の袖を細い二つの指が摘まんで離さない。
白い眸には何かを察している僕の顔を捕えており、決して逃がそうとはしなかった。
「一緒に食べよ」
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