劇薬マリッジブルー

雪兎

第1話 友人の結婚

誰にでも秘密はある。

しかしこのストレートヘアのバリバリのキャリアウーマンの広崎玲子(ヒロサキ・レイコ)には、可愛らしいウェーブのかかったボブの友人、瀬野真理亜(セノ・マリア)に秘密にしている事があった。

それは真理亜が今度結婚する田口直矢(タグチ・ナオヤ)が好きだという事実だった。

そして今日は結婚前の前祝いをすると言って真理亜を喫茶店に呼び出していた。


「お待たせー!久しぶり!元気だった?」


真理亜がそう言って笑いながら喫茶店に入ってくると、玲子はいたってクールに答えた。


「えぇ、元気だったわよ?」


玲子が、真理亜に座るように促すと、真理亜は向かい側に座った。


「店員さん!コーヒーを一つ!」


真理亜がそう流れで言うと、玲子の目が怪しく光った。

今日、玲子はある目的をもって真理亜を呼び出していた。

それは真理亜にある劇薬を飲ませるという事。

劇薬といっても、殺すわけではない。

飲んだ人物をある症状にする、それだけの薬だ。

その名も、劇薬マリッジブルー。

玲子は鞄の中にその名の通り青い液体が入った小瓶があるのを確認すると、薄く笑った。


「私ちょっとトイレ行ってくるね」


チャンスだと思った玲子は誰も見ていないのを確認すると、青い液体を真理亜のコーヒーの中に入れた。


…真理亜、貴女が悪いのよ。私と同じ人を好きになるから。


そんな事を思いながら、玲子は鞄に小瓶をしまい真理亜が帰って来るのを待った。


「お待たせ、そういえば用事ってなんなのー?」


真理亜が尋ねると、内心ドキッとしながら玲子は答えた。


「別に何でもないわ。ただ結婚の前祝いがしたいなって…。」


「本当!?ありがとう!やっぱ持つべきものは友達よね!」


「そうね…。」


真理亜がそう言ってコーヒーを飲むと、玲子は薄く笑いながらそう答えた。

そしてここに来る前の前日の事を思い出していた。


***


「ねぇ聞いてよ悠人!このままじゃ本当に真理亜が直矢君と結婚しちゃう!なんとかして!」


「あのなぁ、みんな俺のとこに診察してもらいに来てんの。恋愛相談に来てんのはお前だけだから」


そう言うのは長谷川悠人(ハセガワ・ユウト)、玲子の幼馴染だ。

彼は町医者をしていて、しょっちゅう玲子の恋愛相談聞かされていた。


「私も直矢君と結婚したいー!ねぇ悠人、なんとかしてよー!」


「あのなぁ…。」


悠人はメガネをあげながら、何か思い出すと、玲子に背を向け、何か探し始めた。


「ねぇ何してるの?」


「まぁ見てろって…あったあった」


悠人は小瓶に入った青い液体を取り出すと、玲子に言った。


「お前、秘密守れるか?」


「えっ…?」


真剣な顔で悠人がそう言うと、その場に緊張感が漂った。


「これは劇薬マリッジブルー。飲めばどんな人もマリッジブルーになる薬だ。まだ臨床データが少ないからあまり知られてないが、効果は高いらしいぞ。これを使えば、上手く別れさせられるんじゃないか?騙されたと思って使ってみろよ」


「ふーん…悠人、そなたも悪よのぅ」


玲子は小瓶を受け取ると、いたずらっ子のように笑った。


***


…劇薬マリッジブルー、その効果見極めさせてもらうわ!


そう思いながら玲子は真理亜の様子を見守った。

そして、とうとう症状が現れ始めた。


「…ぐすっ…ヒック…。」


「えっ…?」


突然泣き始めた真理亜にギョッとしながら、玲子は真理亜の横に行き背中をさすった。


「ちょっとどうしたのよ真理亜?何かあったの?」


白々しいと自分でも思いながらそう言うと、真理亜は鼻をかみながら言った。


「私…直矢君ともうダメかもしれない…。」


…やったー!


心の中でそう思いながら、玲子は見えないようにガッツポーズをした。


「ダメってどうしたの?あんなに好き好き言ってたのに」


「うん…それがね…。彼ちょっと食生活おかしいの…。」


「…はっ?」


思いもよらない返答に、玲子は豆鉄砲をくらったような顔をすると、真理亜の話に耳を傾けた。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る