月とりんごとお姫様

碧海雨優(あおみふらう)

第1話 月とりんごとお姫様

 楽しげなリズムで、りんごは踊る。

 誰も彼女を知らず、彼女も誰を知ることもなしに、回る。

 唐突に止まった曲に、足をしっかり揃えて止まる少女。ぺこりと頭を下げ、お手本ような笑みを浮かべた。

 自然と、背に冷や水をかけられたような心持ちになる。自分の腰より少し上くらいしかない少女がするような表情ではなかった。


「さあて、今日は誰かしら?」


 今宵も、彼女にとってだけ楽しい、晩餐ばんさんが始まろうとしていた。

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