怖面白い話

夏目 漱一郎

第1話招かれざる同乗者

物語の前に、僕と先輩のKさんが当時していた仕事について少し説明しておかなければなりません。僕とKさんは、とある自動車ディーラーの『新車センター』というところで働いていました。新車センターとは、お客様が新車を買った際その車を納車する前に外観のチェック、機能の点検そしてオプション部品の取り付け等をし、無事にお客様に届けられる品質に仕上げることを主な業務としている部所でした。



「え~~~っ!

これから熱海まで行くのかよっ!」


受話器に向かってそう叫ぶKさんの声が、僕等のいる工場に響き渡りました。


「ったくよ……仕事があるなら車をこっちに持って来いってんだ!」


電話を終えたKさんは、不機嫌そうに煙草に火を点けると吐き捨てるように呟きます。


どうやら、電話の相手は熱海店の店長。Kさんに明日納車予定の新車の架装整備の依頼をしてきたようです。


こういう事はよくある事で、既にこっちの新車センターで架装整備が終わり、それぞれの店舗に搬送が済んだ新車に追加の架装が発生した場合、Kさんがその店まで出張して仕事をする事があるのです。


それはそれで、Kさんにとっては臨時の収入源になるのですからKさんも普通なら文句も言わずに快く了承するのですが……


「よりによって熱海かよ……」


その時、Kさんは何故か浮かない顔をしていました。


「熱海がどうかしたんですか?」


僕がKさんに尋ねると


「今から熱海に行ったら、帰りが夜になっちまうだろっ!」


そう答えるのです。


今の時刻は午後の4時。


これから熱海まで行くのに約一時間、新車の架装に二~三時間を所要するとすれば、帰りは午後7時から8時を過ぎる頃になります。


しかし、その事と今回Kさんが熱海行きを渋る事と何の関係があるのでしょうか?


「夜になると、何かまずい事でもあるんですか?」


さしずめ、今夜あたりは熱海で海岸花火大会でもやっていて道路が渋滞するのが嫌なのだろう……


その程度の事を僕は思っていたのですが……


僕の問いかけに対して、Kさんはとんでもない事を口にしたのです。


「……出るんだよ……『熱函(ねっかん)』道路は!」


熱函道路というのは、こちらから熱海へと向かう時に通る峠を越える為の有料道路の事で、夜になるとこの道路は無料になります。


「出るって、何が?」


「コレだよ!」


僕の問いに対して、Kさんは自分の胸の前に両手の指先をぶらりと下げて答えるのです。


その仕草が現すものと言えばもう一つしかありません。


「ええっ!熱函って、幽霊が出るんですか?

……でも、そんな話聞いた事が無いですよ?」


俗に言う幽霊スポットというのは、この辺りの地域にも幾つかありますが、熱函道路に幽霊が出るという話は今まで聞いた事がありませんでした。


「そんな事言ったって、実際に見ちまったんだからしょうがねぇだろ……」


なんとKさんは、その熱函道路で以前に幽霊を見たというのです。


そして、その時の様子を声を低くして臨場感たっぷりに僕達に聞かせてくれたのでした……










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