墓場の街
篠塚しおん
ノストフォビア
「そろそろ結婚せんのか?」
年末年始休暇で東京から帰省した俺に、その場にいる親戚一同の視線が集まる。
俺は心の中で嘆息した。田舎の年寄りが未婚の若者に言うことあるあるだが、帰省のたびに毎回同じことを聞かれては、相手をするのもしんどくなる。
「早く孫の顔見せて、父ちゃん母ちゃん安心させたれや」
これも毎度恒例だ。お袋に呼ばれて、俺は彼らに曖昧に笑い返して席を立った。
お袋は俺がこういう目に遭うと、こうして助け舟を出してくれる。孫の顔を一番見たいであろうお袋を差し置いて、親戚連中が言いたい放題言っているのだ。
その無責任な責任感は、一体どこから湧いてくるのだろう。
「ちょっと酒が切れたけえ、買うてきてくれる?」
「分かった」
「ちょっと待って、今お金持ってくる」
「そんくらい、俺が出すよ」
お袋の申し出を断り、さっさと家を出た。
最寄り駅に着くまで車で四十分もかかるような田舎は、当然車社会で、東京のように十分も歩けばコンビニでも飲食店でも辿り着けるような便利さからは見放された環境にある。
それでも、ありがたいことに、徒歩十分で行ける距離に大手スーパーがある。年末年始も休まず営業中。
親戚に勧められるがままにビールを
子どもの頃から代わり映えしない景色を眺めながら歩く。そこには、何の楽しみもありゃしない。この街の連中は、一体何が楽しくてこんなところに住んでいるのだろう。
都会にはない自然を求めてやってくるほど自然豊かな街ではない。強いて言えば海が近いけれど、近いといっても、歩いて行ける距離ではない。車を走らせなければ、雄大な海を泳ぐ波を見ることも、
海は嫌いじゃない。
でも、この街は嫌いだ。
この街にいたら、俺は、俺を殺さないといけない。
ポケットのスマホが振動した。新幹線や電車移動をするのにマナーモードにして、実家に帰ってからも面倒でそのままにしていた。
スマホを確認すれば、チャットアプリへの着信を報せる表示が出ていた。何度かタップして、メッセージを確認する。
『久しぶりの実家はどう? ゆっくりできてる? こっちに帰ったら、中華街でも行こうぜ』
恋人からだった。
家族にも、親戚にも、高校時代の友達にも言えない、恋人。
『いいな。行こう』
実家の部分には触れず、短いメッセージを送り返した。
やっぱり、この街は嫌いだ。
墓場の街 篠塚しおん @noveluser_shion
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