第55話 とある喫茶店の看板猫の独り言
アタシは猫、喫茶店の看板猫よ。
父の名はコロッケ、母の名はアイリーン。
アタシの名前は……名前は、タキシードカメン
そう、アタシ達 猫社会で有名なネコ屋のオッチャンである七之助が名付け親なの……
名前の意味を知った時には怒りで爆発したわ
もー ! もー ! もー !
ウッシーおばさんみたいに怒っても仕方ないと思うの。
そんなアタシのご主人様はカッコいいおじ様なんだけど、内気で人見知りが激しい……何で喫茶店をやろうと思ったんだろう。
まっ、良いけどね。
代わりにアタシがお客様を接待するから……
◇
最近、ご主人様の喫茶店に来る若い男の子のことで、ご主人様が悩んでいる。
来る度に違う女の子を連れて来るからみたい。
「 若いのに……若いから ?
いったい、何股しているのかな、彼は……」
ご主人様を含めた人間は一人の
アタシ達、猫社会では魅力的な
カラーン ♬
「ニャァ~ン《いらっしゃい》」
いつものように、お出迎えをすると……
「また、違う女の子だと……しかも三人も ! 」
もはや常連客に成った
「今度は俺たちの番だ、ティターニア。
このオベロン、妖精王の妻よ 」
「サービス、サービス、ウチに任せて !
絶対に損はさせないから !」
「アタシらの方がスタイルも良いから、恭介くんもまんざらでもないっしょ ! 」
モテモテの
まったく、世話が焼けるんだから !
ピョン ! アタシがご主人様の肩に乗ると、ようやく再起動したご主人様。
「ああ、驚いた。 タキちゃん、ありがとう。
私もプロなんだから接客しないと ! 」
ご主人様は、お客様からオーダーを取り、注文の品物を用意し始めた。
アタシは、少し離れた出窓の所からモテモテの男の子を観察している。
いつもなら、アタシが接客するけど、今日もアタシの出番は無いようね。
アタシも馬に蹴られたく無いから、人間の恋愛に踏み込んだりする野暮はしないことにしているの。
アタシ、空気を読めるいい女だからね。
◇◇
「いつものラテアートをお願いね。マスターの作るコーヒーが一番だから。」
若い男の子はニコッと笑いながら注文し、ティターニアたちも席に着いた。
「アタシらのために特別なのをね。」女の子も続ける。
ご主人様は少し緊張しながらも、プロフェッショナルな姿勢でコーヒーマシンを操作している。
一方、アタシはこのドラマ全体を高いところから眺めていたが、人間の恋愛劇の奇妙さと複雑さにいつも感心している。
「でもね、人間って面白いわ。
同じ種類でもこんなに違う恋の形があるのね」
と独り言を言いつ、アタシは女の子達の動きに気を取られる。
ティターニアとその友達は明らかに競い合っている何かがあるようだった。
彼女たちは、たびたび男の子に体を寄せ、一方でご主人様は、チラチラ見ながらも、ただオーダーをこなし続けていた。
お客様のラテができ上がると、ご主人様は
「はい、どうぞ」とそっとテーブルに置いた。
そのラテアートには小さなニャンコとハートが描かれていた。
男の子とティターニアたちはそれを見て、一斉に「かっ、可愛い!」と声を上げていた。
その瞬間、アタシは人間も恋愛が複雑でも、これ見よがしに愛情を示すことに関しては単純なのかもしれないと感じた。
「タキちゃんのおかげで客足が増えたんだよ」
とご主人様がにっこり微笑みながらアタシに感謝の言葉をかける。
アタシはその言葉に心の中で小躍りしながらも、いつものようにクールを装い続けた。
この小さな世界の中で、アタシはただの看板猫だけれど、こうして人間たちの様々な感情の橋渡しをしていることに、小さな誇りを感じている。
今日も一日、いろいろあったわね。
でも、これがアタシの場所だから。
そう思いながら、アタシは窓辺に身を寄せて、外の夜景に目を向けた。
夜が更けるにつれ、喫茶店の中の光と影がひっそりと乱れていくのが見えた。
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