第46話 デート 埼玉舞part

【舞side】


 今頃、色ボケ三人組は新撰組に連れて行かれて怒られているだろう。

 今回の件は、あらためて私達に危機感を感じさせた。

 幼馴染みの立場に甘えていると、本当に恭介を取られかねないことに気がついた私達。


 みんなと幼馴染みと相談した結果、恭介を誘ってデートすることにした。

 幸い、恭介も私達を拒む気は無いのは判っている。


 厳正なるジャンケンの結果、私が一番最初にデートをすることに決まった。

 色ボケ三人組と違い、中学生らしいデートをすることが唯一のルール。

 人数も多いことから、放課後デートをすることに成っている。

 私達、中学生のお小遣いも多くはないし、あまりお金はかけられないので、前から気になっていた喫茶店デートをすることにした。

 あちこちショッピングするより、じっくりと恭介とお話をする良い機会でもあるしね。


 商店街の中にある古びた喫茶店。

 汚いと云うより良い感じに雰囲気がある。

 出窓には、この喫茶店の看板猫が私達を見ていた。

 隣にいた恭介の目が猫に釘付けに成っている。

 恭介の猫好きを知っているからこそ誘ったのだ。


 喫茶店の入り口には、『当店にドレスコードはありません』とある。

 実は、これが喫茶店の看板、店名であることを知っている人は少ない。


 カラーン ♬


「ニャァ~ン 」


 タキシード柄の猫ちゃんが迎えてくれた。

 普通の猫より大きな猫ちゃんに、恭介の目尻が下がっている。

 随分と人懐っこいのか、逃げる処か私達を席まで案内するように導いてくれる。

 まるで人間の接客を真似ているように見える……まさかね。

 きっと、そう見えるだけなんでしょうね。


〖本日の紅茶 ………… 800円 〗


 どんな紅茶かは、マスターのお任せであるみたいだ。

 さっそく、注文しようとしたら、猫ちゃんがカウンターに声をかけるように鳴いた。


「ウニャァーン !」


 猫ちゃんからの合図なのか、マスターらしいイケオジが出てきた。


 本日の紅茶を二人分頼むと静かにマスターはカウンターに戻っていく。

 しばらくすると、コポコポとお湯が沸く音がした。


「たぶん、あの猫ちゃんはメインクーンか、そのハーフだと思うよ。

 モフモフしていて、抱き心地が良さそうだね 」


 デートしている私より猫ちゃんに興味を示す恭介。

 まあ、変に色気付いているよりはマシだと思うことにした。


「お待たせいたしました。

 ごゆっくりお過ごしください 」


 ベテラン執事のようなマスターは静かにカウンターに戻っていった。


 可愛いティーセットに付いてくるケーキ

 ポットには四杯分の紅茶が入っている。


 トポトポとティーカップに紅茶を注ぐ。

 綺麗……紅茶の色が薄い気がするけど、逆に高級感がある。

 ペットボトルのよりも、ずっと薄い

 一口飲む……すごい瑞々みずみずしい香り、さわやかでなんか、こう……言葉に出来ないくらいに美味しい。


 一緒に来たお菓子、デザート、これはアップルパイかな ?

 フォークを入れると、ザクッ といい音がした。

 口に入れるとバターの香りと生地の香ばしさが美味しい !

 シナモンの効いたリンゴの甘味が美味しいのだわ。

 再び、紅茶を飲む……えっ、さっきより美味しく感じる !

 紅茶の香りとアップルパイの風味が合う。

 煮詰めたリンゴの濃い甘味が爽やかに溶けて、いくらでも食べられるわ。

 こんなに美味しいアップルパイは食べたことが無いかも知れない。

 恭介を見ると、黙々と紅茶とアップルパイをたのしんでいた。


 この紅茶は何だろうかと伝票を見ると読めない、英語?で書いてある。

 そんな私に気がついた恭介が、


「すみません、この紅茶の名前を教えてもらえますか ? 」


 ティーバッグの紅茶くらいしか分からない私達、しかしマスターは嬉しそうにしながら教えてくれた。


「インド、ダージリンのセカンドフラッシュを、お客様にお出ししました。

 ダージリンの茶葉は春夏秋で年に三回摘み取られ、それぞれ、ファーストフラッシュ、セカンドフラッシュ、オータムナルと呼ばれています。

 ダージリンは摘む時期で味わいが違い、特にセカンドフラッシュはマスカテルフレーバーと呼ばれる瑞々しい香りを持っています……………………………………紅茶と食べ物を組み合わせることをフードペアリングやマリアージュと呼ぶのですが………………



 アレ、もしかしてスイッチ入ってしまったかしら……


「ウニャン ! 」


 猫ちゃんがマスターの肩に飛び乗った。


「わぁー ! ……もっ 申し訳ございません !

 喋り過ぎました、ごゆっくりどうぞ ……」


 ペコッーと頭を下げるマスターの肩に乗った猫ちゃんは、


「ウニャン !」と鳴きながら、尻尾をブンブンと振っていた。

 猫ちゃんとイケオジのマリアージュ、大正義 !

 美衣なら大喜びね。


 恭介はマスターに猫ちゃんの名前を聞いていた。


「タキちゃんかぁ~、可愛い名前ですね 」


 想像していたデートと違ったけど、恭介も私も楽しい時間だったのだから、大成功ね !


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