第20話 虎の威を借る狐

【伸美太side】


 脛夫……やっぱり、君は変わらないね。

 虎の威を借る狐、昔からそうだった。

 シャイアンを盾にして嫌がらせをしてきた数々。

 そして、シャイアンがあてに成らないと直ぐに鞍替えして不良グループ蛇骨会に。


「フ~ン、其処の小さな二人が脛夫の言う、茨城恭介と能美伸美太かい。

 脛夫の言うことも宛に成らないねぇ~、二人とも良い目をしているよ。 どうだい、二人とも蛇骨会に入るなら歓迎するよ。

 このアタイ、佐渡屋薫さどや かおるが保証してもいい !」


 蛇骨会のスケバン?の佐渡屋さんが僕達を勧誘してきた。


「ごめんなさい、お誘いは断らせてもらいます 」


 茨城くんが間を空けずに断るのを見て、あわてて僕も断ることにした。


「すみません、僕も入会は断らせてもらいます 」


 てっきり、怒り出すかと思ったのに佐渡屋さんは ニヤリと笑って、


「そうかい、残念だねぇ~。

 世の中、上手くいかないねぇ~。 欲しいと思う奴には断られると云うのにね」


 チロリと脛夫を見てタメ息をする佐渡屋さん。

 それに気づいた脛夫は危機感を感じたのか、


「ちょっと待ってくださいよ、佐渡屋さん !

 ボクちゃんの方が彼奴等あいつらより役に立ちますよ !」


 脛夫が佐渡屋さんに一生懸命にアピールしている。

 不良グループの地位の確保が不安なんだろうな。

 下っ端だと使いパシリなどで悲惨だと聞くし……


「口だけな奴なんて蛇骨会には要らないよ。

 認めて欲しかったら、実力を示してみな 」


 値踏みするような目でジロリと脛夫を見ると、


「ボクちゃん、やりまーす !

 相手は……」


 茨城くんと僕を見比べた脛夫は意地悪く笑うと僕を指差しして、


「お前だ、伸美太 !

 最底辺のお前よりボクちゃんが上だということを教えてやるよ !」


 実力が未確認の茨城くんより僕を指名してくるのは判っていた。


 蛇骨会の不良の男の人が竹刀を渡してきた。

 見ると脛夫にも渡している。


「こう見えても、アタイら蛇骨会は硬派の集団なんだ。

 正々堂々の勝負に水を差すようなことは、しないから安心して闘いな !

 お前達も手出し無用だよ、の佐渡屋薫に恥をかかせるマネは許さないよ !」


 相手が自分の知っている人物だから余裕だと脛夫は思っているのだろう。


「ふふん!いいとも~!

 楽勝、楽勝!だって、相手はあの伸美太だぜ?

 ボクちゃんが負ける理由なんかないもんね!」



 ◇◇◇◇◇


 昔の伸美太を知っているから脛夫は浮かれていた。

 だから、彼は見落としていた……人は成長すると云うことを。


 伸美太は努力していた。

 弱い自分と決別するために、川越かわごえ和人、直葉兄妹とも仲の良かった伸美太は和人たちが通う剣道道場で鍛錬たんれんを積んでいた。

 それは数年に渡る、努力していた人間と遊びばかりしていた人間。

 努力は人を裏切らない、素直な伸美太はめきめきと実力を付けて道場の実力者である和人にも引けを取らないくらいに強く成っていた。


 なにより脛夫は知らなかった、伸美太は最底辺ではないと。


 和人と同様に一人の剣士として白銀と呼び名を持つ剣士としても実力のある人物だということに。


 手の中にある竹刀をくるくると遊びながら構える脛夫に対して伸美太は竹刀を正眼に構えた。


 勝負開始と共に脛夫が駆け出す。


 瞬間、眼前に刃が見えた。


「へ?」


 間抜けな声を上げるとともに脛夫の顔に竹刀が炸裂する。


「ぶべら!?」


 顔にダメージはないが衝撃は相当なものだ。大きく仰け反る。


 ブンと剣を振るう脛夫。


「こ、このぉ!ボクちゃんの顔に!!」


 怒った脛夫竹刀を振り回すが竹刀が当たる直前、伸美太は軽くハラってしまう。


 勢いを殺されて動きが止まり硬直する脛夫。


「え、ちょっ」


 動けない脛夫に容赦のない竹刀の嵐が降り注ぐ。


「や、やめっ!」


 竹刀なので死にはしないが痛いのは痛いので恐怖する脛夫。


 ぶるぶると震え、瞳に涙を浮かべ始めた。


「これで終わりだよ」


 冷たい声と共に放たれた止めの一撃はギリギリで脛夫の顔の前で止められた。

 

 勝敗が決まった。


「君の負けだよ、脛夫」


 表情を変えずに伸美太が告げる。

 恐怖のあまり脛夫は座り込んでしまった。



「酷いわ!」


 勝負終わり、瞳に涙を浮かべながら近衛静香が抗議した。


「酷い?」


「そうよ!動けない相手をここまでいたぶる必要なんてあったの?」


「いたぶるなんて勘違いしないでくれない?」


 伸美太は肩をすくめる。


「僕はこれでも“手加減”していたんだよ?最初の面打ちも手加減していた。

 僕を舐めてなければ対策をとることもできた。

 僕が次の打ち込みを出す直前、少し間をおいていた。

 普通ならそれがわかるはずだ。

 だよね?茨城くん」


 伸美太は気づいていた。

 茨城恭介も武術を学んでいることを。

 静かに頷く茨城恭介


「だとしても、こんなの!“伸美太”さんらしくないわ!!」


「静香くん、落ち着いて!」


 涙目で訴える静香を凄井殂英才すごいぞ えいさいが止めた。

 だが、その声は伸美太へ届いてしまった。


「らしくない?」


 伸美太は顔を上げる、その顔は怒りに染まっていた……










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