第7話

森を抜けると、小高い丘に城が見えた。

あそこだ!!

アリスは、逸る胸を押さえながらひたすら丘を駆け上がった。

目の前に広大な庭園が広がり、中央の噴水から赤い水が止めどなく溢れて吹き上がっている。


?!


赤い……水……?!


そう言えば、城を警護しているはずのトランプ兵達の姿が見えない。

何処へ言ったのだろう?


それよりも、早く、女王様の元へ!!


アリスは、庭園を通りすぎ宮廷の扉の前にやって来た。


……。


扉をそっと開く。


さっき、噴水の横を通った時も、今も、


なんのものおともしない。


水の音も、扉を開く音も、風の音も。


城の中も、静まり返っている。


誰もいないの?


トランプ兵達?どこ?


女王様、どこ?


アリスは、ひとつひとつ重厚な扉を開けて回る。

音もしなければ、人っ子一人いない。


一番奥の、一番豪華な天井まで聳える扉の前にたどり着いた。

ここは、玉座の間。


慎重に手を重ねて、ゆっくりと扉を押す。


チラリと見えたのは、玉座に腰かける人影。


赤いドレスに金の刺繍。


女王様!!


アリスは、駆け出した。

「女王様!!女王様!!大変なんです!!」

行き急ききって、声を振り絞った。


「……。」


「ねぇ!!女王様!!聞いてください!!」


「……。」


「女王様!!女王さ……!!」

最後の言葉は、口からでるこことを許されなかった。

アリスは、ごくんと喉を上下させる。


女王は、


首から上が、


ナカッタ……。


「あ……あ……。」

アリスは、よろよろと後退りしながら女王の姿から目を離す事が出来ずにいた。


な、なんで……。


こんな、酷い……。


女王の首から滴る血を吸い上げて、ドレスが赤く染まっていた。


!!

頭が痛い!!

お腹が痛い!!

吐き気がする……。

眩暈がする……。


いや!!

こんな時に!!


!!!!


「! !」


けたたましい叫び声に耳をつんざかれ、アリスは振り返った。


いや、声がしたのは後ろじゃない。


じゃあ、どこ?


まさか……


アリスは、視線を恐る恐る下に下げていく。

自分の両手。

自分の膝。

自分の……足元……。


ごろり。と、丸い何かが動いた。


金の髪を振り乱し、それは、こちらを見た。


金の髪?


こちらを見た?


そう。


それは、女王の首だった。

先程の悲鳴は、首を蹴られた女王のものだった。


「!!」


「痛いわアリス……ドウシテ、コロシタノ?」


今度こそ本当に、アリスは金切り声を上げて、城を飛び出した。


いや!!

いや!!

いや!!

私じゃない!!

私じゃない!!

私じゃないわ!!


どうして?

どうしてなの?


なにがおこっているの?


逃げなきゃ!!

逃げなきゃ!!

捕まる前に!!

もっと遠くに!!


そう、逃げなきゃいけないの!!

私、逃げなきゃいけないの!!


痛みが渦を巻く。

頭が痛いのか、お腹が痛いのか、走り過ぎて手足の関節が痛いのか、わからない。

わからない。

わからないことだらけだ。


どす黒い何かが、アリスを覆う。

ああ、そっちへはいきたくないの……!!

わたし、いきたくないの……!!

遠退く意識と痛み。

耳障りな、砂嵐。


誰かが、怒ってる。

やめて!!

叩かないで!!

痛いのは嫌なの!!

こわいの!!

わたし、こわいの!!

とっても、こわいの!!


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