秘密を話せるひと
山本アヒコ
秘密を話せるひと
「やっと着きましたね」
「そうだねー。ここが今話題の【呪われる神社】かあ。うーっ、ワクワクしてきたね藤平後輩」
深い山の中を進んできた男女二人は、木製の鳥居を見上げる。人が余裕でくぐれる高さがあり、支えるための柱も成人男性が手を回しても届かない太さがあった。しかし現在となっては、その立派な面影はどこにもない。
「しかし、何があったらこんな状態になるのかねえ」
「そうですね先輩」
鳥居は片方の柱だけが残り立っていた。もう一方の柱は低い位置で斜めに切断されてしまっている。
「見てよ、残ってるほうの上。斜めに切られてる」
先輩と呼ばれた女性が指さす場所を見れば、たしかに鳥居の上部の端だけ残っていて、斜めに切断された跡があった。
「地面へ倒れてる鳥居の残骸も、同じように切られていますね」
藤平はしゃがむと、地面へ散らばる鳥居の残骸の切り口を観察する。滑らかでノコギリを使用したようには見えないが、だからといってこの太さを一度で切断できる方法は無いだろう。しかも一度だけでなく何度も。鳥居は執拗なほど細かく切り刻まれている。
「雰囲気満点だねー。奥へ行ってみよう!」
鼻歌まじりに歩く先輩を藤平は追う。
「この建物は完全に朽ちてるねー。屋根もほとんど崩れてるし」
「先輩……中に何か見えませんか?」
「ええっ?」
目を細めて、扉が倒れて見える室内の暗闇を凝視すると、揺れる青い光のようなものが見えた。
「なに、あれ……ロウソクの火っぽいけど、青いし……まさか人魂とか?」
「ああ……見えるんですね、先輩」
感動した声を出す藤平を不審に思い、女性は振り向く。彼は心から嬉しそうな表情でこちらを見ていた。その異様さに、思わず一歩離れる。
「やっと見つけました……」
「な、なにを言っているのかな、藤平後輩は」
その時、音が聞こえた。朽ちたお堂の中からだった。
恐る恐るそちらへ向くと、刀を持つ鎧兜姿の者が立っていた。つい先程まで、そんなものはどこにも存在していなかったはずだ。
一歩進むと鎧が音をたてて、その存在を主張する。兜でできる影のなかで揺れる青い炎は、両目の位置にあった。
「ひいいいぃぃぃ」
先輩の女性は恐怖で地面へ座りこんでしまった。
『哀れな同胞よ。わしが介錯しようぞ』
「はへ?」
突然すぐ近くに、新しい鎧姿が出現した。もちろん手には刀。
「何でええええっ!」
「落ちついてください。あれは俺の……守護霊みたいなものです」
藤平は彼女の傍らにしゃがむと、その肩に優しく手を置いた。
「しゅ、守護霊?」
「はい。俺って霊感があるらしくて、昔からこういう事が多くて」
「どういうこと……」
「いわゆる悪霊や呪いとか、そういうアレです。誰かに相談したくても、家族や友達は霊が見えないから信じてもらえない。霊能者に頼んだら、ただの詐欺師しかいない。それでも俺と同じ、霊が見える人がどこかにいるんじゃないかって……」
肩に乗せた手にわずかな力が入る。
「そんな希望を持ってオカルトサークルに入ってみたんです。そうしたら、先輩を見つけることができました」
横目で藤平を見ると、輝くような笑顔。
「先輩ってオカルト大好きですよね? 俺、そういう話をできるひとが欲しかったんです。話したいことがたくさん、本当にたくさんあるんです。先輩、これからよろしくお願いします」
秘密を話せるひと 山本アヒコ @lostoman916
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