第2話

 バイトが終わって家に帰ると玄関のカギが開いていた。

 間違いなく閉めたはずなので、多分今回も君だろう。


 でなければ不法侵入者だ。


 廊下を進んで行くと、リビング手前の台所にて、案の定君がいた。

 棚から引っ張り出してきたらしい銀のボウルで、なにやらシャカシャカやっている。

 探すのに相当手こずったらしく、台所中の引き出しが開けっぱなしになっていた。


 見る人が見れば空き巣を疑うだろう。

 なんなら僕も疑ってしまった。


 近づいてのぞき込むと、かき混ぜているのは生クリームだった。

 泡立てるのに夢中なのか、耳元をふーっとやっても無反応だった。


「痛っ!」


 いや、少し遅れてスネを後ろ蹴りされた。

 中々に器用だ。


 待てどもこっちを向いてくれないので、もう少しイタズラを続けよう。

 シャカシャカやってる手首に合わせて、フラフラ揺れるツインテール。


 左側のふさを拝借して、僕の右腕に巻きつけた。

 ぐるぐる巻いた髪の束は、さながら包帯みたいだ。

 大げさにさっと身構えて、決めゼリフを一言。


「くっ、右手が、うずくっ……!」

「……」


 まさかまさかの無反応だった。



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