「ルッキズムの現実 ━短編小説━」

織田 由紀夫

「ルッキズムの現実」

      1


 凛はブスだ。誰が何って言ってもブスだ。学校でのあだ名はブス凛丸。完全に名前負けしている。凛は親を恨んでいた。今さら、どうこう言った所で、どうしようも無い事だが。


 裁判所に言って手続きをすれば、三回までは名前を替える事が出来ると人づてに聞いた事はあった。ただ、聞いただけの話しであって、それが本当なのかGoogleで調べるだけ時間の無駄だと、凛は思っていた。


「なぁ、凛ちゃん聞いてる?」


 昼休みが終わろうとしていた。凛の直属の上司、岡本が、凛に催促していた。


  また、どうせ飲み会の話だ。


 何故、団塊世代はこうも飲み会に誘いたがるのだろうか。今の時代、酒離れが進む若者に、酒の力を使ってでも人心掌握をしたいのだろうか?

 

 時代錯誤の飲みニケーション。


 Adoの「うっせえわ」あたりから聴きなおした方がいい。凛の思考回路は敏感に反応した。


 国税庁のサケビバコンテストに、数多くの反対意見が寄せられた事を、岡本は知る由も無いだろう。海外からも強く非難されたサケビバ。とうに日本は終わっているのかも知れない。


 何故こうも酒に頼るのだろうか。


 酒臭い息を吐きながらする話は、決まってお馴染みのパターンだ。


 下ネタ、昔話、説教、自慢話、武勇伝。


 凛は「死の五重奏」と名付けていた。


 どうせ、私は頭数。それに、お笑い担当。女と女は大抵、可愛い子と、チョイブスか、キレイな子とチョイデブか。よく街頭インタビュー等で見掛ける構図だ。


「残業代出すなら行きますよ」


 一重まぶたがコンプレックスの凛は、鋭い目付きで岡本を睨んだ。 岡本はバツの悪そうな顔をした。右手で頭をかきながら「いいや、凛ちゃんがそこまで言うのなら今回はパスって事で」

 

 凛の耳元に手をやり、ヒソヒソ声で岡本はこうも続けた。


「佐藤も来るんだけどな」


 凛の胸が一瞬、高鳴った。


 この会社で唯一優しく接してくれている先輩が、佐藤だった。いつも、どんな時も、凛に対して優しく接してくれる心温かい先輩だった。


 凛が密かに佐藤に恋心を抱いているのは社内では周知の事実だった。


「なっ?意中の佐藤も来る事だし。たまには息抜きでサ。まっ、どうしても、凛ちゃんが来れないってのなら話は別なんだけどね~」


 岡本のこの口調がいつも鼻につく。


 人の気持ちを見透かした様なこの口調。異性の事を出汁にして、人の心を弄ぶ上司。新手のパワハラである事に間違いない。労基は一体、何を監督しているのか。


「・・・・・・一時間だけですよ」


 凛は目線をパソコンからずらす事無く、岡本に告げた。カチカチとキーボードを強く叩いた。どうせ、岡本は私の気持ちなんて知らないのだ。


「おっ、そうこなっくちゃ。いいねぇ。恋する乙女はいつだって気持ちがいいよなぁ」


 凛は、赤くなった顔を隠すように、軽く下を向いた。


「本当に一時間だけですよ」


「分かってるって。あっ、この事、佐藤に内緒にしておくからね」


 岡本は左目で軽くウインクしながら凛に告げた。


「じゃ、六時にウイングビルの前、集合ね」


 岡本は要件を告げると、さっさと自分のデスクに向かって行った。

 




     2


 「乾杯!」


  またいつもと同じ構図だった。凛の一個下の女子社員が今日のターゲットだった。


「店長。面倒くさいから、適当に見繕って持ってきてよ。あっ、ホッケの塩焼き忘れないでね」


 最初の一杯に口をつけた岡本が、威勢のいい声をあげた。来る場所もいつもと同じ。岡本の行きつけの赤ちょうちんだ。岡本は何かあればこうして部下を引き連れて、ここに来る。


 さも、自分はここに通い詰めてますよ、ここの常連で、店長とは仲がいいんですよ感が半端なかった。団塊世代は時として、会社以外の場所でもマウンティングを取りに来る。


 よく「失われた30年」だと言うが、自分らで勝手に失ってるクセして、次世代に対する、望みや希望も失わせている事実に気がついているのだろうか。


 凛は嫌々ながらも、グラスビールに口をつけた。凛は、酒に弱い。ビールはいつもと同じ、只の苦い液体だった。


 岡本の独壇場だった。


 俺はこうしてバブルを乗り切っただの、こうして妻を支えて来たやらなんやら・・・・・・。


 そのクセして、週末は決まってゴルフに行く。そして、岡本は不倫をしていた。


 その事は社内では暗黙の了解だった。


 グラスビールの底が見え始めて来た所で、凛は深い溜息をついた。


 私の人生って何だったんだろう?高校時代はブス凛丸と呼ばれて、執拗なイジメにも耐え、見返してやろうと心に誓い、偏差値の高い大学を目指した。


 誰よりも勉強して、誰よりも努力して、ブスと言うハンディキャップを埋めてやろうと、自分なりに頑張った。いい大学に入ったら、いい会社に入れると思っていた。


 会社の業績も良く、収入も良く、福利厚生が整っている、世間一般では大企業と呼ばれる会社に入って、凛は今までの人生を取り戻してやろうと心に決めていた。そして、三年が経とうとしていた。


 厳しい入社試験を合格した時の喜びはひとしおだった。実家の母は凛以上に喜んでいた。段ボール一杯に送られて来たミカンを見た時は、恨んでいるとは言ったが、それでも涙が零れた。


 いい会社に入ったのはいいが、やはりここでもイジメられた。凛は自分で言うのも何だが、品位方正だった。慎ましく穏やかで、控えめな女だった。ブスなりに、どうすれば人ウケが良くなるだろうか、自分なりに勉強した。自分なりに研究した。


 日々のスキンケアは凛にとって戦場だった。化粧水や乳液の塗り方、メイクの仕方。YouTubeでは欠かさず美容のチャンネルを登録し、インスタでは、綺麗な女性のコーデを真似した。



しかし、凛には彼氏が出来なかった。



 凛は一人の女性だ。人間であるからには、好むと好まざるを別として、性欲もあった。仕事が終わって家に着き、アロマを焚きながら、月9のドラマを見ては一人寂しい想いをしていた。


 私もあんな素敵でドラマティックな恋がしてみたい。


 それは、美人だけに許された特権なのだろうか。


 年末ジャンボが当たる様な確率論なんて、凛の人生には無縁だった。そういう星の元で私は生まれたのだ。



   ブスとして。



 神様は、平等の中の不平等を、容赦なく凛に突きつける。それがブスの現実だ。


 そんな、言いようもない虚しさを、マスターベーションで解消する日々もあった。


 絶頂を迎える時、必ずと言っていい程、凛は泣いた。気持ちがいい筈のマスターベーションで、凛は泣いた。自分の様なブスには、白馬の王子様は絶対に訪れない。凛の存在している惑星はディズニーランドでは無かった。


 現れて見た所で、岡本の様なアホ人間しか居ない。


 せめて気持ちだけはときめかせていたいと、同僚の佐藤に密かに想いを寄せていた。


「店長、この間入ったって言う、あの焼酎持って来てよ。何だっけ?ホラ?鹿児島の有名な、いも焼酎。佐藤、お前知ってるだろう?」


 大分、酔いが回った口調で岡本は叫んだ。


 佐藤が控えめに答えた。


「鹿児島だったら、凛さんが詳しいんじゃないですか?凛さん、鹿児島出身だし、ねぇ凛さん?」


 凛は、佐藤の急すぎるキラーパスに、お通しの塩キャベツをゴクリと飲み込んだ。天盛りされていた干し昆布が喉に詰まりそうになった。


「は、は、ハイ。あの・・・・・・薩摩藩だったと思いますけど」


「そうそう、それそれ。その、なんだ、さつま?さつまはん?

蒲鉾みたいな名前だな。まぁ、その焼酎持って来てよ」


凛は少し佐藤の方に目をやった。佐藤はニコッと笑いながら軽く頷いた。




     3


「じゃ、カラオケ行く人、手あげてぇ~」


 岡本の子分の女子社員が切り出した。


「あっ、俺今日はパスします」


 佐藤はハッキリと切り出した。


「凛さん具合悪いって言うから、駅まで送って行きますよ」


 ヒュー、と周りから口笛や指笛が聞こえた。


「何だよ、佐藤。抜け駆けかぁ、オイ。凛ちゃん、ご無沙汰だから、あんま激しくすんなよぉ」


 凛は、日頃から抱いていた岡本に対する怒りが爆発した。


「いちいち、うるせぇよ、このハゲ野郎!佐藤さんがそんな事する筈ねぇだろう。黙って、よこはま・たそがれでも歌ってろ!」


「ちょっと、凛さん!」


 凛は、岡本に叫ぶと勢いよくメトロの方に向かって走り出した。続く様に、佐藤も追いかけた。


「さぁーとう、ゴム付けろよ」


 岡本は両手を上げながらバンザイをした。そして、子分の女子社員が岡本に尋ねた。


「最後までいくと思います?」


「いく訳ねぇだろう、あんなブスに。ブスはブスらしく黙って大人しく生きてりゃいいんだよ」


 それまで黙って下を向いていた一個下が、口を開いた。


「それは違うと思います」



「・・・・・・う、ん?」



 岡本は振り返った。


 一個下は肌寒くて震えているのか、入社したてでいきなり上司に反旗を翻す事が、怖かったのかは誰にも分からない。それでも一個下は続けて言った。


「岡本課長のやっている事は、れっきとしたルッキズムですよ」


「ルッキズム?何だよコイツ、急に横文字使ってやんの。アメちゃんか」


 岡本は笑いながら、周囲を見渡した。他の社員達も笑っていた。ゲラゲラと。


「皆さん、何が可笑しいんですか?皆さんのやってる事は、ハッキリ言って人権侵害ですよ」


「人権侵害?何だ何だコイツ。BPOの回し者か」


「課長、見損ないました」


 一個下は、ポツリと呟き、二人の駆けてった方に向かった。


「ったく。これだから、今の若い奴は・・・・・・」 


  そう言うと、岡本は苦笑いした。



     4


 「これ、飲む?」

 佐藤は、自動販売機から買って来た冷たいスポーツドリンクを手に、凛に近づいた。凛はベンチの端っこへ座り直した。


 二人は近くの公園まで来ていた。最近の公園は、遊具が規制されている。ブランコと、象さんの形をした滑り台がポツンと其処にはあった。


 幼児や幼稚園児がケガをしない様に、安全に作られているのだ。時代は変わりつつある。


 だが、凛の黒歴史は続いていた。


 凛は、そのブランコを見て自分の小さい頃を思い出していた。人とは違った顔をしていると感じ始めたのは、小学生の低学年だったと記憶している。


 その凛が今、一人の男性と、かなりの至近距離に居る。生まれて初めての事だった。


 凛は、ひどく興奮していた。


 しかし、酒の勢いもあったのだろうが、自分の直属の上司にあんな口をきくなんて。明日から、どうやって岡本に接すればいいのだろうか。


 嬉しさと恐怖が入り混じっている。


 凛の感情の起伏は、滑り台より角度が急だった。


 もしかしたら、最悪クビになるかも知れない。ここまで努力して来たのに、その努力が水泡に帰すると思えば、いつのまにか、凛は泣いていた。


「大丈夫だよ、凛さん。課長がハゲてるの、皆知ってるから」


 佐藤は、手にしたスポーツドリンクを凛の頬にあてた。


 その瞬間、凛は思わず笑いだしてしまった。


「佐藤さん、ありがとうございます」


「何が?」


「その、あの・・・・・・。かばってもらって」


 佐藤はキャップを開けたスポーツドリンクを一口飲むと、大きく息を吐きだした。



「俺、凛さんが好きだよ」



 突然の告白に凛は緊張し、目の前が真っ白になった。



─落ち着け自分─



 凛は心の中で、何度も何度も繰り返し自分に言い聞かせながら口を開いた。


「佐藤さん、酔ってますよね?」


「うん?酔ってるよ。どしたの?」


「好きだなんて、そんな言葉、軽々しく口にしない方がいいと思います」


「なんで?」


「だって、その・・・・・・」

 

 佐藤はスポーツドリンクを一気に飲み干した。どうやら、喉はカラカラだったようだ。それは凛も同じだった。二人が座っている木造のベンチは座り心地が悪い。


 でも、佐藤と一緒に居る時は居心地が良い。凛は不思議な感覚に襲われた。それは、月9ドラマでよく見る光景だった。


 凛の緊張は、一気にボルテージを上げた。この勢いなら競走馬になっても一位を取れる程に、心臓は鼓動を早くした。今なら、世界一の駿馬になれるかも知れない。


 このドキドキが、佐藤に伝わっていなければいいが。凛はハンカチで口元を覆った。


「俺は凛さんの事、人として好きだよ。会社で誰よりも頑張っている努力家の凛さん、朝早くから出社して資料を整理している凛さん、岡本課長の無茶振りに、文句一つ言わないで健気に頑張って居る凛さん、どれも大好きだよ」


 凛は口元を覆っていたハンカチを目元にやった。


 自分の事を、ちゃんと見てくれている人が居る。その簡単な事実が嬉しかった。


「凛さん、これからは男として好きになっていいかな?」


「それ、どういう意味ですか?」


「俺と付き合って欲しいって事」


「だって、あんな綺麗な彼女さん居たじゃないですか?」


「疲れたんだよ俺。何かにつけて、やれコスメだとか、やれエステだとか・・・・・・勝手にしてろって感じ。いきなり糖質制限だとか言ってみたり」



「・・・・・・ブスならハードルが低いって思っているんですか?」



「それ、誰が決めたの?凛さんの容姿について誰が決定権持っているの?自分の事、ブスだとか言うけど、それは、生まれて来てから与えられて来た価値観や、後天的に身についた先入観でしょ?」


「じゃあ、佐藤さんは私の事、どう思っているんですか?正直に言って下さい」


「ブスだと思うよ」


「ひ、ひ、酷くないですか」


「でも、凛さんの心は、そうは言っていない。耽美って言葉、知ってる?美を最高の価値基準とする考え方なんだけど」


「だったら、尚更じゃないですか」


「だから、俺は凛さんの心に惚れたんだ」


 二人の距離は、縮まる一方だった。凛が手を伸ばせば、スグに佐藤に触れられる距離だった。


「私の、腫れぼったい一重まぶたも、ブタ鼻も、タラコみたいに膨れ上がった下唇も、しゃくれた顎も美しいと思っているんですか?」


「凛さん、本当に大切な事は目に見えないんだよ。神は心を見るって言うじゃん」


「・・・・・・佐藤さんって、ヤバい宗教の人ですか?」


「当たり!なーんてね」


 佐藤は無邪気に笑って見せた。その横顔だけは、凛は忘れたく無かった。今ここに一眼レフがあれば、きっと最高の一枚が撮れるだろう。


 佐藤が近づいて、凛に言った。凛が、生涯忘れる事の無いセリフだった。


  「時よ止まれ。凛は美しい」


  そう言うと佐藤は、凛の顎を持ち上げ軽くキスをした。


 凛は、生まれて初めてキスをした。



  それは、さっき飲んでいたビールとは違った、甘い味がした。


 滑り台の陰からは、一個下が微笑ましい顔で二人を見守っていた。


     

     5


 あれから一週間が経った。岡本とは仕事のやり取り程度の話しかしなかった。特段、突っ込まれる事も無かった。


 佐藤とは付き合う事を決めた。佐藤は、毎日ラインをくれる。この間は一緒に映画を見に行った。客席に座ると、佐藤の方から手を繋いでくれた。


 凛は、佐藤から告白をされて唇を交わしてから、人生が変わった。凛の中で、ほんの小さな塊だった物が、少しづつだったが溶け始めていった。


 もう少しで休憩となるその時に、凛のパソコンに、メールの通知が届いた。



 「この間は悪かったな」



 岡本からだった。


 凛は、デスクトップの向こう側に居る岡本を見た。岡本は画面から目を離す事は無かった。何食わぬ顔で、仕事をしているフリをしていた。


「いえ、私の方こそ謝らなければいけない立場でありながら、お時間がかかってしまいまして、すみませんでした」


「あれから、俺も色々勉強してな」


 岡本のメールには一つのURLが貼られていた。



https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%83%E3%82%AD%E3%82%BA%E3%83%A0



「いえ、課長は何も悪くありませんから。悪いのは私であって、その、上手く伝えれないんですけど・・・・・・」


「お前も、色々苦労して来てたんだな。本当に申し訳無かった。頼む。許してくれ。ウチの部署が成り立っているのも、お前のおかげなんだ。お前が居なくちゃ、この部署は駄目になっちまう。俺は怒ってはいないんだ。頼む」


 岡本の口から、苦労と言う言葉が出てくるとは、夢にも思わなかった。先日の件で、岡本からの口撃は歯止めが効かなくなると、凛は構えていた。


 その岡本が、凛に対して許してくれと懇願して来ている。パソコンを見ている岡本を見ていると、どこか父親の面影を感じる。


 普段は口やかましく文句ばかり垂れていた父親だったが、上京する時は手紙とお守りをくれた。筆不精の父親が、手紙なんて書ける筈が無いと思っていた凛は、発車を待つホームで封を開けた。



  ─幸せになれ─



 あの日の父親と、岡本がダブって見えた。岡本もまた佐藤と同じく、凛の頑張りを見ていてくれたのだ。陰ながら、縁の下の力持ちになって居た凛に、一筋の光明が見えた。


 凛は、メールを何度も読み返しながら泣いていた。岡本は、まだ画面を見つめたままだ。


 隣のデスクの一個下が、いきなり泣いている凛を見兼ねて言った。


「凛さん、あの・・・・・・大丈夫ですか?」


「う、うん。大丈夫。何でもないよ。気にしないで」


 このままでは、涙でメイクが落ちてしまう。でも私は、このままでいいんだ。ありのままでいいんだ。その事を教えてくれたのも、佐藤と岡本だった。



「あっ、一ついいか?」


 

 岡本の表情に曇りがさした。


「お前も立派な人権侵害だからな」


「えっ?」


「ハゲ呼ばわりしたじゃねぇか」


 岡本の眉間のシワが、一段と彫りを深くした。まるで、パソコンと睨めっこしている様だった。その絵ずらが、あまりにも奇妙で、凛は大きくむせながら笑った。


「・・・・・・凛さん、本当に大丈夫ですか?」


 こちらもこちらで、一個下が怪訝そうに凛を見つめて来た。


 それと同時に、岡本が立ち上がって声をあげた。時計の針は12時の方向に傾いていた。


「よし、今日は皆でランチでも食いに行くか!」


 岡本 の子分は驚きながら聞いた。


「課長のオゴリですか?」


「当たり前だろう。表参道にいい店見つけてな」


「えー課長、表参道なんか行くんですか?」


 佐藤は、拍手しながら岡本に声をかけた。


「何て言ったって、イケオジですからね」


 

 岡本は、まんざらでもなさそうな顔をして、照れながら頭をかいた。


「イケハゲじゃ無いんですか?」

 

 メイクの落ちた顔をした凛が、立ち上がり言った。


「バカ野郎」


 その瞬間、皆が一斉に笑った。






 そして、凛は心地よい温もりを感じた。

 まるで、子供の様に笑った。






 


 


 



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「ルッキズムの現実 ━短編小説━」 織田 由紀夫 @yukio-oda

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