第5話 腐肉病
野盗達が集めた物品の中に一つ異質な物があった。
それは檻に入れられた肉の塊であった。
檻の中で蠢く肉の塊は異臭を放ち、肉の塊に張り付く様にして存在する碧色の瞳が悲しげにこちらを見ていた。
私は今までに得た知識の中からこれがなんなのか直ぐに理解した。
腐肉病又は悪魔憑きとも呼ばれる症状である。
原因不明の病であるこの病気は、ある日を境にして肉体が腐り崩壊しいずれ人間の肉体を保てなくなるものだ。
そして、目の前にある蠢く肉の塊は、その腐肉病の末期患者であると言えよう。
そんな腐肉病の患者が何故檻に入れられここに存在しているのかは解らない。
もしかしたら先程の男達と何か関係があるかも知れないが、それを調べる術は既に失われてしまっている。
もしかしたら、もう少し周囲を調べれば何か分るかも知れないが、それよりも目の前の腐肉病患者の事が優先だ。
私が得た知識では一度腐肉病が発症してしまうと治す術がなく、安らかな死を与えるか、地域によっては放逐したりするそうだ。
だが、実際に腐肉病を見た私の目で判断できる事があった。
これは魔力暴走の果てに至ってしまう症状ではないかと。
私は今まで魔力を使用して肉体を改造してきた。
そんな中で偶にではあるが魔力を暴走させてしまい、肉体が変異してしまったことがあった。
その時は魔力暴走を抑えることで事なきを得たのだが、目の前の蠢く肉体はその時の私の症状を酷くしたものに近しい様に感じた。
私はものは試しと、過去魔力暴走を抑えた時の感覚を思い出し、私の魔力を放出してそれを介して目の前の腐肉病の患者を治してみる事にした。
手応えはあったように思う。
しかしながら、直ぐに治る様なものでは無いようだ。
これはある程度時間が掛る事を見据えて動く必要がある様だと思い。
私は次の動きを考える。
取り敢えず、この腐肉病の患者が入っている檻をこの場所に放置するのはやめておいた方が良いだろう。
それと同時に、この患者を何処かに隠す必要がある。
折良く我が男爵領は自然豊かな領地。
身を隠す場所には事欠かない。
森の中に雨風を凌げる場所を用意してそこで治療を続ける事が出来れば、もしかしたら完治させる事が出来るかも知れない。
そこで私は檻を持ち上げ夜闇の中、森の中へとその身を進ませるのだった。
森の中を進むこと暫く。
そこには人の気配が全くない草臥れた建築物群が存在していた。
恐らく過去ここは開拓村であったのだろう。
だが、開拓に失敗して放棄されて久しい感じがする場所であった。
軽く家々を見て回るも、ここ最近人が来た雰囲気もなかったため、当面の間の拠点として使わせて貰うことにした。
場所的にも、私が住まう屋敷から通う事も可能な範囲にあるのも良い感じだ。
私は朽ち果てた家の中から比較的綺麗な家を見つけそこに檻を置いた。
少々疲れた。
幾ら小さい頃より魔力で肉体改造を行っているからとは言え、まだまだこの身体は発展途上。
しかも夜闇の中、魔物に警戒しながらの移動は中々に神経をすり減らした。
「今日はこの辺りで失礼するね。
また明日来るから」
私は、そう腐肉病の患者に声を掛けて家を後にした。
肉体が腐っている中で、何処まで声が聞えそれを理解出来ているか解らないが、目の前の肉の塊が不憫に思えてしまったが為の偽善であった…のかもしれない。
それからの日々は、腐肉病患者の治癒に多くの時間を割く様になった。
そして半年の歳月が過ぎる頃、私は閃きを得それを試すことにした。
だが、これは一種の賭けの様なものだった。
最悪目の前の腐肉病の患者が死ぬ事もあるかも知れない荒療治だ。
だが、このままでは何も成果が得られないと思った為に私は賭けに出る事にした。
結論から言おう。
賭けに勝った。
今までの治療で足りなかったもの。それは魔力量であった。
魔力暴走中と言う事も相まって私は微弱な魔力を注ぎ少しずつ腐肉病を治そうとしていたのだが、それでは一部が瞬間的に治ったとしても直ぐ様元通りの腐った肉に戻るだけだったのだ。
だから、私は一気に治すことにした。
幼い頃より鍛えあげ莫大な魔力を大量に放出し一気に治療に当たる。
魔力暴走をして肉体が腐っている存在にこんな事をすればどうなるか予想がつかなかったが、私はこれを乗り越え治すことに成功したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます