能力音痴と8人目の天才

千早古

プロローグ

 運動音痴にとって憂鬱な時間が体力測定なら、に訪れる憂鬱な時間。それが通称である。

 しかもそれが、高校入ってから1週間ほどで始まるのだから容赦ない。


「それじゃ、中学と同じ様に①エネルギー系、②身体系、③現象系、④希少系ごとに並ぶように」


 そう指示を出すのはジャージにウルフカット。

 担任で体育教師の大神おおがみ李花りかは③現象系の超能力者。

 能力名は半狼化ケモナー : 自由意思で狼になれる。部分だけ、あるいは獣人じゅうじんの状態にもなることが出来る。


「狼先生ー」

「大神先生な!確かに先生狼女だけど」

「あ、すいません。その、能力音痴の再測定はどこやってますかね」


 五通ごとう心太朗しんたろう

 才生高校ぴかぴっかの1年。今や数少ない側、能力音痴である。


「……あ、あぁ。ええっとじゃあ、後でやるから。とりあえず①エネルギー系能力者の記録手伝ってもらおうかな」

「あれ、自然に仕事振られてる?」


「こんな短時間で仕事とってくるくらいだし大丈夫そだね」

「仕事を振られて大丈夫そ?な人間はこの世にひとり存在しないんだよなぁ」

「その返しができるくらいだし凹んでないっぽい?」

「違います。アピっとかないと忘れられるから、これでもそこそこ傷付いてます」


 黒髪のショートカットに小さい十字のピアス。

 五通の幼なじみであり、亜麻音あまねこうは④希少系の能力者。

 能力名が強化弱化バフ・デバフ : 超能力者の能力を上下限なく高め(強め)たり弱めたりできる。

 その能力の希少性から7の内1人に選ばれた。


「よしよし辛かったね。僕の胸で泣くといいよ」

「……こう!」

「しんたろー!」

『ちょ、あまねっちはこっちでしょー』

「あーい」


 同じ中学から進学して1ヶ月。コミュ力という超能力云々以前の力の差。

 コミュ力の広げた両手が空を切ったついでに軽いストレッチ。


「さて、やるか」


 とりあえず友達作りの方から始めましょう。 


○□∬+☆


「おぉ……」


 才能測定はつつがなく進んでいた。


「次誰?」

「あ、俺です」


『きゃー!穂村くん!』

『マジか、うちの学校に進学したって聞いてたけどホントだったんだな』


穂村ほむら緋色ひいろと」


 赤髪のサイドカットに180位はありそうなスタイルはまさに王道の王子様のよう。


「って、あの穂村緋色!?」


 能力名が発火支配パイロキネシス : 発火の操作と応用。


「最高火力3000℃!射程距離は816m!圧倒的火力とコントロール性のあのほむら様!?」

「え、測定してた今?」

「光栄すぎる……」


 厨二ちゅうにの時、誰もが一度は憧れるであろう炎系の超能力者にして、言わずと知れた7の1人である。


「同姓同名の可哀想なやつだとばかり……」

「んん!」

「あ、やりまーすめっちゃやりまーす。はい」


 狼なのに地獄耳。再測定の権限を持つ先生の咳払いに我に返る心太朗しんたろう


「じゃ、能力お願いします」

「え、あぁ発火支配パイロキネシス


 超能力測定器『アビリティ』。

 職人の手作りしたパーツと超能力研究所の最新鋭のデータが詰まった高精度マシン。

 その測定開始のボタンを押すだけ。


『測定中……測定中』


「次、見澄みすみー」

「はい」


「マジ!?行かなきゃ!」


「五ー通ーくーん?」

「な、なんちゃって?」

『測定完了』


 才生高校は校庭が2つある。

 隣のグラウンドでは②身体系の才能測定が行われていた。


「あれ?見澄さーん?」

りつ、呼ばれてるよ」

「はい」


『え?あの子が目神様?』

『でも、見澄って』


 名前を呼ばれ『アビリティ』の前に来る。

 黒髪のロングヘアは目にかかりそうなほど長く7の1人、見澄みすみりつなら意外という雰囲気が漂う。


「やります、千里眼フォーカスト


 前髪をさっとピンで留め発現する。

 能力名、千里眼フォーカスト : 透視、視野拡大に加え近未来予知も可能。

 本人の周囲半径500m、近未来予知は5分先の事までであれば外れた事がないという。


『きれいねー』

「も、もういいですか?」


 能力発動中は自身の瞳が蒼くなる。それがコンプレックスらしい。


「ん、オッケー」

「はい」

「五通、エネルギー系の測定は終わったかー?」

「あ、今終わりました!」


「よし、じゃあ再測定しようか。他の皆は教室戻ってていいぞー」


『はーい』


「うし、今日の為に炭酸断ちしてきたからな……まあ効果があるかは別として」


「じゃあ、先いってるねー」

「ん、あぁ」


 ずらずらと教室に戻るクラスメイト達。


「さて、今日こそ超能力者になりますか!」

「ん?結果が出るのは一週間後だよ?」

「先生……」

「え?」

「悪い人じゃないんだけどなぁ……」


 こういうのは気持ちが大事なんですよ。

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