そこまで言うのならなってみせましょう

ひよっと丸

第1話


「お前との婚約を破棄する。そして、王太子である俺の恋人を侮辱した罪で投獄に処す」


 声高らかにそう宣言したのは、この国の王太子カインで、その横には肩を抱かれてシナを作っているカインの恋人男爵令嬢のアンナがいた。学園のダンスパーティーの場で突然起きたこの騒動に誰もが驚いたが、誰も何もすることができなかった。なぜなら正しい判断ができる大人がいなかったからだ。学園に通う学生主催のダンスパーティーであるため、会場には教師の一人もいなかったのである。もちろん、カインが発した言葉に異議を唱える者はいないし、いさめるものもいない。


「かしこまりました」


 形式的に返事をして、ドレスのポケットから神と万年筆を取り出したのは、たった今婚約破棄を言い渡された令嬢だ。この国の侯爵家の令嬢で、父親は宰相をしている。いわゆる政略的な婚約なことぐらい誰もがしっていた。もちろん、本人であるイザベラは本気でいやいやながら婚約したのだ。なぜなら、カインが恐ろしいほど馬鹿だからだ。


「こちらの書類が私とカイン様の婚約破棄の書類となります。先に私がサインいたしますのでカイン様は私のサインの上段にお願いいたします」

「用意がいいじゃないか」


 イザベラが書類を渡すと、カインはろくに内容も確認せずにイザベラのサインの上の段に自分の名前を書いた。


「こちらは牢に入る前に提出しておきますのでご安心ください。それでは私はこれにて失礼いたします」


 イザベラが美しいお辞儀をして立ち去ると、カインとアンナは大声で笑い、祝いのダンスを踊り始めたのだった。



*********



「ああ、くだらない」


 城に付くとイザベラは勝手知ったる足取りで執務室に入り、玉璽を先ほどの書類に押した。これでイザベラとカインの婚約は破棄された。それと同時に決裁の権限がすべてイザベラの物となった。元から、カインは王太子であったにもかかわらず、国政に疎かった。書類は読めないし、公共事業もその予算も相場も何もわかってはいないのだ。読み書きは出来るが考えることができない。責任感がないくせに、権利だけを主張する暴君予備軍なのだ。そんなわけで、賢く常識と知識を持ち合わせた宰相の娘であるイザベラがカインの婚約者となったのである。もちろん、他のご令嬢たちにきっちりとお断わりされた結果である。

 イザベラは父親が宰相であったがために貧乏くじを引かされたのだ。婚約発表の後、貴族令嬢たちからものすごく同情され、感謝されたものだ。つまりそのくらい、カインは不人気だったのだ。


「この書類を教会に出して着て頂戴。それから、私はこれから牢に入らなくてはなりませんから、ここを牢屋に改装します」


 イザベラはそう宣言すると、手のひらサイズの魔石を机の上に置いた。この世界、魔物はいるが魔法は存在しない。代わりに魔石を用いた魔道具が存在する。そして、城の中は魔道具と魔石で構築されていた。先ほどイザベラが押した玉璽も魔道具である。権限のないものは触ることもできないのだ。つまり、イザベラは王の玉璽に触ることができる権限を持っていて、王太子であるカインと婚約破棄をしたにもかかわらず、その権限を失っていなかったのであった。

 それはなぜなのか。答えは簡単である。権限を失ったのは王太子であるカインだからだ。


「ああ、こんなものかしらね」


 執務室が牢屋になった。窓には細かい鉄格子が組まれ、入り口の大きな扉は鉄格子の扉となった。鍵はもちろん魔石の鍵であるから、誰にでも開けられるものではない。


「ずいぶんだな、イザベラ」

「あら、お兄様」


 鉄格子の扉の向こうの廊下にイザベラの兄ヒューザがいた。手には書類を抱えている。


「今度は何が起きた?」

「婚約を破棄されました。恋人を侮辱したから私を投獄するそうです」

「それは、それは」


 ヒューザは半目で執務室の様子を伺っていた。今まで通りになんら変わりのない室内である。ただ窓に鉄格子がはめ込まれ、扉が変わっただけである。


「書類の受け私は鉄格子の隙間からできましてよ?」

「見ればわかる。とても機能的な牢屋だな」



 ヒューザは鉄格子越しに書類をメイドに渡し、決裁済の書類を受け取って帰っていった。そのようにして、城の業務はヒューザとイザベラの二人によって滞りなく進んでいったのであった。ちなみに、国王と宰相は、各々の伴侶を連れて外遊の最中である。それ故、王の決裁代理を王太子とその婚約者イザベラが担っていたのだが、婚約破棄をしたため、宰相の娘イザベラに一任されたのである。もちろん、その書類を作り、決裁したのはイザベラである。カインがろくに読まずにサインした婚約破棄の書類の下にその書類が挟んであったのだ。複写式の魔道具であったため、カインは下の書類も同じだと勝手に思い込んでくれた結果だった。


*********



「おい、これはどういうことだ」


 翌朝、牢屋となった執務室の鉄格子の前で、カインが喚いた。もちろん、イザベラは優雅に朝食をとっていた。焼きたてのパンに具だくさんのスープ、新鮮な果物によく焼けた厚切りのベーコンと火の通りが絶妙なふわふわなオムレツ。起き抜けで着替えもろくにできていないカインには刺激が強すぎた。


「見ればお分かりかと思いますが」


 食事の手を止めないままイザベラは答えた。


「わかるかっ、俺には朝食の用意さえされていなかったんだぞ。それなのに、投獄されたはずのお前がなぜ優雅に朝食を食べているんだ」


 空腹は人をいらだたせる。カインは正しくその状態だった。


「あら?ここは牢屋ですわ。現にカイン様の前には鉄格子がございましてよ。鍵もかかっていますのでご安心ください。我が国の方では投獄された罪人にはきちんと三食食事を出すという決まりがございますので、私はこうして牢の中で食事をとってございます」


 イザベラがそう答えると、カインは仕方なくなっとくした。が、


「しかし、なぜここを牢屋にした」

「それは、私が書類の処理をしなければならないからですわ。地下の牢屋まで書類を運ばせては、メイドたちがかわいそうではありませんか」

「そうか、そうだな。っはは、牢屋に入ってまで仕事をしなくてはならないだなんて、お前も罪深いものだ」


 カインは牢屋に入ってまで仕事をしているイザベラを鼻で笑った。


「そうだ、お前は死ぬまで俺の代わりに仕事をさせてやろう。そうすれば俺はアンナと遊び放題だ。そうだ、それがいい。お前を殺さない代わりに仕事を与えてやるんだ。なんて俺は慈悲深いんだろうな」


 カインは高らかに笑いながら帰っていったのだった。


「すっごい馬鹿ね」


 イザベラはそう感想を述べると、ゆっくりと食後の紅茶を飲むのであった。

 そうしてイザベラが机で仕事をしていると、書類箱の中に一通の手紙が舞い込んだ。送り主はこの国の国王夫妻だった。


――――イザベラよ、息子の言うとおりにしてやってくれ。事実、息子に任せるよりもその方が処理をした方が国政が無理なく動く。今後も国のため、其の身を捧げるように――――


 イザベラは怒りよりもただ呆れてしまった。どうやら国王は優秀な影武者を手に入れたと思っている様である。


「あら、今度は……お父様」


 再び現れた書類箱の手紙にイザベラはため息をついた。


――――イザベラよ、お前が腑抜けだからこのようなことになったのだ。よく反省し、私が帰るまで牢に入って仕事をするように。もちろん、一つとして間違えることは許されないし、処理が遅れることも許されないことを肝に銘じておくのだぞ――――


 宰相である父親の手紙を読んで、イザベラは遠い目をした。この親にしてこの子あり。ではなかった。イザベラの父である宰相がこんなのだから、こんな国王親子になってしまったのだ。


「今いるのはこの国なのね……つまりあと三か月、本当に帰ってこないつもりなのね」


 外遊という名の遊びに出かけて、楽しくて仕方がないらしい。自分たちが帰国したとたんに仕事を押し付けられたくないという本音が駄々洩れの手紙である。平たく言えば国の金を使って海外旅行を楽しんでいるのである。仕事を全て子どもに押し付けて。もちろん押し付けられたのはイザベラとヒューザである。ヒューザは将来のための研修と言われたのだ。仕事はもちろん父親である宰相の仕事を押し付けられた。つまり実質この二人が国を動かしているのである。実際、事務官たちは誰も文句を言っては来なかった。いや、逆に喜ばれていると言ってもいい。なぜなら国王はろくに書類を読まないし、宰相はすぐに仕事を押し付けてくるからである。

 イザベラは魔道具の用紙を一枚机に置くと、さらさらと文をしたためた。そうして国王の玉璽をポンと押す。封筒に綺麗に入れるとしっかりと封をした。そうして鳥の羽を模した魔道具をその封筒に乗せると、封筒は鉄格子の間をすり抜けて空高く飛んで行ったのだった。


*********


「ようこそいらっしゃいました。歓迎いたしますわ」


 10日後、王都の港に立派な軍艦が5隻やってきた。そして、その軍艦から降りてきた貴公子に飛び切りの笑顔を向けるのはイザベラだ。


「お招きいただき光栄に思う。イザベラ嬢」


 貴公子の正体は隣国の第二王子ルフランだ。陸路よりはるかに速い海路を使い、しかも一番速度の出る軍艦を使ってやってきたのだ。これらはすべてイザベラの指示である。


「書類のご用意はございまして?」

「もちろん」


 港のデッキでルフランとイザベラは書類を交わした。立会人はイザベラの兄であるヒューザとルフランの護衛としてついてき騎士団長、それから聖教会の神父である。


「いまここに、新しい夫婦が誕生したことを神に誓う」


 神父が声高々に宣言をすると、二人が署名した書類は一羽の白い鳥に姿を変えて、聖教会に向かって飛んで行った。港に停められた軍艦は一瞬で鮮やかな旗を飾り、花と紙吹雪が舞った。軍艦のデッキには鼓笛隊が並び、お祝いの楽曲を演奏した。魔道具を使い一瞬でウエディングドレスに着替えたイザベラは、ルフランに手を取られ、白い馬車に乗り込んだ。屋根のないオープンタイプの馬車に乗り、港からゆっくりと城に向かう。お祝い事を聞きつけた市民たちは、いつの間にかに用意された広場の屋台で、様々な食べ物を無料で配られた。酒は樽で用意され、次から次へと消費されていった。

 花と紙吹雪をまき散らしながらパレードをして、ルフランとイザベラが城に戻ったのは夕方だった。そうして騎士たちに守られながら城の大広間に入れば、そこには国中の貴族が集まっていた。


「「「おめでとうございます」」」


 両開きの重厚な扉が開き、ルフランとイザベラが一歩大広間に足を踏み入れた途端、祝いの言葉が一斉に述べられた。そして鳴りやまない拍手の中、二人はゆっくりと奥へと向かった。その先にはヒューザが待ち構えている。


「それではここに、新国王ルフランの誕生である」


 ヒューザはそう宣誓し、王冠をルフランの頭上に置いた。白ヒョウの毛皮で作られたマントを幼子たちがかけてやると、ルフランは立ち上がった。その手に錫杖を渡したのはイザベラだ。


「今ここにエレイム公国の誕生を宣言する」


 錫杖を掲げそうルフランが宣誓すると、歓声が上がった。


「まてまてまてぇ」


 歓喜の雄たけびを上げる貴族の中からドタドタと足音を立てて現れたのはカインだった。その後ろから小走りでアンナもやってきた。


「どういうことだ、俺はこの国の王太子だぞ。誰の断りを得てこんなことをしている」


 はあはあと息を切らしているのは、ここから一番遠いところに案内されていたからである。王族は一番最後に会場入りをするのが常なので、カインはあっさりと騙され、ルフランとイザベラが入場したことが見えていなかった。だから歓声を浴びていたのは外遊から帰ってきた両親なのだと思っていたのだ。


「これはこれは、亡国の王太子ではありませんか」


 そう口を開いたのはルフランである。だが、頭の悪いカインは、亡国のいみが分からず王太子と呼ばれたところだけ聞き取っていた。


「わかっているのならさっさとその王冠を俺によこせ。外遊先で父上に何かあったのだろう?ならばその王冠を頭上に掲げるのは俺だ」


 カインがそう言ったところで誰も動きはしないし、それどころか追随してくる貴族もいない。いつもなら、腰ぎんちゃくの伯爵子息あたりが声を上げてきそうなものなのに。


「酷いですぅ、イザベラ様ったら、カイン様というものがありながら二股をかけていましたのね。こちらの方はどなたですの?王太子カイン様の婚約者である私に紹介しなさい」


 そんなことを言いながらも、アンナの目はルフランにくぎ付けであった。どう見てもルフランの方が美男子であるからだ。


「アンナさん、あなた何を聞いていらしたのですか?こちらの方はエレイム公国の初代国王ルフラン様です。そしてたった今、そちらのカイン様が王太子であった国はなくなりましたのよ?」


 お分かりいただけたかしら。なんて小首をかしげてイザベラが言った後、ルフランがイザベラの肩を優しく抱いて口を開いた。


「そしてイザベラは私の妻である。すなわち初代エレイム公国の王妃である」


 それを聞いて再び歓声が起こった。そのあまりの大きさに、カインとアンナは耳をふさぐしかなかった。そんな二人の前にヒューザが一枚の書類を見せた来た。


「無血開城であるため、特別に恩赦として年金を支給します。住む場所は国境付近の館です。明日の朝いちばんに出発しますから、準備してください。この二人を連れていけ」


 ヒューザが指示を出すと、騎士たちがやってきて有無を言わさず二人を引きずるように大広間から連れて行った。アンナは悲鳴を上げて自分の両親に助けを求めたが、すでにアンナの両親はエレイム公国の貴族となっていたため、其の署名に名前のないアンナはもはや他人であったのだ。


「それでは皆の者、新しい時代を祝おうではないか」


 ルフランの合図により貴族たちは手にしたグラスを床でたたき割った。中身は亡国の酒である。そうして新しいグラスが配られた時には魔道具により床は綺麗になっていた。再びルフランがグラスを掲げると、今度こそ貴族たちはその杯を煽ったのであった。


*********


「どういうことだ」


 国境の検問所で馬車を降りた途端拘束されたのは亡国の国王夫婦と宰相夫婦である。


「ようやくお帰りですか」


 そう言って現れたのはヒューザであった。


「おまえ、ヒューザ。親になんてことをするんだ。すぐに縄を解け」


 怒りで顔を真っ赤に染めた父親を見て、ヒューザは深いため息をついた。


「まったく何もわかっていない。そして何も見ていない」


 ヒューザは顎で自分の後方を示した。検問所の執務室の壁には国旗が飾られていた。


「なんだ、その旗は」


 縛られた国王が気が付いた。見たことのない旗である。


「ようやく気付いたんですね。この検問所の屋根にも掲げられているのですが、まったく見てはくれなかったということですか。なんと嘆かわしいことか」


 わざとらしく目頭を押さえながらヒューザはそう言うと、二枚の書類を出してきた。


「あなた方はね。ろくに国政もしないで外遊だと遊び惚けていた。それどころかごくつぶしでしかない王子を王太子にして、その婚約者に国政のすべてを押し付けた。さらには宰相の息子である私にまで仕事を丸投げしましたね」

「しゅ、修行だろう。いずれ宰相になるのだから」

「そうよ、親の手伝いをするのは子どもとして当然でしょう」

「私の知識を何のために教えたと思っているの」

「何のための王妃修行だ。すべては国王を支えるための王妃だろう。王太子の婚約者なら国王である私の娘も当然だ。支えるのは当たり前のことであろう」


 めちゃくちゃ文句を言ってきた。だがしかし、自分本位の考えを述べているに過ぎなかった。


「この書類、よく見てください」


 ヒューザは書類を国王と宰相の目の前に出した。四人そろって仲良く縛られ、床に座らされているから書類は当然床に置かれた。それを窮屈な体勢で必死になって読む。まず初めに玉璽が押されていることに目が行った。そして、署名はイザベラとヒューザ。


「こ、この書類は偽造ではないか。署名がお前になっている」

「そうだ、私の名前ではなくイザベラの名前だはないか」


 そんなことを言ってきたが、ヒューザは鼻で笑った。


「でも、玉璽は本物ですよ。魔道具ですから権限のない者は触ることができない」


 言われて顔色が悪くなるのをヒューザは冷めた目で見ていた。


「あなたたちが下さったんですよ。玉璽を使い権限を私とイザベラに。ですから私とイザベラは一生懸命働きました。しかし、あのぼんくら王太子は勝手に恋人を作りイザベラに婚約破棄を突き付けた。そして、それを聞いたあなたたちはあのぼんくらをいさめるどころかイザベラに謝ることもせず、逆にイザベラを咎め、さらには一生ただ働きをさせようとした」

「それの何が悪い。家臣が忠誠をもって尽くすのは当たり前のことだろう」

「イザベラに魅力がないからそうなったのよ」

「親の意図するとおりに立ちまわれなかったからだ」

「さっさと体の関係をもたなかったイザベラの落ち度です」


 またもや勝手なことを言い、イザベラをののしる。自分の娘なのに、優しい言葉もかけられない両親にヒューザはうんざりした。


「まったく勝手ですね。ありとあらゆる令嬢から婚約を断られた結果、イザベラが拾ってあげたのでしょう?近隣諸国の言葉を覚え、国政までマスターしてあげたというのに……あなた方はそれを褒めもしないで自分の私欲のために利用した。そして、あのぼんくらの暴走をきっかけにイザベラを一生飼い殺しにしようとまで考えた」


 ヒューザはそう言って、もう一枚書類を出した。


「ここにあるとおり、あなた方の国はすでにない。ここはいまエレイム公国です。国王は隣国の第二王子であったルフラン様です。国王代理を務めていたイザベラが妻となり二人で国を治めているんですよ」


――――ここにこの地をエレイム公国とし、初代国王をルフラン=エレイムとするとすることを宣言する。


   アラリア国王代理イザベラ=ジェノバ――――


「そんなばかな」


 いまは亡国となった国王が喚いた。その隣で縛られている王妃は顔色が真っ白になっていた。


「今更でございましょう?私、ずっとこの時を待っていましたの。玉璽は魔道具。権限を譲られあなた方が国外に出かける機会をあえて作りましたのよ。そうしたら、かんたんにあのバカはひっかかりろくに書類も確認せずに署名してくれたんです。複写式で下の書類は違っていたというのに。おかげで国王の玉璽の使用権原は私に全権が渡されて、あのバカと婚約も解消できましたの。そのあとは簡単ですわ。執務室を魔道具で牢屋に変えて、誰も出入りができないようにして国政をいたしましたの。国の貴族たちには内乱の可否を魔道具で申告させ、全会一致しましたのよ。ルフラン様とはあなた方の代わりに何度もお仕事で顔を合わせていましたから、きちんと意思の疎通をとっていましたのよ?」


 イザベラがそう話しながら姿を現した。頭上には光り輝くティアラが乗っている。


「イザベラのおかげで無血開城できたので、カイン殿は恩赦を与え国境付近の館に隠居してもらいました。一時は我妻イザベラの婚約者でしたからね。そのくらいの慈悲は与えましたよ。だがしかし、あなた方にはそんなことはしない」


 イザベラの腰に手を回し、王冠を頭上に乗せ白ヒョウのマントを纏ったルフランが言う。


「国政をおろそかにし、国民を顧みず私欲に走った愚か者たちは国外追放に処す。もしこの国の地を踏んだのなら、捉えて打ち首とする」


 そう宣言をするとルフランはヒューザを従え執務室を後にした。


「ああ、そうそう」


 扉の所で立ち止ったイザベラが振り返った。


「これ、お返ししますわ。もう私には用のないものですから」


 そう言って玉璽を亡国の国王の前に転がしたのだった。

 

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