メリー・オン・ザ・ロード
濱 那須時郎
初日/二日目
「もしもし、私メリーさん。今、あなたのアパートの前にいるんだけど……あなた今、どこにいるの?」
戸惑いもあらわな声に、思わずニヤリとしてしまった。
困ってる困ってる。
あのメリーさんが、声にあからさまに困惑の色を浮かべている。
宿泊している健康ランドとその所在地を教えてやると、「はぁ!?」と裏返った声で彼女は叫んだ。
「茨城県!? 水戸のそば!? なんでそんなところにいるのよ! こっちはずっと帰りを待ってたのに!」
「あれ、言わなかったっけ。今日から旅行に出るって」
「聞いてないわよ!」
「それはあれだな、僕が何か言う前に、君がさっさと電話を切っちゃうせいだな。……ところで大丈夫? さっきから雨の音が聞こえてくるんだけど」
「えーえーえー、降ってるわよ。ざんざん降りの大雨です。寒くてしょうがないわ、夏だってのに」
「そーかそーか、そりゃ災難だったね。ところで僕はさっきまで、あったかい風呂を堪能してたんだ」
「よーし、殺す。たとえ地の果てまでも追い詰めて殺す。首洗って待っとれ。そこから動くんじゃないわよ!」
そう言い捨てて、彼女は電話を切った。
もちろん僕は、待ってなんかやらなかった。翌朝早く、朝食もそこそこに出発した。なにしろ夕方までには大洗の港に到着して、フェリーのチェックインを済ませなければならないのだ。
素晴らしい好天だった。日の光に目をすがめつつ、雲が少しだけ出てくれることを祈る。
天気が良いのはいいことだ。しかし、良すぎるのは困る。前日の埼玉県縦断、あれはまさに炎天地獄だった。もしも途中のファミレスで休息をとっていなかったら、きっと僕は利根川を越えることさえかなわず、ミイラとゾンビのあいのこのような状態で発見されていただろう。
ああ──しんどい!
だけどやっぱり、楽しい!
自転車のペダルを漕ぎながら、思わず破顔する。
僕は自由だ! 両親からも何かと口うるさい大学のゼミ仲間からも、バイト先の上司からも! もう誰も、僕にはかまえやしない!
……たった一人、メリーさんを除いては。
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