回想〜名も亡き冒険者の回顧〜

神威ルート

 回想〜名も亡き冒険者の回顧〜

吐く息の白さと早朝の静寂が重なり合い

裸の木々の隙間を通り過ぎる


何かの音を響かせ

何を奏でているのか解らないが

そこには確かに自分には聞こえる何かが存在し

通り過ぎているのが解った


そして少しではあるが

眼の前に広がる白銀の世界と

所々点々と散らばる赤く色付いた雪化粧が

夜の闇で繰り広げられた昨夜の宴を物語っていた


そんな中私の眼の前に居る…

一糸纏わぬ姿で立ちすくむこの少女はその身に冷たく突き刺さる寒さを果たして感じているのだろうか?

その光景を瞬きもせず見つめる…

しかし何故彼女の口元だけは微笑んでいるのだろうか?


私はその微笑んの意味を知りたくて

その少女に声を掛け歩みよろうとしたのだが…

それよりも先に少女の方から静かに私に向かって歩み寄ってきた

そしてまた再び微笑んだ

今度は私に向かってだ


そして…

「美味し…かった…」

彼女は一言そう言って私の前から去っていった

私はその姿を見送りながらふと思い出した事がある

『俺も…食われたんだった…』



…それは夏も近づいてきた季節…

…それは村はずれの森の中…


始まりは村長からの依頼だった

この森の奥深くを根城にする化け物を始末してくれとの事…


遠征途中に立ち寄ったその村…

暴龍討伐の為

王都から派遣された選りすぐりの騎士団と冒険者達…


村長が言うには

何でもこの森を抜けると村人しか知らない秘密の街道がありそこを通れば暴龍の背後を突けるらしい


そして話し合いの結果

村人の言葉を信じ持参した地図に記されていないこの森を通る事を決めた

聞けば何でも化け物は一匹らしい

ならばついで事で済むだろう

そんな思いで決まった筈だった


…筈だった…


まだ陽も高い中

遠征隊が全員森に入った瞬間辺りは闇に包まれ

気が付けば案内人の村人の姿は無く

百人近くいた隊の面々も一人、二人と消えていった

微かなうめき声と共に…


恐怖に支配された私は

仲間を捨てて一人森の奥へ走った


それからどのくらい走ったのだろう…

いつの間にか森を抜けた私は

安堵し来た道を振り返った


すると…

闇の中で消えた筈の仲間達の顔が木々の隙間から見えていた

ただ…

その顔にはゆっくりと舞い降りる粉雪が被っている


…雪…

雪?

確か今は初夏の筈

そう思い辺りを見回したその時…


その少女は立っていた

今と同じ様に一糸纏わぬ姿で

透ける様な白い肌に蒼い瞳

銀色の長髪に

薄桃色に咲かせる2つの先端

邪魔になる様な繁み等一本もない


その少女は…

そのあられもない姿を隠す事もなく

私の前に立っていた


私は魅せられた

気が付けばその裸体に手を伸ばし

本能のままその肢体を味わおうと襲いかかろうとした


その刹那…

私の記憶は失われていた…


そして通り過ぎる何かに触れられた気がして今目覚めた次第だった


しかし…

雪のせいか身体の感覚がない

だが不思議と寒さは感じない


その時私はさも当然の如く自覚した…

首から下が無くなっている事を


…そして彼女に喰われた事実を…


忘れていたわけはない

ただ思い出しただけ…


木々の隙間からいまだ無言で見つめる仲間達と

同じ運命を自分も辿った事を…
















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