第36話 告白と拒絶

「す、好き……って……それは……」


「誤魔化すようなこと、言わないでよ。

 今のは……男の人として……好きってこと、だから」


 はっきりと、俺の目を見て舞花が告げる。

 彼女の頬は上気して、真っ赤に染まっていく。

 その表情を見ただけで、彼女の想いが伝わってきた。


「私……優雅がずっと傍にいてくれたら、なんだってがんばれる」


「舞花……」


 俺も舞花のことは好きだ。

 だが、その気持ちは友達としてであって、一人の女性としてみたことはない。

 だけど、改めて彼女という一人の女性を前の前にして思うのは――


(……やっぱり、可愛いよな)


 舞花は可愛くて、綺麗で、カッコ良くて……でも、弱いところもあって……だけど、そんなところも含めて、魅力的な女の子だってことだ。


「……私のこと、好きになってくれる可能性……ない?」


「それは……なくは、ないと思う。

 舞花は魅力的だと、思うから……」


「なら……女の子として、好きになってくれる可能性……ある?」


 ドキドキと胸が熱くなる。

 多分、一つでも道が違っていたら、俺は舞花を好きになっていた。

 だけど俺たちには一つ問題がある。

 その一つが、あまりにも大きな問題だった。


「……舞花の気持ちは嬉しい」


「うん……」


 今、伝えるべきなのだろうか。

 今でなくても……いや、今だからこそ伝えるべきこと――そう信じて、俺は口を開いた。


「だから一つだけ、正直に伝えたいことがある」


「……なに?」


 俺に身を寄せていた舞花が小さく首を傾げた。

 今から伝えることは、俺が舞花にずっと隠していたことだ。

 それを伝えることが舞花を傷付けることになると、思っていたから。

 だけど――俺に心からの気持ちを伝えてくれた彼女に、もう嘘を吐くわけにはいかない。


「俺は……アニメやゲームが好きなんだ。

 昔から今までも、これからもずっと」


 このことを今まで隠していたのは、舞花を誘拐した男がアニメやゲームを愛好していたからというのが関係している。

 当時、それは山ほどニュースで宣伝されていた。

 そのせいで舞花は二次元コンテンツが苦手になってしまった。

 いや――苦手という言葉が生ぬるいほど、嫌っているのだ。

 当時、アニメやゲームの話を舞花にするだけで、俺は気持ち悪がられ軽蔑するような眼差しを向けられた。

 それが今も俺のトラウマになっている。

 勿論、舞花に起こったことを考えれば、それも仕方のないこと。

 だから今までも、これからも伝えることはないと思っていた。


「……は?」


 舞花の瞳が、表情が、色を失った。

 何を言っているのか理解できない。

 そんな表情を浮かべて、身を強張らせた。


「……なに、言ってるの?

 こんな時に……そんな冗談、言わないでよ」


「冗談じゃないんだ」


「冗談じゃないって……なんで?

 だって――優雅は知ってるよね?

 私が誘拐された時、私が……あの変態に、何をされたのか……」


「だから……今まで言えなかった」


「……嘘、でしょ……優雅が……あんな、変態と一緒なんて……」


 舞花が強いショックを受けたように身体を震わせる。


「舞花……俺は確かにアニメやゲームが好きだけど……あいつとは違――」


「やっ――」


 舞花を安心させたくて伸ばそうとした手が、彼女によって弾かれた。


「っ……」


「ぁ……ゆ、優雅……ごめっ……あたし、あの……ごめんなさい」


 舞花の目から涙が零れて、この場を走り去っていく。

 明確な拒絶を受けて、今度こそ俺は、そんな舞花の背中を追うことはできなかった。

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