推しカノ〜俺の推しを描く彼女と作る、最高のクリエイション〜

つきのわ

プロローグ 推しがひらりと舞って、その日運命に出会った。

 高校の入学式――俺はその日、運命に出会った。

 それは理想。

 だが、ただの理想じゃない。

 これから一生、この出会いを超えるものなんてない。

 そう言いたくなるくらい、俺にとっては究極の理想のだったと言いきれる。


「ちょ、ま、待ってくれないか……!」


 誰かに声を掛ける時、震えたことなんて今まであっただろうか?

 感動や興奮、焦り……自分でもわからないくらいの感情が一気に押し寄せてくる。


「……?」


 振り返った少女の顔を俺は見つめる。

 三つ編み、眼鏡、化粧っ気も全くない。

 敢えて地味を装ってるんじゃないかとすら思える女の子。

 だけどこの子は――間違いなく女神だと思った。


「これ……君が描いたのか?」


 すれ違った時に、ノートの中から一枚の紙が落ちた。

 その、なんてことない一枚に描かれていたのは、目を奪われるほど魅力的なイラストだった。 

 頭の中に数多くの物語が描き出されて、俺を幻想の世界へと落としてしまうほどの。


「っ――!?」


 俺が差し出したイラストの描かれた紙を、少女は慌てて取り返す。

 少し頬が上気していた。

 まるで秘密を見られて照れてしまっているみたいに。


「なあ、どうなんだ? キミ……なのか?」


 思わず肩をぎゅっと掴んでしまう。

 だが、この想いを止めることができない。


「ちょっ……な、何を……」


「教えてくれ。……知りたいんだ、キミのことが!」


「ち、近い……! 近いわよ!」


「教えてくれるまで、俺は離れない! 絶対に離れないぞ!」


「か、描いた、わよ――私が描いた!」


 この子が……この絵を……やっぱり、そうなのか。

 全身が戦慄する。

 衝撃に心が震えた。


「……女神なの?」


「は?」


「女神なの!?」


「いや、聞こえてるわよ! そうじゃなくて、見てわかるでしょ! 人間よ!」


「いや違う! キミは――俺の最高を更新してくれた女神様だ!」


「あ、あなた、何を言ってるのさっきから……大丈夫?」


「いや、ちょっとダメかもしれない。

 好き過ぎる想いが溢れて止まらない!」


 自分が何を言いたいのか、まとめきれない。

 いや、だがこの出会いをこの場限りにしたくない。

 俺はもっともっと、彼女と話してみたい。

 彼女の描く絵がみたい。

 だから、


「頼む……俺と友達になってくれ!

 キミの描く絵を俺は――もっと見たいんだ!」


 入学式が終わり。

 生徒たちがいなくなった学校の廊下に、俺の100%の本心の叫びが響いた。


「って、……え!? ちょ、ちょっと――」


 が、俺の話を聞き終える前に、彼女は逃げるように彼女は廊下を走っていく。

 俺はただ、それを見送ることしかできなかった。

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