7話 違和感のある朝、男らしくない顔や体の僕

「さぁて、今日もバイトあるし、いい加減……って、くすぐったいよぉ」

「きゅいー」


ひとしきりモフっちゃってから、構い過ぎて嫌われるか持って思って顔から離そうとしたら、飛びついてきたおまんじゅう。


バランス崩してそのまま押し倒される感じに……軽いけどね……ぽふって、もう1回あったかい布団の中に。


「……二度寝しちゃうから起きるよ」

「きゅい……」


なんだか懐いてくれてるのは嬉しいんだけどね……動物と遊んでると1日が終わっちゃうからほどほどにね?


それからも首元から離れたがらないおまんじゅうを優しく離してやって、布団から体を起こしての違和感。


「あれ。 髪の毛……こんなに長かったっけ?」

「きゅい」


そういえば起きたときもなんか顔にかかる髪の毛が多い感じがしたし、枕にぽふってなったときもふぁさってなってた気がする。


「?」


何となく気になった毛先を手に取って眺めてみる。

……まだ櫛を入れてもいないのにすべすべ。


それになんだかやけにつやつや……ううん、きっと最近忙しくて気が付いてなかっただけなんだろう、うん。


良い匂いがするのもきっと気のせいだろう。

そういう勘違いって良くあるもんね。


「あらおはよう、ゆ……ず…………」

「あ、おかあさぁん、おはよぉ……」


僕の声が聞こえたのか、廊下からお母さんの声。

思わずあくびしちゃった。


今朝も元気らしく、普通に立っているお母さん。


「くぁぁ……」

「………………………………」


お母さんがこんな朝から起きていられるのにもびっくりだし、髪の毛梳かして顔にうっすらお化粧してるのも数ヶ月ぶり。


なんか昨日からすごいし、僕も嬉しい。


「お前の母ちゃん、見たらひと目で分かるな!」って昔からみんなに言われる程度には似てるお母さんの顔が、最近になく元気……なんだかびっくりしてる?


「?」


「……う、ううん……」

「そう?」


何かを言いたさそうだったけど、僕とおまんじゅうを交互に見て……すすすっと廊下に消えた。


「……どうしたんだろ」

「きゅい」


「……………………………………」


……何だか違和感あったから、手元に視線を落とすと。


「……ひと晩で成長……するんだね」

「きゅい!」


昨日は本当におまんじゅう仕様だったおまんじゅう。


頭からおしりまで20センチくらいだったそれが、今朝にはその倍くらい。


これくらいあるとちょうど抱っこしやすいよね……感覚的には、抱っこするのも恐る恐るな子猫から丸々した大人の猫になった感じ。


モンスターってすごい。

食べたのにんじんくらいなのに。


あ、そういえば僕の魔力的なのが供給されるって……だからかなぁ。


体毛もお肌も真っ白だし、あいかわらず猫と犬と……馬か何かのぬいぐるみ混ぜたみたいな見た目なのは昨日から変わってないけどね。


ほんと、何のモンスターなんだか。

頭のイボも気になるし。


まぁ元気そうだし、見た感じには普通に懐いてくれてるみたいだし、何故か昨日よりちょっと重い程度だから怖くはないけど。


「……今日は午後からだから、朝ごはん食べたらお役所行こうね」

「きゅい?」


この子の生態がまだ分からないけど、昨日の感じだとかなりおとなしくって、普通に僕のそばで座っていろんなものを興味ありげに眺めたり、そうかと思ったら首をグリンってして僕をじっと見上げてくるだけ。


気性が穏やかだと飼いやすいから嬉しいね。

あ、でも、甘えんぼすぎるとちょっと大変かも?





「……やっぱ、伸びてる……」


鏡を見た僕は、どう見ても伸びてる髪の毛を見て……困った。


なぜか時間をかけて梳かしたみたいにすべすべさらさらになってる髪の毛は、前は目を隠すくらい、横は昨日のお風呂みたいに胸まで、後ろ髪も背中に乗る感じになっている。


なんでこんなにしっとりしてるの……?

汗、かいたわけじゃないのに。


「……成長ホルモン?」

「きゅい……」


僕の言葉に反応したわけじゃないだろうけど、なんだかため息のついでみたいな鳴き声のおまんじゅうは、おとなしく洗面台に載って僕を見ている。


……この子、ほんと人懐っこい犬とか猫みたいだなぁ。


「……しょうがない」


洗面台の扉を開けて、お母さんの髪留めを……前髪を抑えるように留めておく。


これつけて学校とか行くと「あー! 女子だー! 星野のヤツが本物の女子になってるー!」とか、囲まれていじめられたものだけども、今はバイトだけの生活だし平気でしょ。


「……なんか、昔の写真のお母さんみたい」

「きゅい!」


お肌の調子なのか髪の毛の調子なのか、普段よりもお母さんに似た僕の顔が鏡に映っていた。


「……………………………………」


触ってないのに「整えてる?」って光宮さんからよく聞かれる眉に、ハンバーガーとかを1口で頬張れない小さな口。


その周りは剃ったことのないつるつるで、最後に行ったのは中学の真ん中くらいだった床屋さんでも「柚希君、本当に綺麗なお肌してるねぇ」って褒められたほっぺ。


みんながニキビばっかりだった中ひとりだけこうだったのも、また当時の同級生たちのいじめのネタになってたっけ。


「せめてヒゲが生えたらなぁ……もうちょっと男らしくなれるのに」

「!?」


おまんじゅうっていう生きものがそこに居るからか、なんだかひとりごとがぶつぶつと出る気がする。


顔を洗おうとふと手元を見ると……やっぱり目と口を開けているおまんじゅう。


……良く分からないけど、このモンスターはこういう生態なんだ。


そう思っておこうっと。


目と口をあんぐりと開けながら、僕の手の動きとかをじっと眺めている姿……なんか笑えてくるし。





「……じゃあ、何かあったらすぐ連絡してね」


「だから大丈夫よぉ。 何かあったらお医者さんに連絡するから、ゆずは気をつけてお役所に、ね?」

「……ん」


玄関で二言三言……こんなのは年に何回もない見送り。


「おまんじゅうちゃんも、いざとなったらゆずのこと、お願いね?」

「きゅいっ!」


「ふふ、まるで言葉が分かるみたい」

「頭良いみたいだもんね。 どんなモンスターか分かれば良いんだけど……」


そろそろまた中敷きを変えないと踵が痛くなりそうなくらいすり減ったスニーカーを履いた僕は、お母さんが抱いていたおまんじゅうを受け取る。


「……………………………………」


「あらあら、やっぱりゆずに懐いているのねぇ」

「……昨日も今朝も、おっぱい吸われた……ひりひりする……」


「ゆずのお母さん力かしら?」

「もう、お母さんまで……」


お母さんから手渡されたおまんじゅうは、僕の胸に顔をうずめてじっとしてる。


「……かわいいなぁ……」


「……ゆず?」

「うん?」


昨日よりも両腕にフィットする感覚でほわほわしてた僕に、ちょっと心配が含まれてるお母さんの声が降ってくる。


「……ううん、何でもないわ。 ゆずこそ生活が不規則なんだし、違和感があったらすぐ言ってね」

「? うん……僕も今日は普段より元気だから大丈夫だけど……」


……やっぱりお母さんの様子が変。


帰りが早かったら、かかり付けのお医者さんのところ言って伝えとこっと。



◆◆◆



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