第82話 とあるおとぎ話
俺たちはガーラル湖ほとりにある集落にたどり着いた。名前も無いほどの集落だ。
請けた依頼自体は沈んだ城の調査ではあるが、実際にはそれだけじゃないらしい。どうやらこの集落では、とある問題が発生しているようだった。詳しくは集落の長である、ウーラさんとやらに聞くのも依頼の内容ではあったので、俺たちは早速ウーラさんの家へと向かった。
場所は依頼書の裏に書いてあるし、小高い岡の上にあるし、さほど広くもない集落だから迷うことなく俺たちは家に到着出来た。
「ウーラさん、冒険者ギルドから依頼を請けて来ました」
俺はそう言ってウーラさんの家のドアをノックした。すると、一人の歳を取った男性が扉を開けてくれた。
「君たちが沈んだ城を調べてくれるのかい?」
その男性が俺にそう尋ねてきた。どうやら、彼がウーラさんみたいだ。俺はその言葉に対してこう答えた。
「ええ、ただ、それだけじゃないと聞いています」
「そうなんだよ。この集落、変わったところがあるのだが、わかるかい?」
実は集落にたどり着いてから、大きな違和感を持っていたので、これに関してはすぐにわかった。
「ええ、若い男性が一人もいませんね。女性は子供もいるくらいなのに、男性は一人も」
そう、すれ違う男性は皆、高齢。女性は勿論高齢の方もいたが、子供も、中年の人もいた。集落なので、多数の人に会った訳ではないが、明らかに男性だけは年齢が偏っている。それはすぐに気づいて、アリアたちとそんな話をしていたのだ。
「実はそうなんだよ。かくいう私もこう見えてまだ20代なんだよ」
「え? どういうことです?」
ウェルさんは明らかに高齢。でもまだ20代だという発言に俺は少し驚いて聞き返してしまった。
「ここ数ヶ月前の話だ。ガーラル湖に沈んだ城が発見されたのは。それから段々と集落の男性が行方不明になっていき、突如、歳を取った姿で発見されるのだよ。かくいう私もこんな姿になってしまってね」
それってどう考えてもおとぎ話の浦島太郎じゃん……カメでも助けたんじゃないか? ってカメは俺の背中にいるのだから、俺はカメを助けてるのか? なんて考えが頭をよぎった。
「へ、へぇ……ちなみに行方不明になってる間の記憶とかは?」
「もちろんないよ。そして女性には誰一人としてそれが起きてないんだよ」
「なるほど」
なんて言葉を返しているが、もう俺にはこの事態が浦島太郎にしか思えない。返事なんかほぼ上の空だ。
「私たちは数ヶ月前に発見された沈んだ城に何かあるのではないか、と考えてね、依頼を出したんだよ。この集落には冒険者ギルドが無いので、一番近くにあるベネザの街に行って、依頼を出した、という次第なんだ」
「うらし……ウーラさんが直接行かれたんですか? ベネザの街まで?」
危ない危ない、つい浦島太郎って言うとこだった。人名を間違えちゃうのはダメだよね。
「ええ、男はもう年寄りしかいないし、歳を取ったとは言ってもこの集落の長は私だからね。このままにしておく訳にもいかないし、集落の蓄えは私が管理してるから、私が行ったという訳だ」
「大体分かりました。りゅうぐ……沈んだ城が発見されてからの異常事態、だからその城に何かあるんじゃないか? という依頼なんですね?」
危ない危ない、またつい言い間違えるとこだった。ってか絶対竜宮城だよね。その城。乙姫とか絶対出てくるでしょ。
「ええ、その通りだ」
「じゃあ俺たちは早速調べてみますね」
「はい、是非そうしてくれると助かるよ」
どうしてそうなったのかはわからないが、今、この集落にいる若い男性は俺一人になってしまっている。なるべく早く解決しないと次のターゲットは俺になる可能性がありそうだ。そう思った俺はウーラさんの家を後にし、ガーラル湖へとすぐに向かったのであった。
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