第68話 対抗心

「でも、水の精霊と契約できた方と知り合えてよかったですね」


コトリ、とティーカップを置いて、レオナルドさんがそう微笑みながら俺に話しかけた。目の前に座るのは、俺。そして左右にアジュールとクリムゾンが座っている。アリアはアジュールの服を買いに行ってもらっているので、今ここにはいない。


「え、ええ。俺はあいにく、でしたが。このアジュールは、俺たちと一緒に旅をしたいとのことで、運が良かったです」


俺は肩を竦めてそう返す。少しの苦笑を浮かべつつ。

が、もちろん嘘だ。アジュールと契約しているのは俺なんだから、俺も水の魔法を使おうと思えば、当然使えるだろう。

が、それは許されないらしい。アジュールが語った理由は、アジュール自身が使った方が強力な魔法が使えるから。まあ、それは理解できる。が、それは建前。本音は分かってる。単純に具現化していたい。一万年以上暇だったから。ただそれだけ。クリムゾンと全く一緒の単純な我儘が理由なのだろう。


「そうじゃゾイ。水の魔法はこのロリBBAが使うんじゃゾイ。あるじ殿が使う必要なんかないんじゃゾイ。全部任せるがよいぞ」


「オレも火の魔法なら任せるんだZe!」


「あら、クリムゾンさんは火の魔法を使えるんですね。二人も魔法を使える人がいらっしゃって、ケントさんたちは凄いですね」


左のアジュールがぺったんこの胸を張ってそう答えれば、右のクリムゾンが豊満な胸を張って、そう続いた。両手に花? 見た目は・・・・クリムゾンも綺麗だし、アジュールも可愛い。美少女だ。アリアとどっちが美少女か? と問われると俺には甲乙つけがたい。年齢は若干アリアの方が上に見えるのは間違いないのだが。ま、まあ、本来の年齢はアジュールの方が断然上なのだが。

しかし、両手に花だなんて、この状況、そんな綺麗なもんじゃない。仮に一億歩譲って花だとしても、猛毒を持ってるのは間違いない。いや、激臭かもしれない。どっちにしろ存在しているだけで、迷惑が限界突破している。

が、レオナルドさんはそんなことを知らない。単純に興味からか、こうつぶやいた。


「どんな魔法を使えるのかしら」


「全ての湖を干上がらせたり、この世界を海の底に沈めたりできるゾイ」


「オレだって、世界を焼き尽くすくらい造作もないZe!」


「ブフォッ!」


とんでもない返答をする二人の言葉に、俺は口に含んだ紅茶を吹き出してしまった。そして当のクリムゾンとアジュールは、俺を挟んで睨みあっている。対抗心剥き出し! といった様子で、だ。


「ちょ、ちょ、ちょ! ちょっと待って!」


「はい?」


焦った俺はそう言って、グイっと二人を俺に引き寄せた。レオナルドさんはどうしたのかしら? といった表情だった。

そうして俺は二人に小声で話しかける。


「言いたいってのはわかるが、もうちょっと控えめにしてくれ! 例え、事実だったとしても!」


「なんでじゃゾイ?」


「そうだZe! 間違ったことは言ってないからNa!」


俺の言葉に二人ともきょとんとしている。確かに二人ともそれくらいはできるのかもしれない。が、どうやら俺の言ったことが理解できないようだ。


「そうなんだけどさぁ。困るんだよ。不信に思われるのは。アジュールだってクリムゾンだって、今まで存在すら知られなかったんだぞ? ウンディーネやサラマンダーが最上位、って世界線だ。そいつらが使える魔法が、この世界の常識なんだよ。せめてそれくらいにしておいてくれないか? 実際は使えるのだとしても、さ」


と俺が頼むが、二人とも釈然としない顔をしている。が、俺には伝家の宝刀がある。ここぞとばかりに俺は、それ・・を抜くことにした。


「だったら、しょうがないなぁ。契約を……」


「わ、わかったZe! 勿論、言う通りにするZe!」


俺が何を言おうとしているのか悟ったクリムゾンは、若干食い気味に俺の言葉に従う意思を見せた。


「どうしたんじゃ? 急に、バカ竜クリムゾンらしくないゾイ?」


「オレは契約を破棄されたくないからNa!」


「な、なん……じゃと……?」


クリムゾンの返答を聞いたアジュールは、ギギギ……とまるで油が切れた機械仕掛けの人形のように、ゆっくりと俺の顔を見上げた。青ざめた表情をしている。そんなアジュールに対して俺は、わざと満面の笑みでゆっくりと一つ頷いた。


「と、当然じゃゾイ! あ、あるじ殿の言う通りにしないワケないゾイ! ま、前のあるじ殿の時も、同じだったんじゃし、全然出来るゾイ」


急に焦った様子で、俺の指示に従う意思を示した。前のあるじとやらも同じようなことは言っていたようで、まあ、それは当然だと俺は思った。


「よし、じゃあ座りなおしていいぞ」


と二人に告げて俺は椅子に座りなおした。それを合図に二人とも緊張した様子で椅子に座りなおしたようだった。


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